図書館牢獄6
次の日の朝。
「こんかいは、みーたんとはーたん、るすばんしててね。
そのほーが、あんぜんだから。」
「わかった。いってらっしゃ~い。気を付けて~。」
「いってらっしゃい。気を付けてね。」
・・・・
交渉のため、白、サト、サラの3人だけが、辺境図書館入口の魔法陣の部屋に集まった。
白が持ったメモ帳に、文字が浮かび上がる。
『まず、条件の交渉の前に、予備調査をします。
サトさんが調査に協力してくれると、効率的な調査ができます。
参加しなくてもかまいませんが、参加しない場合、解決の確率が大幅に下がります。』
「はい、もちろん参加させていただきます。」
『ありがたいですが、内容を聞いてから返答した方がいいと思います。
私が悪意を持った悪魔だったら、これで1回死んでますよ?
まあ今からやるのは安全な調査ですけど。
調査の説明をします。
私が「始めます」と言った後、私が数字を言ったり考えたりするので、サトさんは、聞いた数字をそのまま復唱してください。
数字以外の言葉については復唱の必要はありません。
また、途中で行動の指示をすることがあります。その場合は指示に従ってください。
サラさんは待機で。』
「は、はい、いつでも大丈夫です。よろしくお願いします。」
『2回目です。指示の内容を確かめていない、無条件で従うような内容。
危機感が足りないと思いますよ。』
「も、申し訳ありません。」
『私に謝っても仕方ありません。自分の身は最低限自分で守りましょうね。
まあ私が言えることでもありませんが。』
「はじめます。いち」
≪2,3,4≫
「1,2,3,4」
「なな」
≪2,5,8≫
「7,2,5,8」
「いち」
≪サトさん、めをとじてください。≫
「1、閉じました。」
「そのままつづけます。ろく」
≪5,7,8≫
「6,5,7,8」
「なな、さん」
≪1,8≫
「7,3,1,8」
「ちょっとまほーつかいますね。」
ペンを持ち、空中に文字を描き始めた。
『ちょっと待ってとあの子は言った。
私は待とう、ちょっとだけ。』
『刹那の沈黙』
文字は細かい光の粒に変わり、白の体の周りに集まっていく・・・
「それではつづけます。よん」
≪2,4,8≫
「4」
「さん」
≪6,7,9≫
「3」
「ご、に、じゅうに」
≪4,1,7≫
「5,2,12」
「じっけんおわり。めをあけてください。」
「はい、目を開けます。」
「おつかれ、さま。」
「あの、今の実験で、なにかがわかったんですか?」
「こころをよむっていってもいろいろある。
こころをよめなくするには、そののうりょくのじゃくてんをつくよーなぼうがいをしなくちゃいけない。
こんかいので、とりあえずひとつ、ぼうがいのほうほうは、できるよーになった。」
『では、交渉に移りましょうか。
こちらが出せるものは、『サトさんの心を読んでしまう能力を、おそらく今の時点では封じられる呪縛』と、『この図書館からの脱出方法を知っているかもしれない者との接触の権利』です。
呪縛は、その性質上、一回外したら二度とつけられない物になります。
いつ心を読まれるかわからない、では、ほかの人の恐怖感は変わらないでしょうからね。
それと、今までにサトさんの能力を知ってしまった者の認識を変えるようなものではないので、『あなたのことを知っている人がいないような場所に行けばバケモノ扱いされないだろうな』、という程度の効果しかありません。
そこまではよろしいですか?』
「はい。問題ありません。」
「同じく、問題なしだよ。」
『まず、支払うものを決める前に、図書館の脱出に成功したら、解決したのが何者であろうと、ちゃんと報酬は払うと約束してください。
種族が、とか、宗教が、とかいう理由は受け付けませんよ。』
「はい、それはもちろんです。」
「うん、約束する。
こっちで仕事頼むわけだから報酬払うのはとーぜんだよね。」
『では、もし解決したら、成功報酬で、何を支払うかを決めてください。
サトさんは呪縛と脱出の両方が成功したとき、サラさんは脱出に成功した時に支払いが発生します。』
「んーっと。
払えるもの、かぁ。
お金なら10シルバーが限界。わたしは。
正直少ないとは思うけど、持ってないもんは仕方ない。」
「私は、50シルバーが限界です。」
『合計60シルバーですか。
支払うものはそれで本当にいいですか?』
「おっけー。」
「はい、それでお願いします。」
『それでは、「名約」の宣言をしていただいていいですか?
