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新緑の魔女とその弟子

作者: けい

続くかどうかは未定です。

設定は考えてますが……とりあえず様子見ということで投下!

 うっすらと目を開けた時、視界に広がったのは白。その次に木材剥き出しの天井が目に入り、そして自分を覗き込んでいた一人の女。


「おはよう」


 女にしては低い声が、初めて聴くはずのその声が……優しく耳から脳へと染みこんだ。






 魔女は世界に5人いるという。何十年、何百年前からずっと変わらず言い伝えられている伝承。それはこの地域、国だけでなく、不思議なことに全世界で普通に伝承として言い伝えられてきている現実だった。

 いつの頃からか深い森に住み着いた女がいた。それが新緑の魔女。森に棲んでいるから深緑―――ではなく、その流れるような髪の色が新緑。深い緑ではなく、若々しく瑞々しい緑色の髪と瞳を持つ魔女だ。いつも黒いローブを着ているわけではなく、動きやすいようにと膝丈のワンピースと生成りのエプロンが標準装備。髪と瞳の色さえ除けば、どこにでもいる若い娘でしかなかった。

 そんな魔女の見た目は二十歳前後。詳しい年齢は聞いていない。何十年、何百年前から伝承に残る5人の魔女の一翼なのだから、想像を絶する年月を重ねている筈。時間の感覚すらないかもしれない。聞いたところで一笑されて終わりかもしれない。

 ただ本能が告げるのだ。

『女性に年齢を尋ねるべからず』


 自己紹介が遅れた。俺の名前は……リクト(仮)。年齢は……18歳(仮)。性別は男(仮ではなく!)。薄茶の瞳にこげ茶の髪。新緑の魔女の弟子をしている。弟子というか、言い方を変えれば小間使いだ。一通りの家事をこなし、時々魔女の手伝いをしつつ細々とした、けれど易しいことを教えてもらって暮らしている。家族は……いない(多分)。天涯孤独、なのかな?魔女の弟子になった経緯は、倒れていた俺を魔女が助けてくれたから。そして俺には―――記憶が無い。

 見事になーんにも覚えてなかった。気づいた時には魔女の家にいて、頭には包帯が巻かれていた。服は脱がされて下穿きだけになっていたのは、すごく恥ずかしかったけど、魔女は特に感情を顔に表すことも無く、淡々としたものだった。


「俺、あれ、服は!?」

「泥だらけだったから脱がせた。なにか問題でも?」

「え、あ、いや……アリガトウゴザイマス」


 初対面、初会話がこんな感じだった。眉も動かさない魔女だったけど、煌めく緑色の瞳の中には微かに揺らめく感情が見えた気がした。気がした……んだ。


「森の中で倒れていたから助けたんだけど」


 俺はこの時点で、目の前の女が魔女だっていうことに気づいてなかった。見たことも無い髪色の時点で不思議に思えって感じだけど、俺はその時になってようやく、何も思い出せない事に気が付いて混乱していたんだ。


「あ、あの……!」

「あなたから魔法の気配がする。なにか不調はない?」

「不調っていうか、あのその……俺、誰ですか……?」


 魔女は目を丸くして驚いていたようだけど、俺はその時になって漸く彼女の瞳の色が新緑の色だと知ったのだった。






「お師様ー」


 リクトと名を付けたのは魔女であり師匠。名前は教えてもらえなかった。好きに呼べばいいと言われたので最初は『魔女様』と呼んでいたんだけど(ものすごく嫌な顔をしていた)、正式に居つくことを決めたのちには『お師様』呼びに変更した(これも決していい顔はしていなかった)。ちなみに年齢は目算だ。


「お・し・さ・まー」


 お師様と俺は変わらず新緑の森に棲んでいる。北には高い山脈が連なっていて、その向こうは違う国なんだそうだが、俺にはよくわからない。東西南は見渡す限り森森森。人の気配など全く感じることのできない場所。それが新緑の魔女の住処だった。


「どこ行ったんだろ」


 それでも建っている家は人工的なものだし、食器もベッドも加工された調味料もある。決して人の営みから外れた生活をしているわけでは無いのだけれど、その供給方法はどうなっているのか、俺にはまだわからない。

 師匠である彼女の留守を守るのが俺の役目。と意気込んでみたはいいけれど、こんな森の奥まで人が来ることはないし、師匠の結界があるらしくて害意のある生物は家の近辺まで入れないようになっているんだとか。

