9日目(5)
所長室。
広い・・・広かった部屋には、頑丈そうなテーブルと椅子がいくつか。
最低限のスペースのほかは、書類や鉱石などが山積みになっている。
「さて。
最後の一日、いや、半日か。
これからの予定についての相談をするとしよう。
もう一人は、護衛のために残ってるんだな?」
「はい。
みやっちには残って待機してもらってます。」
「よし。
それでだ。
例の108刻後にあたるのが、夜明けの1刻前(4時)から、夜明け、つまり「囀りの刻」(6時)くらいらしい。」
「倒れてた時からって考えると、1刻前のほうに近そうですね。
あの時は、服着せて、ご飯食べて、とかいろいろやったあとに囀りの刻になったので。」
「なるほど。
それでは、1刻前までに別れのあいさつなどはすませて、囀りの刻までは待機だな。」
「りょーかいです。
・・・迎えが来なかった場合は、どうしますか?」
「囀りの刻になった時点で来なかった場合は、今回迎えは来ないと判断。
これからの予定について聞いて、できれば連絡が取れる程度の関係を確保、といったところか。
パニックになって暴走、とかの恐れもなくはないが、その場合はその場で臨機応変にだな。
結界やらで妨害しようとしてもおそらく無駄だろうし。
まあその場合は死ぬのは覚悟したうえでがんばれ。」
「え、ここの結界って、めちゃくちゃ強いはずですよね。
大魔道士でも破れないとかなんとか。」
「まあ大魔道士「程度」なら破れないけどな。
フォルスちゃんなら、魔力の100分の1も使えば破れるんじゃないか?」
「え・・・
大魔道士の100倍の魔力ってこと?」
「魔力量で考えると、少なく考えてその程度だな。
実際「大魔道士」ってたいして魔力無くてもなれるしな。
攻撃呪文をどの程度知ってるのかは知らんが、初歩の攻撃魔法でも持ってればこの街の結界なんて薄紙一枚と変わらんよ。
・・・見たところ体は鍛えてない、むしろかなりひ弱な感じだから、物理攻撃で沈黙させるという手もあるかもしれんが、
その場合ラストワード系スキルとか持っていたらこの街ごと消えることになるかもな。
まあ本格的に暴走した場合はどうせ街ごと消える程度のことは起きるだろうから、いざとなったらイチかバチかで試してみるのはありだな。」
「・・・いまさらですが、かなり危険な状態なんですね~。」
「いまさらだな。
まあ今のところ友好的な関係にはなれてるみたいだし、まあ運が良ければ大丈夫じゃないか?」
「それ、運が悪ければダメって言ってますよね・・・。」
日没の1刻あと。(20時ころ)
仮眠室の扉がノックされた・・・。
「み?
だれか、きた。」
「なんだろう?急用かな?
どちらさまですか~?」
「所長だ。どーせお前ら俺の名前覚えてないだろ。」
「そ、そんなことはないんじゃないかと思わないこともないですよ?
開けまーす。」
(がちゃっ)
「よう。そろってるな。
飲み会の準備ができたから、お前らも来い。」
「ずいぶん唐突ですね。」
「らー。びっくり。」
「明日の朝帰っちまう予定なんだろ?
それなら、今日は送別会という名目の飲み会だろ、当然。」
「名目で、って、言っちゃうんですね。」
「まあな。
ドワーフは適当な理由をつけて飲み会をする、っていう習性があるだけだ。
少し予算が余ったし、飯も良いのが出るぜ。」
「おおー。タダメシばんざい再び。
もちろん二人とも行くよね?」
「らー。おいしいもの、たべる。」
「白ちゃんが行くなら私も行きます。」
「よっしゃ、それじゃ地下十階に行くぞ。」
「ずいぶん降りるんですね?」
「あれだよ、飲み会で大騒ぎしても、それだけ深ければ仮眠室まで響かないってことじゃないかな?