なんとかを解決した者になんとかを払う、という内容の文章で。』
「はい。
「我、第127辺境図書館職員「サト」の名とその誇りにかけて、
『私を『私自身の読心能力』と『この図書館の呪縛』の両方から解放してくれた者、もしくは者たちに、合計で50シルバーの報酬を支払う』と宣言する。
この宣言内容を曲げるとき、その名と誇りは泥にまみれるであろう。」
「りょーかい。
「我、第127辺境図書館職員「サラ」の名とその誇りにかけて、
『私を『この図書館の呪縛』から解放してくれた者、もしくは者たちに、10シルバーの報酬を支払う』と宣言する。
この宣言内容を曲げるとき、その名と誇りは泥にまみれるであろう。」
『はい、確かに確認しました。
では、まず心を読む能力を封じる呪縛をかけることにしましょう。』
「はい、よろしくお願いします。」
「呪縛、って言われるとなんか怖いもののよーな気がしちゃうね~。」
『使い方しだいですね。
たとえばモンスターとの戦いで敵を呪縛して仲間を助ける、という方法もありますし。
呪いに対して呪縛で対抗、という方法も存在しますし。
逆に、回復魔法で相手を傷つける方法、などというものも存在しますし。』
『さて。始めます。
サトさん、なるべくリラックスして、目を閉じてください。』
「はい。」
空中に文字が描かれる。
『あなたの耳には一人の妖精。
彼女は音を拾い集めて、そのままあなたに届けます。』
『伝言呪縛』
文字は細かい光の粒に変わり、サトの耳の周りに集まっていく・・・
「にゃー。」
「えっと、なにかの声真似ですか?」
「めをあけてください。」
『成功のようですね。
「声真似」と「目を開けてください」だけしか聞こえなかったなら、呪縛の効果があったということになります。』
「あ、ありがとうございます。
これで、バケモノ扱いされなくなるかもしれないんですね。」
『これだけではまだなんにもなりません。
問題は、図書館のほうですね。
図書館から脱出できないことには、「サトさんを知ってる人がいない場所」にも行けませんし、現状は変わりません。』
「はい、それでは、呪縛を解けるかもしれない方に紹介していただいていいですか?」
『紹介する、などと言った覚えはありませんが。
できるかもしれないのは私自身ですから、紹介はできません。』
「ええっ!?」
『呪縛の内容は調べてあるので、さっさと解いてしまいましょうか。』
「え、さっさと、って、そんな簡単に解けるの?」
「解けるかもしれない、なのに、簡単に解けそうな感じのいい方になってますね。」
『魔法陣の解除に連動する罠を、遠くに仕掛ける方法がないわけでは無い。
とてつもなく非効率だと思うけど、常識を超えた魔力を持っている者、または効率的な連動方法を知っているものがいれば、不可能ではない、かもしれない。
でも今回の場合は、考慮しなくてもいいはず。』
「なるほど。つまり、調べた範囲では危ないものはない、調べられない範囲に仕掛けるのはものすごく難しい、ってことでいいのかな?」
「らー。だいたいそんなかんじ。」
『正確に言うと、魔法陣の解除の仕方を失敗すると死ぬような目に合う、もしくは実際死ぬ罠はいくつも仕掛けられています。
今回は充分対処できるものだっただけで。』
「えっ!?」
「では、かいじょー。」
『消去魔法陣・七十二連』
「かんりょー。」
『消去完了しました。
これで、普通の図書館と同じようなものになります。』
「え、そんなあっさり?」
「解けたんですか?」
「らー。とけた。」
『あっさり、とおっしゃいますが、72個の魔法陣を同時に消さなくてはいけない、しかも消してはいけない魔法陣がいくつもあって、それは避けないといけない。
調査と仕掛けをしっかりとした結果、解けたんです。』