 俺が行き倒れていたのを師匠が見つけてくれたのは、まさに奇跡なんだろうと思う。


「もう暗くなるのに、どこ行ってるんだか」


 家の前で仁王立ちして師匠の帰りを待つ。気分はすっかり年頃の娘の帰宅を待つ父親だ。師匠が何歳かは知らない。すごい魔女なんだろうっていうのも知ってる(魔法を目の当たりにしたことはまだないけどさ)。けど、見た目は美しく儚い女性なんだ。

 細いし、背は俺より頭一つ分は小さいし、声はちょっと低いけど聞き取りやすいし、艶やかな新緑の髪と緑色の瞳。そして淡い色艶の唇は綺麗だし、華奢なわりには……胸もあるし…………。

 俺の頭の中には、薄い寝間着に着替えたあとに、無防備に居間を歩き回る師匠の姿が思い浮かべられていた。夕べその姿を見た後、俺は眠れなくて夜中だというのに畑の手入れに走ったんだ。ぽかんとしていたけど、師匠は俺の奇行に何も言わず、用事が済むと自室に行って眠ってしまったようだった。


「だぁあーーー!!」


 まざまざと思い出してしまい、俺は頭を抱えて蹲った。記憶が無くても成人男性!そのあたりはの生理現象については理解してもらえると嬉しいです……。


「リクト!」

「へ?あ、お師さ―――うわぁっ」


 声が聞こえて顔を上げたのと、師匠が俺の肩を掴んで強く揺さぶって来たのはほぼ同時だった。がくんがくんと揺さぶられ、首が痛い。


「ちょっ、お、師、さまっ」

「どうしたの?気分でも悪いの?頭が痛い?体は大丈夫?体が冷えてるじゃない、いつから外にいたの」


 まさに矢継ぎ早に言葉を放つ師匠に返答する間を与えられる事無く、体中をぺたぺたとその細い小さな手のひらで触れてくる。頭、頬、首筋、肩、腕、胸、腹……。


「おおおおおお師さま!何もないです大丈夫ですからっ」


 それ以上先を触れられることに本能的に『待った!』をかけた俺は、その細い手を思わず掴んで止めていた。

 気が付けば俺と師匠は二人とも地面に座り込み、至近距離で見つめ合っているという姿勢。しかも師匠が俺の方に身を乗り出してきているので、傍から見れば俺が押し倒されているようにすら見えるだろう。幸か不幸か、この場には傍観者などいないため、この状態を誰かに見咎められることはないのだが。


「本当に?無理はしていない?」


 感情の乏しいその顔立ち。けれどその瞳の奥には、俺を心配してくれている光が確かに宿っている。

 それが、殊の外うれしい。


「無理はしてません。本当です」

「なら、いいけど」


 俺の返答に、師匠はほっと息を吐き出した。起き上がる気配を感じ、なぜか俺は掴んでいた師匠の手を離せなくて―――それどころか自分に向かって引っ張っていた。


「あ」


 当然、その小さな体はバランスを失くし重力のまま倒れてくる。手を掴まれていた師匠は体を支える術もなく、そのまま俺の腕の中に納まった。


「……」


 思わず―――そう、無意識に俺は師匠の体を抱きしめていた。細く小さなその体。サラサラとした緑色の髪が俺の頬に当たっていて、それが更に鼓動を早めている。

ドキドキした。

 けれどすごく、安心した。腕の中にその体があることが、すごく嬉しくて安堵したんだ。


「リクト……」


 師匠がもぞりと体を動かし、ゆっくりと顔を上げた。腕の中にいる彼女が、上目づかいで俺を見てくる……!潤んだ瞳。少し高揚したような頬の色。この威力は言葉にできるものではない。


「なにか、思い出した……?」

「え。なにが?」


 小さな問いかけに、俺は首を傾げた。師匠の問いかけの意味が分からなかったからだ。だが、その返答は師匠のお気には召さなかったようで、それまであった艶ある表情は一瞬で掻き消え、それどころか今まで見たことも無いような冷たい視線を向けられた。


「離しなさい」


 抱き留めていた腕をぱっと離すと、師匠はワンピースに付いた砂埃を軽く手で払い、そのまま俺の方など見もせずに家に向かって歩いて行ってしまった。


「え、あ、あ……ごめんなさいお師様〜!」


 その晩、俺が作っておいた夕食に延々とダメ出しをされ(いつもは小声で褒めてくれるのに)、夜だというのに隣接する研究塔の片付けを命じられた(せめてもの情けだと煌々とした明かりをつけてくれた)。

 けれど翌朝、寝不足の俺を見た師匠がちょっと後ろめたそうにしていたその姿は―――やっぱり可愛かった。


ご感想など頂ければ嬉しいです!

ソワソワ

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