子供冒険者協会3
仮眠室のふとんで目を覚ました。
「むにゅ、おあよー。」
「おはよー。まだ夕方だけどね。」
「おはよう。
白ちゃん、図書館の床で眠ってたのよ。
無理しないで、早めに寝床に行って寝ないとだめよ。」
「らー。きをつけるー。」
「さて。
これから何しよか。
まーもうすぐ夜になるし、あんまり時間かかることはできないけど。」
「えっと。
このまえよんだほん、こどもぼーけんしゃきょうかいに、のうひんしてきたい。」
「あれ、しょちょーが買うって言ってたんだよね?読み終わった本。
直接持っていけばいいんじゃないの?直接取引なら手数料とかもとられないしさ。」
「むー。
ちょくせつとりひきでいいなら、さいしょから、わたしにわたすひつようないよ?」
「そうよね。
『偶然手に入れた本』を、『偶然見つけた依頼』で納品する、という建前が必要ってことかしら?」
「らー。
あのじけんをしらないひとのばあい、ぎゃくにふるそうにみえないから、かちがわかりにくい。
でも、しょちょーは『ぐうぜんにも』おっきなとしょかんのしょちょーだったから、『そのじつりょくで』かちにきづくのです。
・・・というかんじ。」
「ああ、たしかに、偽物でそれっぽいこと書くことだってできそうだしね。
あの図書館丸ごとだったから古い内容なんだろーなーって思ったけど、1冊2冊で持ち込まれたら、ただの変な内容の本ですまされそう。」
「らー。
じっさい、ほかのひとにたかくうれるほんは、そんなにおおくないとおもう。
かうひとのしゅみにあわせてほんをだせばたかくなるかもだけど、さがすのたいへんだし。
まほーじんのないようをせつめいしたうえでとしょかんごとうるなら、たかくうれるとおもうけど、それをしたくないから、しょちょーはわたしにゆずったわけだし。」
「なるほどー。
たしかに、150年前の本が貴重、って言われても、それにお金出すかどうかは別問題だよね。
個人だったら『興味ない内容の貴重な本』、なんてのは誰かに譲るくらいしか使い道ないし。」
「らー。そんなかんじ。」
・・・
3人で、駄菓子屋の地下、子供冒険者協会へ移動。
「あら、シロちゃん、いらっしゃい。
今日も草取りしてくれるのかしら?」
「きょうは、このいらいで、ぜんかいのうひんしたぶんのせいさんしてもらいにきました。」
『依頼、図書館に置く本を譲ってほしい』
『報酬、本のレア度、状態などによって変わる』
『依頼人 帝国中央図書館所長』
「はい。それじゃ精算金額確認するわね。」
帳簿をめくり、依頼の情報を探し出す・・。
「あら?
別室に案内するように、って書いてあったわ。
奥の部屋でしか精算できないみたい。なんでかしら?」
「どーだろう?
おくでまってればいーの?」
「そうみたい。
こっち来てもらっていいかな?」
「らー。
おくのへやいきます。」
受付カウンターの裏にあった扉から奥に入ると、大きなテーブルがある応接室のようなところに出た。
テーブルの上には、お茶菓子が入った皿が置いてある。
奥には、もう一つの扉がある。
「少し待ってれば奥から担当の係員が来るはずだから、ここでお菓子食べながら待っててもらっていいかな?
私は受付に戻らないといけないから、失礼するわね。」
「らー。いただきまーす。」
「奥ってこんな風になってたんだね~。」
「この扉、前回来た時はなかったような気がするんだけど・・・?」
「にんしきそがい、のまほーかなにかかかってたんじゃないかな。
かくすのって、けっこーかんたんらしーから。」
「そーなんだ。
いや、扉隠すのは簡単じゃないでしょ、こんな大きなものを。」
「あいてむぼっくすみたいに、ないところからものだすのにくらべれば、あるものをかくすなんて、まだまだふつう?