つまり、大騒ぎする予定と。」
「まあそういうことだ。
遠慮も加減もいらん。飲み尽くす気でいいぞ。」
「おおー。ただ酒ならいくらでも、ってまあドワーフ程には飲めないけど、飲むぞー。」
「そりゃそうだ。ドワーフが酒飲みで負けるわけにはいかねぇ。
お前ら、行く前にこの指輪付けとけ。途中で倒れなくて済むから。」
「ああ、地下十階まで行くには装備もそれなりじゃないとだめなんですね。
・・・そこまでして、どうして地下十階に?」
「簡単にいける場所に酒を置いといたら、ドワーフが我慢できるわけがねぇ。それだけだ。」
地下十階、大食堂。
テーブル1つに椅子が1~4つの組み合わせで、いくつも設置してある。
そのサイズはバラバラで、人間が座るのにちょうどいいものから、高さ数メートルはありそうな椅子まである。
テーブルには、たくさんの料理と、大量の酒類が並べられている…。
「まあいろいろあるが、景気よく飲もう。
乾杯!」
「かんぱーい。」
「乾杯!」
「にゃー!」
・・・
(むぐむぐ)
「うん、お酒もだけど、料理もおいしいですね~。
これは例の女秘書さんがつくったんですか?」
「そうかもしれん。
調達は頼んだが、手段は指定してないから、作ったのかもしれんし誰かに頼んだのかもしれん。
まあ方法はともかく、かなり難しいものでもなんとかしてくれるから助かってる。」
「良いですね~。有能な秘書。
姿をめったに見れないのは残念だけど美人さんだし~。」
「まあそれは仕方ないな。
こっちに姿現すの、けっこうしんどいらしいから。」
「そーなんですか~。
お、あれもおいしそう。そんじゃ失礼~。」
「おう。またな。」
・・・
「なんだ景気悪い顔して。
まあ仕方ないかもしれんがな。」
「やっぱり最後になるかもしれない、と思うと、明るくはしにくいです。」
「うーむ。
まあ別れる時に良い顔はしにくいってのも気持ちはわかるけどな。
俺としては、別れた後、景気悪い顔だけ覚えられてる、ってのもつらいと思うんだが。」
「・・・そう、ですね。」
「まあ、二度と会えなくなっちまった後なら、景気悪い顔でも泣き顔でも我慢しないでするけどな。
会えてるうちは、良い顔しといた方が得だと思うぜ。」
「うん、たしかにそうですね。
もうちょっと良い顔できるようになったら会いに行きます。」
「おう。」
・・・
「よう、フォルスちゃん。
飲んでないみたいだが、酒嫌いだったかもしかして?」
「わたし、いたくに、20さいにならないと、おさけ、だめ。
だから、のまない。」
「ん?
エルフでその体形だったらどう見ても20は越えてるだろ?」
「そなの?」
「そーだろ。
って、自分で年わからんのか?」
「らー。しらない。」
「エルフってのは、一人前になるのに100年以上かかる種族だ。
20年や30年程度では見た目ほとんど変わらないから、耳を隠して人里に来た場合でも、ある程度の期間たつと違和感出てきて場所かえるらしいな。
だから、エルフの20はもっとずっと小さいはずだ。」
「なるほどー。だから、わたし、ちいさい。
ここでみる、にんげん、みんな、おおきい。」
「いや、人間にも小さいのいるけどな。
人間だと、15年か20年だったか?その程度で大人になるんだ。
ちなみにドワーフは30年か50年程度だ。
まあドワーフの場合は体形がなんとかじゃなくて鍛冶の腕前であつかいが変わってくるんだけどな。」
「ほー。それぞれ、ちがう。」
「そーいうことだ。
まあとりあえず飲んどけ。飲みやすいって言われてるやつもそろえてあるから。」
「それなら、すこし、のんでみる。」
「おう、ぐいっといっとけ。」
(ごくごく)
「むー。
あんまり、おいしくない、かな。」
「そ、そうか?良い酒のはずなんだがな。」
「あと、めもにかくけど、」
『薬を飲ませようとするのは良いけど、お酒に混ぜるのはお酒に失礼。
私に薬を飲ませたいなら、ストレートに言えばいい。』
「・・・すまん。」
『別にかまわない。
町の人の安全のため、でしょう。
この薬入りお酒も、地下10階も、この部屋の壁にしこまれてる魔法障壁も。
ただの送別会にしては人数のわりに準備が大がかりすぎて不自然です。』
「ああ。
いざというとき、被害者ゼロとはいかんだろうが、少なくするためには手段を選ぶつもりはない。」
『良い心がけ。
それじゃこの薬入りワインは、ほかの人は飲めなそうだから私が独占しますね。
それと、あとでこの部屋に毛布を1枚運んでください。寝るので。』
「・・・すまん、ありがとう。」
(ごくごく)
「むー。
まあかくしあじとかんがえれば、のめなくもない、かな。」