まじめに、ぶんせき。
地面に置かれた一枚の紙。
それに描かれた魔法陣が、紙の大きさを超えて床に広がる。
そして、魔法陣から湧き出た腕が、ゆっくりと、ゆっくりと。
地面を掴み、這い出てくる・・・。
「むー。ゆかに置かれると、はいあがらないとでれないから、ちょっとたいへん。」
「あ、シロちゃん、こんにちは。いらっしゃい。」
「こびっとさん、おはよー。ちょっとまっててね。もーちょっとででられる。」
・・・・
「むー。やっとでれた。
このまえかりてたほんかえすね。」
「あっ、はい。お預かりしますね。
これが今回のぶんの本です。お渡しします。」
「ありがとー。
こんどからは、でぐちはかべの下のほうにたてに貼っておいてね。そのほうがでやすそう。」
「はい、場所変えておきます。」
「えっと、ここは前回と同じ町だね。
うさぎみみのひとのおみせではなししよーか。」
・・・
「にゃー。やっぱり、ここのごはんはおいしい。
おさけもおいしいし。」
「おいしいですね。ここは人間以外の種族でもあまり怪しまれないのでよく通ってます。」
「それじゃ、しつもんどーぞ。」
「えっと、私たちが探している場所について質問します。
場所の名前では無理だったみたいなので、特徴について質問させてください。」
「それはいいほうほうかもしれないね。
名前は知らなければどうしようもないけど、特徴ならある程度候補を絞れそうだし。
それじゃ、そこの特徴をひとつ言ってね。
言葉が通じるかわからないから、まとめてだとよけいわからなくなるかもしれないし。」
「それでは、まず一つ言わせてください。
そこは、人口が10万人以上の街です。」
「ひこー?なんだろう、たぶんつたわってないね。
10万より多い、はわかった。なにが10万より多いのかがわからない。
別の言い方にかえたりできる?」
「えっと、住んでいる、人、10万より多い。」
「それならわかる。
すんでるひと、10万より多い、だね。
ひと、っていうのは、人間族のことかな。2本足のことかな。
まあどっちでもいいか。けつろんかわらないし。
住んでいるひとが10万を超えるというなら、普通の街の作りでは無理だと思う。
光と闇とか表と裏とか象徴となる属性を2つもっている街なのはほぼ確定するね。
属性が単独の街だと、6万人くらいが限界でそれを超えると破滅と制約の神に滅ぼされるって言われてるから結界で色分けする必要がある。
2のほかに6とか36とかもあるけど、そっちは結界を構成する難易度が高すぎるし。
でも、そんな街は存在しないと私は思う。」
「存在、するはずだと思うんですが、存在すると考えるのには無理がありますか?」
「むー。
2つの結界魔法陣の重ね掛けで10万人を守ると仮定すると、1つで5万人以上守れる結界が必要。
その規模だと、結界維持するのに必要なコストが、1万人守れる結界の100倍以上。
結界作る人の実力とか、設備とかにもよるだろうけど、少なめに考えても魔力量換算で1日1千万FPくらいかな。1つ維持するのに。2つなら倍以上必要。
だから、完全に不可能とは言わないけど、ほとんど不可能。生贄とかでカバーできる量でもなさそうだし。10万人守るために10万人の魔力を絞りつくすっていうのもおかしいし。
それに、そんなの作れる技術を持ったヒトが存在するなら、他の街だってもうちょっと強い結界作れてるはず。
この町の結界とか、すごく柔らかい感じだし。」
「すごく柔らかいんですか?」
「らー。かなりやわらかい。
わたしでもやぶろーとすればかんたんにやぶれるくらいだね。」
「白ちゃんの魔法はすごく強いみたいだから、強い結界でも破れそうな気がしますけど・・・。」
「むー。そうかも。
でも、実際弱そうなのはたしか。
次の特徴かんがえてみよう。つぎのおしえて。」
「あ、はい。
その街には、迷宮があります。」
「その街には、迷宮がある。合ってる?」
「はい。合っています。」
「むー。迷宮に入ってる人のことも『住んでいる』に入るのかはわからないけど。それを考えてもさっきの『10万人』が成り立つのは難しいかな。
迷宮の中は、独自の法則で動いてるから、迷宮の中のモンスターとかをなんとかできれば、町の結界に負担をかけないで生活することは可能。
でも、迷宮があるなら、2つの結界を作る方法は使えない。
町を守る結界が1つなら、私が知ってる範囲で最上級のでも6万人は守れるけど7万人は守れない。
そのレベルでも、構成難易度は『旧世代の遺物とか神器級のアイテムを大量に使えばなんとか構成できるかもしれない』ってくらいだし、維持に必要なコストも桁外れ。
だから、それを大幅に上回るものは想定するのは無意味だと思う。
だとすれば、1つの結界で10万人住んでいるというなら、常に3万人以上の人が迷宮に入っている計算になってしまう。
結界2つ、以上に不自然だから、これも無理じゃないかな、と思う。
だから、その情報通りの物を探すより、情報の信頼度を考え直したほうが良いと思う。
本当に、1000パーミル(100パーセント)信じていいものなのかどうか。
本当のことを伝える時でも、わざとわかりにくい表現を使ったりする種族もいるからね。
相手の種族、相手の立場などを考えるとか、単純な文面だけじゃない解釈の方法が必要なんじゃないかな。たぶん。
一応、無理に成り立つ構成を考えるなら、『六芒星の形に町を作って、その中央に瘴気溢れる迷宮がある。
その瘴気を結界で浄化して逆に結界のための魔力として転用』、かな?ものすごく無理があるけど、一応実現不可能ではない、かもしれない。
迷宮があるだけの街ならいくつか知ってるけど、どれも小さいし。」
「ものすごく無理があるんですか。
具体的にどんな感じで不具合があるか、というのはわかりますか?」
「らー。よそうはできる。
人間族なら、たぶんほとんどの人が魔力酔い起こして調子悪くなる。
瘴気っていうのは、浄化しようとしてもある程度臭いは残っちゃうし。
そして、魔力に適応した人がまほーつかいに目覚めるかも、ってかんじかなぁ。
でも。10万人も住んでいるところでも、ほとんどの人が調子悪くなってるなら、ふつう引っ越して人が減るんじゃないかな。
それと、結界の構成の難しさが、神様でも連れてこないと無理ってくらいに高くなる。
だから、もし探すとすれば、どこかの神様の神話が残ってる町かな。
私の予想では、『その町の情報が間違っていて、10万人住んでいる街は世界のどこにも存在しない』だと思うけど。
ながくしゃべったからつかれた。そろそろかえるね。
質問の数は前回もらったぶんで間に合ってるから大丈夫だよ。」
「はい、ありがとうございました!」
「最後に、私の言葉もどの程度信じるかは自由だよ。
『嘘はついていない』とは言ったけど、それだけだし。
嘘じゃなければ本当だ、ってわけでもないし、本当だから役に立つ情報、とも限らないし。
役に立つ情報を聞き出すための質問は、自分で考えてね。
それじゃまたこんど。」
「あ、はい、お待ちしています。
・・・嘘じゃないから本当だとも限らない、本当だから役にたつ情報とも限らない、か…。」
コビットさんがほとんど相槌打ってるだけで終わってしまってますね・・・
今回白ちゃんは嘘をついていません。
白黒の白からの『ヒント』には嘘『は』ありません。