図書館牢獄
とある場所にある小さな町。
小さな、とはいっても、知らないうちに新しい住民が増えたり、逆に去っていくものもいる。そのくらいの広さはある。
その町から山一つ越えたところに、巨大な石造りの建物があり、その建物の外観には小さな扉が一つだけある。
その扉は押せば簡単に開くのだが、開こうとする者はいない。
もし扉を開ければ、その先には大きい部屋があり、部屋の正面奥には小さな城門、とでもいうような外見の扉がある。
大きさだけを見ると一つ目の扉と同じように小さいが、簡単には開きそうにない扉である。
左の壁にはなにかの魔法陣が描かれている。
右奥の角には、小さな商店の店番が座るようなイスとテーブルが設置されている。
テーブルには何か文字が書いてあるが、判読できる者はここにはいない。
そして、中央には長机とイスが2つ。
2つのイスには、受付係が座っている。
だが、彼女たちを受付係と呼ぶか、囚人と呼ぶかは人それぞれかもしれない・・・。
「先輩、今日もヒマですね~。」
「そうね~。」
「許可書持ってないと入れない図書館、って、何の意味があるんでしょうね~。」
「なんなのかしらね~。
まあ仕事は楽だって書いてあったのはその通りだったわね。」
「確かにラクではあるんですけど。
本が好きな人って募集だったのに、仕事はただの受付だとは思いませんでした。」
「そうね~。
あ、でも、退社時間のあとは図書館に自由に入れるから、本好きな人を募集するのは間違ってないと思うわ。」
「たしかに間違ってないんですけど、そうなんですけど、
誰も来ない図書館の入り口で、ずっとお客を待つ毎日。
この図書館の目的自体がなんか間違っている気がします。」
「そうねぇ。
でも、私がこの仕事始めた頃は、道を聞きにくるお客さんとか来たわよ。月に5人くらい。」
「おお、5人ですか?
先月の5倍もお客さんが。
それじゃ、図書館に入りに来た人、入れた人は?」
「ゼロね。」
「・・・この扉が厚すぎるのが問題だと思いませんか?」
「それは100年前くらいから言われてるそうよ。
金庫破りの盗賊とか、ハンマー使いの戦士とか、もちろん魔法使いや魔道士も。
破ろうとして、それでも破れていない、無駄に頑丈な図書館なの。」
「入れるのは職員だけ、って、なにかが間違ってますよね・・・。
そして、職員は次の職員希望者が来るまでが契約期間、と。
こんな呪われてるような職業だとは思いませんでした・・・。」
「まあ呪われてるんだけどね~。実際。
本が読みたい犠牲者、じゃない、職員希望者が来るまで、私たちは受付をつづけないとだめなの。
一人捕まると、どっちかが解放されるわ。ランダムで。」
「先輩、犠牲者のところ、真顔で言ってましたね。」
「本音だからね~。
お金はちょっとづつたまるけど、一日4刻(8時間)も一つの部屋にいなくちゃいけないなんて、拷問みたいなものよ。」
「休みも週に1回、1の曜日(月曜日)だけだから、他の仕事の人とは合わないですしね~。
休み時間に山一つ越えて町に戻る、ってのも無理だし。
まさか、150年も前の募集用紙がそのまま使われているとは・・・。」
「ああ、アレが呪いの根源よ。
燃やしても埋めても、どこかに現れるんだって。どこからともなく。」
「うわぁ。
そうだったんですか。」
「そうだったのよね~。
だから、事情を知ってる人は近寄ろうともしないわ。」
「そして、知らない者が時々引っかかる、というわけなんですね。」
「そーいうこと。
まあとりあえず、お金はたぶんたまるわよ。
おしゃれに気を使ってもしかたないしね。この仕事だと。」
「お金には困ってたから、その点はうれしいんですけど。
・・・あの魔法陣とかから責任者の人出てこないかなぁ。
契約解除とか給料アップとかしてくれる人が。」
「それはたぶん150年前から言われてる、と言おうと思ったけど、この状況で給料アップ希望って言う人は初めてかもね。」