コロシアムで魔法教室
カジノの裏口から出て、ゆっくりと正面のほうに歩いていく・・・。
カジノ正面近くまで歩いたとき、話しかけられる声を聴いた。
「あれ?この前会った子よね。こんにちは。」
「み?
うさぎみみのひとだ、おひさしぶりー。」
「よう、ゲームセンター見に来たのか?」
「いぬみみのひとも、おひさしぶりー。」
「おう、ひさしぶり。」
「ころしあむのげーむやりにきたー。
カジノの中にあるんだよね?」
「お、おう、まあ確かにあるけどな。
おじょーちゃんじゃカジノには入れないと思うぜ。子供だし。」
「こどもだけど、ぼーけんしゃだからはいれるんだよー。ほら。ぼーけんしゃかーどある。」
「いや、それ子供用のカードだろ。」
「いえ、それ、『2級』のカード・・・。
Bランクの冒険者と同じ扱いよ。言うまでもなく大人あつかいね。カジノにも当然入れるわ。」
「はぁ?B級だぁ?マジで?
B級っていったら、1パーティーあるかどうかで町が滅びるかどうかが決まるくらいのランクだろ?」
「マジもマジ。大マジよ。
何人いるかで町の発展度が目に見えて変わってくると言われてるわね。」
「み?そーなんだ。しらなかったー。」
「・・・冒険者カードって、偽造とかはできないんだったよな?」
「ええ。不可能らしいわね。
って、そんな話してる場合じゃないわね。
失礼いたしました。カジノ『ラッキーストライク』へようこそ。」
「お、そーいえばそうだな。
ラッキーストライクへようこそ。」
「むー。『よーこそ』ははじめて。
どんな返事したらいい?」
「えっと、特に返事はいらないんじゃないかしら。
店員がお客さんに言うセリフだから。」
「そーなんだ。
それじゃ、中に行ってくるねー。」
「行ってらっしゃい。
幸運を祈ってるわ。」
カジノ内、「VRバトルコロシアム」前。
(ぱらぱら、ゲームの説明書をめくっている)
「なるほどー。「別空間戦闘システム」を再現したゲーム機、なんだね。
その周辺も含めて聖域扱いになってるから、伏兵の心配もあんまりしなくていいみたい。
うん、これなら少し安心かな。」
「それじゃ、コイン入れて、ろぐいん。
店内対戦っと。」
人工石の床がどこまでも広がる空間に転移した。
まわりには、いくつかの等身大の人形が設置してある。
ログインした状態の姿は、無個性な印象の人間の姿になっている。
「むー。キャラ設定してないでログインしたからしかたないけど、人間の体かぁ。
なんか、すごく違和感あるなぁ。
まあエルフ型の姿なんか使用禁止になってそうだし、これは仕方ないか。」
しばらく待つと、正面、20メートルほど離れたところにぼやけた人影が現れる。
人影はだんだん輪郭をはっきりさせ、やがて三角にとがった帽子をかぶってローブを着た男性の姿をとる。
「三角帽子、か。
なにかの宗教的か魔法的な意味があるのかもしれないけど、私には読み取れないみたい。
『聖数を刻む服』ににてないこともないけど、あれは多人数で装備してこそ意味がある装備だし。
魔法展開の補助と考えるなら特異性は充分にあるから効果的と言える、かな?
むー。でも召喚魔術とか契約魔術とかじゃないとあんまり意味はなさそうだなぁ・・・。」
「あ、もうログインしてた。
お、お待たせしました!」
「み?
