図書館牢獄5
第127辺境図書館、書庫。
(ぱらぱらぱら、ぱたん)
「にゃー。よそうはしてたけど、あっちのとしょかんとはぜんぜんちがうね。ほん。」
「見たことない本ばかりあるわね。」
「そーだねー。
これ、内容を見ると、ものすごい昔の本ばっかりみたいな感じ。
外見の新しさを見た限りでは新しい本にしか見えないんだけどね~。」
「らー。
ひゃくごじゅねんまえから、いれかえ、してない?」
「それなら、今では貴重な本ばかりになってそうね。
一般の人が読んで役立つ情報が載っているかどうかはわからないけど。」
「ふるいじょうほうがほとんどだってことを、ちゃんとにんしきしてれば、やくにたちそうかも。
いまのきじゅんじゃおけないよーなほんもふつーにおいてあるし。
こーげきまほうのしょほ、とか、あっちのとしょかんだったらずっとおくのほうにしかおいてなさそーなものが、ふつーにおいてある。
このくに、むかしはいろいろとじゆうだったんだなぁ。」
「小説とかの本も、ほかでは絶版になってるものとかありそうだね。
まあ最終巻まで置いてなかった場合は、手を出さない方がいいだろうけど。
さすがに150年以上前の本の続きを探す、とか無理だろうし。」
「らー。それは、むりそう、だね。
それでも、いつもどおりはじからよむ。
それじゃ、ほんよみのつづきするね。」
「はーい。あたしももーちょっと読む。」
・・・
「そろそろかしら。
はやてちゃん、白ちゃん、時間になりそうだから、準備しましょう。」
「らー。じゅんび、する。できてる。」
「おっけー。
ふたりともこっちに来た場合、どーにかして、ふたりを分断させるんだったよね。
その後は、打ち合わせ通りに。」
「らー。
ふたりいっしょだと、なかまにきをつかっちゃいそうだしね。
ほんねで、はなすなら、ひとりにしないと。」
しばらくたってから、書庫入口の扉がゆっくりと、少しだけ開いた。
開いた扉の向こうから声が聞こえる。
「失礼いたします、サラです。
入室してもよろしーですか?」
「らー。よろし、です。」
「ありがとー。」
サラは書庫に入り、後ろの扉をしっかり閉めた。
「えっと、少し質問していいですか?」
「どうぞー。こたえられるものなら、こたえるかも?」
「・・・ミヤさんとハヤテさんは、扉の向こうの図書館の職員さんなんだよね?」
「らー。そーだよ。わたしはちがうー。」
「そうですよ。でも図書館についてのことは私たちよりも白ちゃんのほうが詳しいかもしれません。」
「向こうの図書館と連絡とったら、この状況解決できる人とか見つかったりしないかな?」
「『向こうの図書館には』、今いないんじゃないかしら。」
「あたしが知ってる限りでは、『向こうには』いないねぇ。」
「このじょーきょーといわれても、もんだいだらけで、どのもんだいをかいけつできるひとをさがしたいのか、わからない?
ぜんぶかいけつできるひと、だと、『あっちにはいない』だろーね。
ちなみに、『なにをいちばんかいけつしたいの?』」
「えっと。
この『強制的にバイトに来なくちゃいけない状態からの解放』、が理想。
それが無理なら、『職員としての仕事がある状態になりたい。』
ここって、本はなにもしなくても整頓されちゃうし、それ以前に勤務時間中は書庫に入れないし、お客さんはめったに来ないし、ヒマすぎるのよ。」
「なるほどー。
えっと。さとさんのほうにも、はなし、きいてくるね。
さらさんは、ここでまっててもらっていい?」
「うん、話し終わるまで待ってればいいんだね。」
「ありがとー。
それじゃ、いってくる。」
扉に手をかけ、力を入れる。
扉が、少しずつ、開いていく・・・。
「むー。このとびら、おもいね。」
・・・
「にゅー。
・・・やっとあいた。
さとさん、ただいまー。」
「お帰りなさいませ。
あ、失礼いたしました。5メートル離れます。」
「にゃー。ありがとー。」
「いえ、当然のことであります。」
「み?」
≪さっき、サラさんから話を聞いたんですが、お二人、何やら問題を抱えているらしいですね。
ひょっとしたら解決できるかもしれない者を知っているのですが、良ければ悩みを聞かせてもらえませんか?≫
「は、はい、それでは話させていただきます。
まず、おそらくサラが言っていた問題と同じだと思いますが、私たち2人はここに閉じ込められています。
1週間6日のうち1の曜日(月曜日)を除いた5日間、囀りの刻(6時)から目覚めの刻(10時)と、絆の刻(12時)から帰還の刻(16時)の間、この部屋から出ることができません。
もし出た場合でも強制的に戻されます。」
「らー。」
≪はい。たしかに、同じことを言っていました。
では、あなたの希望としては、『閉じ込められている状態から解放できる者を探してほしい』ということでよろしいですか?≫
「・・・サラのことは解放してもらえればうれしいですが、私のほうはこのままでもいいかな、とか考えたりもしています・・・。
町に戻っても、バケモノとか言われること多いですし、なんだかかなり嫌われているみたいですし。」
「み?」
≪バケモノ、ですか。
理由は聞いてもいいですか?
言いにくいなら言わなくても大丈夫です。≫
「初めて会った人と、少し話すとバケモノと言われたりすること多いんですよね。
話し方に何か問題でもあるんでしょうか?」
「むー。みみに、もんだいある。」
「耳ですか・・・?」
「らー。わたしのくち、みててね。」
「は、はい。」
「にゃー。」
≪今私は、なにかの動物の鳴き真似のような声だけを出しました。
そして今あなたに聞こえてあるであろうこの声は、言いたいなと考えているだけの文章です。
あなたの他の人は、こういうものを聞き取ることはできません。
そして、人間はしばしば「言いたいけどやめておこう」と判断することがあります。
言うのをやめたことに返事をされたら、普通の人間は気味が悪いと思うかもしれません。
まあ私なら「話すの面倒な時に便利かもしれない」程度の認識ですが。≫
「え!?
これ、他の人には聞こえてなかったんですか?
はっきりと聞こえるんですけど。」
「らー。」
≪そうです、ほかの人には聞こえません。
口が動いてないのに声が聞こえることに、疑問を感じたりしたことはありますか?≫
「子供のころは、疑問に感じたこともあったような気がします。
でも、いつのまにか、そういうものだと思っていた?
気付かないうちに、疑問に感じないようになっていた・・・?」
「むー。」
≪認識、常識自体に、なにかの干渉があるのかもしれませんね。
この世界は、スキルなどのデータによって実際の能力が変化するようになってますから、「ある種の能力を持つなど、特定の条件を満たしてしまうと、自分の認識、常識などの情報まで変化してしまう」、という可能性は否定できないかもしれません。≫
「み?」
≪さて、結論としては、
『バケモノとか言われる原因をなんとかできるとしたら、ここから脱出もしたい』ということでいいですか?≫
「は、はい。
どちらも解決できるなら、もちろん脱出したいです。」
「らー。」
≪なるほど。
では、今度は、サトさんとサラさんと私で、条件の交渉をしなければいけませんね。≫
「交渉、ですか?」
「らー。」
≪はい。
「解決できるかもしれない者を知っている」とは言いましたが、「紹介する」とは言ってませんし。
魔法陣の解除をしてもらうつもりなら、報酬の話は必要でしょう。
どういう原理で閉じ込められているかなどの仕組みをすべて見切っているわけでなければ、危険なものでないとも言い切れないわけですし、ね。≫