あ、このおかしおいしい。どこでうってるのかなー。」
「あー、そう言われてみればそう、かも?」
「あ、きょうだすぶんのほんだしてなかった、だしておこう。
あいてむぼっくすー。よいしょっと。」
何もないはずのところから、本を出して積み上げていく・・・。
「うん、たしかに、これにくらべれば、扉隠すなんて普通の範囲だねぇ・・・。」
奥の扉から、長髪の女性が入ってきた。
「お待たせいたしました。
前回納品していただいた本の精密鑑定は無事完了しています。」
「さっきのいらいに、ついかでここにつんでるほんのーひんします。」
「はい。お預かりします。
今回の追加分に関しては、前回と同ように、まず簡易鑑定を行い、その鑑定結果によってある程度の金額で仮精算させていただきます。
精密鑑定後に確定した金額に納得いただけた場合、残りの金額をお支払いして買い取り成立となります。
納得いただけなかった場合、仮精算のときの金額の返却によって買取りのキャンセルが成立します。
ここまでは問題ありませんか?」
「らー。もんだいなしです。」
「それでは、少々お待ちください。
簡易鑑定と、鑑定する本の預かり証の発行を行います。」
積み上げられた本をざっと眺めて、メモに何かを書き込んでいく・・・。
「簡易査定額、23シルバーとなりますが、よろしいですか?」
「らー。よろしーです。
ぜんかいのぶんはいくらになりましたか?」
「前回納品分は、精密鑑定の結果、合計で766シルバーと20チップになりました。
簡易査定額が120シルバーでしたので、買い取り成立の場合、残りの646シルバー20チップお支払いします。」
「らー。それでだいじょぶです。
かいとりおねがいします。」
「ありがとうございます。
それでは、この袋が前回納品分の買取り額の残り、646シルバー20チップ。
そして、こちらが今回納品分の簡易査定額、23シルバーになります。」
どこからともなく2つの袋が机の上に現れている・・・
「ありがとー。
『回収』。」
言葉と同時に、2つの袋は姿を消す。
「今回の買取りで、子供冒険者ランクが10級から6段階昇格して、4級になりました。
5級を越えたことで、冒険者協会の登録証への切り替えが可能になります。」
「えっと、どっちのかーどもじっさいのらんくはおなじなんだよね。」
「はい。
子供冒険者協会の登録証は、6級からは通常の冒険者協会のカードと同じように使えます。
4級カードなら、Dランクと同じ意味になっています。」
「それならあっちのかーどおおきいから、きりかえしない。このままで。
ちーさいほーがらく。それじゃかえりますー。」
「またのお越しをお待ちしております。」
「みーたん、はーたん、いこう。」
「あ、うん。行こう。」
「あ、はい、行きましょう。」
・・・
「たらいー。
これでわたしのきょうのよていはおしまいー。」
「なんかさらっととんでもない金額が動いてたような気が。
766シルバーとか言ってたよね?」
「らー。
ぜんかいは、けっこーたくさんだしたから、すこしたかくなったかんじ?」
「いや、しょちょーがあの図書館の本全部買う気だったら、いったいいくらかかるのかなーと。
ものすごい値段になるよね?」
「ふつーのほんだって、としょかんまるごとかおうとしたら、すごいねだんになるんだよ?」
「いや、まあそうなんだけどさ。
自分で報酬に出して自分で買い取るってどーなの?と思った。」
「むー。
よくわからないけど、みちのものにたいするりすくのかんがえかたが、わたしとはちがうかんじ?
だから、やっぱりよくわからない。」
「うーむ。私にもわからないや。」
「まーとりあえず、これでわたしもかじのでふつーにはいれるよーになった。
ごきゅうからは、おとなあつかい。」
「そーなんだ。知らなかったよ。」
「まあもともとこどもはかじのにはいれない、なんてきまりはないんだけどね。」
6級から冒険者協会で使えるのに、切り替えは5級からな理由は、
冒険者協会の初期登録時のランクがF(子供冒険者の6級に相当)なので、切り替える必要がないからです。
制度的にはFと6級は同じランクですが、少なくとも常識があるかどうかという点では、6級のほうが信用されます。