ごめんね、ちょっとかんがえごとしてた。
まほー、見てほしいって言ってた人、でいいんだよね?」
「あっ、はい。そうです。
あなたが『エルフちゃん』ですか?」
「らー。えるふだよー。
それじゃ、さっそくまほーで攻撃してね。私に。」
「え!?」
「まほーの威力しらべるなら、自分で当たってみるのが一番。
私の魔法防御がどのくらいかも実験できるから好都合だし。
たいせんげーむみたいなものだから、遠慮なくいつもの威力でだいじょーぶだよ。」
「いや、でも攻撃魔法ですよ!?」
「らー。知ってるよ。
だから、私がどのくらいダメージ受けるのかで威力を測る。
逆に、まほー攻撃も防げないような人に教わるなんてこともないでしょ?」
「えっと、魔法を防ぐのって、普通重戦士とかですよねっ?」
「むー。そこからか。
口で説明してもしかたないね。
とりあえず、撃ってみて。話はそれから。」
「そ、それじゃ、いつも通りに、ファイヤーボールを撃ちます。
本当に良いんですよね?」
「本当にいいから、撃って。
いつも通りに、だよ。」
「・・・行きますっ!」
両手で持った杖を高く掲げ、体内から練り上げた魔力を杖に集中させる。
杖の先は淡く光り、集まった力の強さを示す!
「ファイヤーボールっ!!」
叫びとともに杖を勢いよく振り下ろすと、杖から火の玉が出て、エルフを襲う!
「にゃー。」
開いた手を伸ばし、火の玉を受け止めるようなしぐさをする。
いや、実際、火の玉は手に当たる一歩手前で止まり、『受け止められた』ことがわかる。
「けいさんどーり、ふせげた。
このくらいなら大丈夫みたいだね。
とりあえずこの魔法は潰しておくね。握り潰しっ。」
手を握ると、火の玉は光を失い、ゆっくりと消えていく・・・。
「無傷っ?
防御魔法とかじゃないですよね今の!?」
「らー。まほーとまでは言えない、もっと基本の、魔力防御。
かなり弱いまほーしかふせげない。」
「魔法を鍛えると弱い魔法は通用しなくなるというやつですよね。
でもさっきの魔法を防ぐほどの防御はふつうできないはずですけど。」
「さっきのが防げない程度なら、魔力防御なんて名前では呼べないと思うよ。
物理ではできないところを実現できるのが魔法の長所なんだから、物理で解決できるなら物理のほうが速い。
防御だって、壁の後ろに陣取るとかそーいう方法でもいいわけだし。」
「えっと・・・
僕の考えていた常識とはレベルが違うことは理解しました。
僕がさっき使った魔法は、『かなり弱い魔法』の領域でしかなかったわけですね。」
「むー。ざんねんだけど、かなり、じゃなくて、すごく、かな。
詠唱破棄で唱えてたけど、魔力の練り方が甘くてかなり無駄になってる、宣言した魔法名と魔法の目的が合ってない、省略した詠唱の部分を補完する経験と知識が足りてない。たぶん正式な呪文唱えたことないよね。あと間違った情報が大量に混入してる。
あと目指すイメージが複雑すぎる、そのわりに支払ってる代償が少ない。装備や設備などでの補助がほとんどできてない。魔法に対する信仰が足りない。他にもいくつかあるけど、大きな理由はそのくらいかな。」
「たしかに、そこまで違っているなら、『すごく弱い』になっちゃいますね・・・。」
「むー。じっさい、ひどいとおもうー。
どうしてあのやりかたで、魔法が暴発しないで出てるのか、不思議なくらい。
魔法覚えた時の魔導書とか、しっかり読めばもーちょっと良い呪文作れるよね?」
「えっと、魔導書の文字は全然読めませんでした。
開いたら魔法が使えるようになっただけです。」
「み?
そーいえばあれって、古代言語で書かれてるんだっけ?
人間の人には読めないか。
それじゃ、見本を見せるくらいならできる。
ひとつ魔法見せてもらったぶん、こっちもひとつ見せるってことで。
的の人形あるんだね。あれに撃ってみるよ。」
「はい、お願いします!」
「それじゃ、同じくらいの条件ってことで、動作での補助はあり、詠唱破棄の魔法名のみで、さっき使ってた魔力量はだいたい127くらいかな?
