11日目午後~夕方
地下1階、実験室。
二つある扉は、どちらも開け放たれている。
一つ目の扉と二つ目の扉の間の小さな部屋には、今までなかった魔法陣が追加されている。
そして、二つ目の扉の奥の大きな部屋で、エルフがなにかの作業を始めようとしている・・・。
「よんかしょにしまったざっそうは、まだたぶんへんかしてないだろーから、
きょうついかでとってきたざっそうをつかってれんしゅうすることにするか。」
『異空間の宝箱・開錠』
目の前の空間を両手でこじ開け、異空間の収納場所から実験道具を取り出す。
「ざっそうと、にゅうばちと、みずさし、ごみすてようばけつ、でいいかなと。」
乳鉢に雑草を少し入れ、すり潰す。
すり潰された草は、真っ黒になり、怪しいにおいを出し始める。
「まあこれはよていどおり。」
怪しい廃棄物をピンクのバケツに捨て、水差しの水で乳鉢を洗い、また雑草を乳鉢に入れ、すり潰す・・・。
「すりつぶす、すてる、あらう、すりつぶす、すてる、あらう・・・。」
「み?
みずさしの、みずなくなった。」
「しょくどうでもらってくればいいんだけど、とおいなぁ。」
「えっと。」
『この水差しがあふれるほどに、私は魔力を注ぎます。
注いだ魔力と引き換えに、誰かお水をくださいな。』
『無限の水差し』
水差しが一瞬淡く光り、その後水差しを傾けると、カラだったはずの水差しから、乳鉢に水が注がれていく。
「みずでた。
それじゃ、つづきー。」
・・・
「やっと、「すりつぶされたざっそう」かんせい~。
まあつかいみちはないんだけど。」
「あれでもやってみよかな。」
『こぼれたミルクがビンの中に。
壊れたツボが元の形に。
戻らないと人々は言う。
ならば我らはあえて戻そう。
こぼれたミルクを一滴残らずビンの中へ。
壊れたツボを寸分違わず元の形へ。』
『物質再生』
すり潰された雑草、緑色のそれが光りだし、その光が消えた時には、一本の雑草が残されている。
その雑草は、相当弱っていることが素人でもわかり、また、彼女の記憶力では「自分が刈った中に存在しなかった種類の草」であることもわかった。
「むー、やっぱりれっかがひどいなぁ。
でも、これは、つかえそうかも。
もどす、とかんがえると、つかえないけど。」
「まあとりあえず、せいこうりつあげるために、すりつぶしかたのれんしゅーをつづけましょか。」
「すりつぶす、すてる、あらう、すりつぶす、すてる、あらう・・・。」
「ただいまー。」
「白ちゃん、ただいま。」
「おかぁいー。」
「さてと。今日も晩ごはん食べた後に、魔力認識の訓練でも始めましょーか。
白ちゃん、ご飯行くよー。」
「らー!」
・・・
従業員用食堂。
4人用の席に3人で座って、食事中。
周りの席はやや混雑し始めているが、まだ空席は多少残っている。
(自分の手を見つめている)
「うーむ。
やっぱり、自分の魔力を見るってのは難しいねぇ。
全然わからないよ。出てるんだか出てないんだか。
魔力、あるとしてもほんのちょっとだろうしねー。」
「まだ訓練始めて2日目なんだし、焦るのはまだ早いんじゃないかしら。
あ、これもおいしいわね。」
(ぱくぱく)
「くんれんは、あるてーどやると、きゅうにせいちょうをかんじるときがある、とかなんとか。
だから、たぶん、そのうちできる、かも?」
「そだね。
そのうち急にできるようになるかもってことで、地道にやっておきますか。」
「そうね。
地道に、とりあえず白ちゃんの魔力文字が最後まで読めるようにがんばろうかしら。」
「わたしも、ぽーしょんつくり、がんばる。
とりあえず、あした、またざっそーとりにいってくる。」
「・・・えーっと。さすがに雑草でポーションは作れないんじゃないかなぁ。」
「すりつぶす、れんしゅう、ざっそうでもできる。
どーせまだまだできるのごみばっかりだし、ざっそーでじゅうぶん。」
「まあたしかに、ゴミになるとわかってるなら、薬草使うのはもったいない、かな?