「なるほどー。
やっぱり解くのは難しかったんだね。」
「らー、むずかしいよ。」
「あ、そういえば、50シルバーお支払しないといけませんね。」
「そだね。
私は10シルバーか。」
『その前に、呪縛が解けたことを確認してみてください。
そこの扉から出られるかどうか。』
「・・・うん、行ってみる。
サトちゃん、一緒に行こう。」
「ええ。行きましょう。」
今までは、牢獄の鉄格子のようにびくともしなかった入口の扉。
おそるおそる押すと、あっさりと、開いていった。
「おお。ついに、開いた。」
「やっと解放されたのね。」
『おめでとう。』
「えっと。
それでは、今度こそ50シルバーお支払いしますね。
このポシェットにちょうど入れていたはず・・・。
はい、これでちょうど50枚です。」
「私は銀貨10枚、これでちょーど。」
『たしかに銀貨60枚受け取りました。
おつりお返ししますね。』
それぞれから2枚ずつだけ取り、残りを押し返す。
「え、2枚ずつ、4枚しか取ってないですよ?」
『私は60枚請求するとは言ってませんし。
私が設定した金額が4枚です。問題ありますか?』
「いや、問題はないよ。10枚払ったらお金ほとんどなくなるとこだったから助かる、ありがとー。」
「ところで、なんでこんな閉じ込めるよーなしかけ作ったんだろーね。誰かさんは。」
『昔、ここの職員さんが「寝てても働いたことになって、上司に怒られなくて、給料がもらえるよーにならないかなー」と、すごい魔法使いに言った結果がこれらしいです。
願いをかなえてくれてこうなった。
上司と連絡取れないから、怒られない。
客がほとんど来ないから、仕事中寝ててもわからない。
強制的に召喚されるから、家で寝過ごしてても遅刻しない。
給料は、どうして支給されるのかはわからないけど、支給されてる。
問題は、その魔法を維持するための魔力を、部屋にいる人、つまり職員から吸ってたことくらいですね。』
「かなりの問題のような感じがしますね・・・。」
「たぶん、まりょくがたくさんなひとだったから、まりょくをすわれるとどーなるか、とか、かんがえてなかったみたい?」
「あ、私も知らないや。どーなるの?」
「はんぶんなくなると、すこしつかれる。
ぜんぶなくなると、すごくつかれるらしい。
なくなったあとにむりにすわれると、こんどはたいりょくへってくらしい。
ふつーのまほうなら、まりょくなくなったじてんで、こうかなくなるそうだけど・・・」
「魔法陣の場合、使いっぱなしになっちゃうから、危ないってことですね。」
「らー。まほうじんのしゅるいによるけどね。
このまほーじんのばあい、きまったじかんいがいはそとにでれなくするこうかがついてるから、つかれたからそとにでる、とかもできない。
ふつうのひとなら、なんにちかはぜんぜんへーきだろうし、ていきてきにそとにでてれば、ちゃんとかいふくする。
でも、めんどくさがって、こもりっぱなしになっちゃうと、きづかないうちによわってきちゃうね。」
『さて、そろそろ失礼しますね。
眠くなってきましたし。
契約については、通常の退職届で解除の手続きが可能になっているはずです。』
「あら、帰っちゃうんだ、本当にありがとう。助かったよ。」
「ありがとうございました。
契約を解除した後は、どこか私を知っている人がいないところに引っ越そうと思います。」
「それじゃ、ばいばい。」
壁の魔法陣が、扉の形に変わる。
その扉を開けて、帰って行った・・・。
「みーたん、はーたん、たらいー。
まじめにはなすのつかれる、おやすみー。
くぅ。」
「おかえり~。無事でよかったよ。おやすみ。」
「おかえりなさい。そしておやすみなさい。また明日。」
牢獄というわりにいろいろゆるい条件だった理由はこんな感じでした。