杖は使わなくてもいいか、重いし。素手でやる場合ってことで。
説明しながらゆっくりやるよー。
まず、魔力を軽く集めながら、心の中で火をイメージする。」
上を向けて軽く開いた両手に、それぞれ火がともる。
「魔力節約するなら、周りから魔力を集める感じにイメージ。
今回のマップでは魔力ほとんど集められないと思うけどね。まわりが人工石だし。
杖無しで属性が火の場合は、両手にそれぞれ魔力を集めて、火の魔力に変えてから合わせたほうが良いかな。
杖を使うなら、使う魔法の種類に合わせた杖を持つとかなり有利。ただし他の魔法を使いにくくなるものもあるから状況しだいだけど。
杖の場合、魔力を集めるとかはある程度補助してくれる物もあるけど、やっぱり集めるイメージすると威力が少し違ってくるよ。」
両手を前に伸ばし、ボールを両手でつかむような形に構え、2つの火を重ねて、炎に変える。
「ここで魔力を少し追加してやると無駄が少なくなるよ。
最初の2つの火は準備に使うだけだから火力はあんまり関係ないし。
てきどに魔力を追加した後、撃つためのポーズを決める。
こう、なんとなく勢いよく飛んでいきそーだなーって感じに。」
重ねた炎を右手の先に移動し、右手を開き、左手で右腕を支えるように構える。
「ここで最後に。飛んでいくイメージを追加してやるとできあがり。
オリジナル魔法なら、目的にあった名前をてきとーにつければいい感じ。
行くよー。火葬!」
爆音とともに火柱が上がり、人形を焼き尽くす・・・。
「にゃー。まあまあの火力かな。」
「な、なんなんですかあの威力っ!?
あの人形、魔法防御かなり高いはずなんですけどっ!」
「み?
自分で使った魔力量127、周りから集めたのが300くらい?
そしてイメージを単純化して、「燃やせ」ってだけに指定。
対象を「人の形をした物」に限定。
それと、魔力集める時に魔力の属性を揃えて、魔力属性と矛盾しない程度に魔法名決める。
あと、魔力の注入のしかたを上手にやれば、あのくらいはできる。
だいたいそんな感じかな。」
「それでも魔力量400ちょっとなんですよね、それであんな威力が出せるものなんですか・・・。」
「むー。そういわれても。
魔力100以上使って攻撃するなら、このくらいはできないと意味がないと思う。
それに、普通に武器でたたいたほうが良いくらいな威力なら、たたいたほうが良い。
今回の魔法は、かかる時間も長いし、実用性があるかと言われればビミョー。実戦なら最初に狙われるだろうし。
そんな感じで、便利と言えない性能だから、逆に強化しようとすればかなり強化できる感じ。」
「えっと、さっきの魔法教えてもらうとかは、無理、ですよね。」
「らー。そうだね。もーちょっと実力付けてもらわないと、あぶなくておしえられない、かな。
さっきあなたが使ってたまほーくらいなら、もともとの威力が少ないから大失敗しても少し焦げるくらいですむ。
でも、今使ったまほーで大失敗したら、自分を火葬することになっちゃう。
外の魔力取り入れる魔法はコントロール失敗すると自分の魔力じゃ抑えられなくなるし。
自分の体調とか周りの空間魔力濃度とかで魔力の練り方調整しないと、自爆しちゃうし。
だから、自分で改良できるよーになるまでやめといたほうがいい。
基礎トレーニングだけにしといたほうが良いかも。
実力がある程度上がれば、なんとなく調整できるようになってくはずだし。」
「はい!基礎トレーニングすれば、あれくらいのができるようになるかもしれないんですよね。
やる気が出てきました、ありがとうございました!
えっと、お礼したいんですが、このコロシアムって、アイテム渡したりできないんですよね。」
「むー。べつにわたさなくていいよ。
まほーいっこみせてもらったぶんいっこみせただけだし。
それじゃ、もどるねー。」
コロシアムから出て、カジノに戻る・・・。
「み?
そーいえば、基礎トレーニング教えるの忘れてた。まあいいか。気になったらまた来るかもしれないし。
変な魔法だったけど、他の人の魔法見るのも勉強になるなぁ。やっぱり実際に見るとどこがおかしいのかとかわかりやすいし、自分のを改良する参考になる。」
獣人族は共通語の敬語がかなり苦手です。でも他の種族もそのことは知ってるので問題なしです。