薬草はけっこう安く買えるとは言っても、タダではないしねぇ。」
「安く買える、って言うほどでもないと思うわ。
訓練のために大量に消費するなら、一日で銀貨何枚かは覚悟しないといけないかも。」
「うわぁ、それは怖い。
うん、雑草で練習、いい方法だね。」
「らー。
たくさんつかっても、もったいなくない。いいほうほう。」
「それじゃ、食べ終わったら3人で少し掘りに行かない?
3人でやればかなりとれるでしょ。」
「いいかもしれないわね。」
「み?
てつだってくれるの?」
「うん、手伝いましょう~。」
「あいあとー。」
・・・
駄菓子屋の地下、子供冒険者協会へ移動。
「ここに来ると、この街にも子供もいるんだなぁ、って思うねぇ。」
「いないわけじゃないんだけど、普段あんまり見かけないわね。
職場が子供あまり寄り付かない場所だし。」
「子供冒険者協会にようこそ~。
あ、また来てくれたのね。
用事はもう終わったの?」
「こにちはー。
やることはぜんぜんおわってないです、でも、くさがもっとあるほーが、いいかんじ、でした。」
「こんにちは、私たち2人手伝い要員できてみたんですが、手伝いしてもらうとだめとかありますか?」
「こんにちは。
手伝いがダメな場合は、私たちも登録すればできますよね。」
「お二人ともこんにちは。
ええ。手伝いしてもらうのは大丈夫ですよ。
手伝う人のぶんは登録なしでも大丈夫です。
ただし、助っ人のぶんの作業量や作業内容の評価は『ある程度』ですが受注者に影響する、ということになってますので・・・
『もし半端な仕事するつもりなら、それぞれが登録して自分の評価を下げる方向で』お願いします。」
「なるほど、了解です。」
「了解しました。
『手伝う』なら、評価が下がりようがないくらいに完璧な仕事をしなくちゃいけないわけですね。」
「そういう気持ちでやってもらえると助かります。」
「了解です。」
「それじゃ、くさとりのしごと、ふたりにてつだってもらってさんにんでいってきます。」
「はい。
気を付けてね。いってらっしゃい。」
・・・
「それじゃ、始めましょか。
草を、きれいな形で持って帰った方がいいわけだよね。できればたくさん。」
「らー。
おおきいすこっぷでほったあと、ちいさいすこっぷでえらんでた。いままでは。」
「んじゃ、まずあたしら2人が、持ってきたスコップで掘っていくね。
白ちゃんは草を取って、土を戻す感じで。
ある程度やったら交代とか考えよう。」
「らー。」
「了解。」
「よいしょっと。
あ、手前のほうは土も柔らかい感じだね。
奥はどうなんだろ、少しだけ奥の方掘ってみる。」
「んー、奥に行けばいくほど、土が固かったり、草も頑丈だったりするっぽい。
ひょっとしたら珍しい草とかあったりするのかもね。」
「むー。
きにはなる、かな?
でも、いまは、しつがわるくても、かずいっぱいほしいから、かんたんなとこでいいかも。」
「なるほど了解。
それじゃ、頑張って掘るよ~。」
「らー!」
・・・
「そろそろ日暮れだね。」
「そうね。そろそろ片づけて帰りましょうか。」
「らー。
いっぱいとれた、あいあとー。」
当然ですが、『薬師スキルの上達速度』はちゃんと薬草を使って練習したほうがはるかによくなります。
他のことをいろいろ考えた結果、雑草で練習するのがいい、と判断したようです。