図書館牢獄終
帝国中央図書館、所長室。
入り口近くには、レポート用紙の束のようなものを持ったエルフの少女「白」が立っている。
正面奥の椅子には、いつも通り筋骨隆々としたドワーフ、「所長」が座っている。
エルフは用紙の束を持ったまま、魔力で空中に文字を描き、なにかを伝えている・・・。
その文字を読み進めるごとに、所長の表情は曇っていく・・・。
『・・・説明が長くなりましたが、以上をもちまして
第127辺境図書館「という名称で呼ばれていた建物」で、「一般住民2名」が魔法陣により呪縛され魔力を吸われていたこと。
そして、「今までに犠牲者が出たかどうかは定かではありませんが」、解呪を試み失敗した場合、死亡もしくはそれに準じる状態になる恐れがあったこと。
一般住民を脱出させるために魔法陣の一部を解除した結果、「現地にはその建物の内部に入れるものがおそらくいなくなっていること」の報告を完了します。
なお、魔法陣解除前の状態と、解除後の状態のログはこのファイルに保存してあります。どうぞ。』
「そのファイル、見せてもらっていいか?」
「らー。どうぞー。」
用紙の束を受け取ると、その束は姿を消して、『情報』として直接記憶に刻まれる。
所長の眉間のしわがより深くなった。
「なんかの冗談だったらいいなと思ったが、これだけ証拠があると否定もできんな。
・・・悪いが、少しだけ考える時間をくれ。」
「どうぞー。
たってるのつかれたから、すみっこですわってるね。」
「ああ。ありがとう。
そのへんの椅子とかは自由に使ってくれていい。」
「ありがとー。」
・・・
「なあ、図書館1つ受け取る気はないか?」
「み?」
「フォルスちゃん、たしか、冒険者登録してただろ。」
「らー。こどもぼーけんしゃきょーかいだけど、とーろくしたよ。」
「こちらの管理していない、『放棄されていた図書館』を、お前さんが『偶然にも』発見して、『放棄された後に誰かが仕掛けた危険物』を解除した。
その危険物を『モンスター』に例えれば、冒険者は戦利品を受け取る当然の権利を持つ。
戦利品は、第127辺境図書館と、その蔵書全てが妥当だと思うんだが。」
「むー。」
『つまり、あの図書館は「放棄した後に危険な状態になったもの」であり、帝国中央図書館としてはその後に出た被害については認知しないということにする。
そういう主張をする以上、あの図書館についての所有権を主張するわけにはいかない、ということですか。』
「まあそういう考え方もできるかもしれんな~。」
『今の状態のままだと、あの本たちは誰も読まないまま朽ちていくか、それとも古物商あたりに売り飛ばされるだけか…。
わかりました。「戦利品」として受け取りましょう。』
帝国中央図書館、仮眠室。
「そんなわけで、としょかん、もらってきたよ。
ぐーぜん、おなじかぎであくとびらになってるから、ぎょーむていけい、したい、だって。」
「図書館、って、もらえるもんなんだ・・・。」
「普通はもらえないと思うけど。
図書館1つを捨ててでも、無かったことにしたい事件が発生していた、ということね。」
「らー。そうみたい。
でも、あっちのひがいしゃをなんとかしようとかおもっても、けいやくしょとかそーいうの、まほーじんといっしょにきえちゃったから、だれがひがいしゃなのかわからないんだよね。わたしには。」
「うーん、そーなると、いつだれが図書館壊しに来るかわからない、くらいの状態、になるよね。
少なくとも、あたしだったら、そんな図書館に本を読みに行く気にはならない。」
「むー。
だれもよみにこないなら、ぜんぶこっちのとしょかんにはこんじゃうのもいいかも?
とりあえず、いまのところは、そとにつながるとびらをあかないようにかえて、あとほんのたいきゅうどいじとか、いろいろまほーじんついかしてきたほーがいいかも。
そんなわけで、すこしいってくるねー。」
「いってらっしゃーい。」
「いってらっしゃい。」
「・・・なんか、とんでもない規模の魔法陣が作られそうな予感しかしないなぁ。」
「偶然ね。私もそんな予感を感じてるわ。
まあ他から魔力を吸うような魔法陣を作る必要はないだろうから、その点は安心ね。」