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ペンギンとキジバト

「大学の友人に教えて貰ったのですが……」

 椎名がスマホを持って話し始めた。

「ん?」

 俺は日本酒を飲みながら聞いた。

「車にカーナビって付いていますよね? あれって最新情報のデータを入れるのって結構な金額かかるらしいんですよね」

「らしいね。知り合いも何年も古いデータのまま使っているって言ってた」

「ところがですね。今、スマホがカーナビになるんですよ」

「らしいね。無料でもかなり精度が高いって聞いたな……」

「しかも、カーナビと連携できるらしいんです」

「連携?」

「しかもそのアプリは他の連携アプリとも連携するらしくって……」

「ちょっと待て、よくわからなくなってきた……」

 世の中がドンドン進化しているのは実感しているが、なかなかついていけないんだよな……。


「例えばですね、ラーメンの美味しい店の連携アプリを使って、近所で評判のお店を検索するんですね。そして、そのデータをカーナビの連携アプリに送るんです。そこで、カーナビの連携アプリが位置を把握して、それをカーナビに送るって流れらしくって……」

「何となくわかってきたな……」

「大学の知り合いは、『近所で一番安い駐車場を探す』連携ソフトで行く先々の安い駐車場を探して、それをカーナビに送って車を止める場所を決めているそうなんですよ」

「凄いな。初めて行く場所でも、一番安い駐車場が見つかるわけだ……」


「一番いい魚を売ってる卸の場所を調べるアプリがあれば、すぐに買うけどね……」

 大将が笑う。

「他にも各地の観光スポットとか、水族館とか、温泉とか、うどん屋さんとか、水族館とか、蕎麦屋さんとか、水族館とか……」


「水族館で今度は何が産まれたんだ?」

 回りくどいが、椎名の目的は見えた。

「えっと……、ペンギン……です」

「いつ行く?」

「良いんですか?」

「大丈夫だよ。ってか、そのつもりだろ? で、明日? でも、原田さんに連絡取らないと……」


 その時店に誰かが入ってきた……。

「毎度! お、兄ちゃん。椎名とデートの約束か? 車なら明日使って良いからな」

 まるで今のやり取りを聞いていたかのような原田さんの言葉。一瞬で何もかも決まってしまった……。椎名はカウンター下で拳を固めてガッツポーズを取っている……。

「明日行くか?」

「ええ! 実はペンギンの赤ちゃんがフワフワの時期ってあっという間に終わっちゃうんです……」


「そういうわけで、原田さん、明日車お借りしていいですか?」

「ああ、構わないよ。あ、これキーな。それにしても、相変わらず兄ちゃんと椎名は仲がいいなぁ……。あ、椎名。今日は焼酎くれ」

「まあ、彼女には嫌う要素は何もないですしね……。俺にとっては、むしろ大歓迎って感じですよ」

「ありがとうございます。いつも付き合って頂いてありがとうございます」

 椎名が焼酎を原田さんの前に置いてから、ペコリとお辞儀をした。

「なんだ? 二人は付き合っているのか?」

 原田さんが言った。

「違いますよ! 私の行きたいところに毎回付き合って頂いているんです!」

 赤くなりながらも必死で言い訳する椎名。


「でも、椎名だって一緒に行く相手は誰でもってわけでもないんだろ?」

「それは……、そうですが……」

「選んでいただいて光栄ですよ」

 俺は丁重にお礼を言った。

「あ、もう、そんな……。やめて下さい。もうっ! 原田さんのせいで、変な感じになっちゃったじゃないですか!」

 一生懸命怒っている椎名も面白い。


「仲がいいで思い出したけど、先週くらいから俺んちの庭にキジバトがつがいで居着いているんだよ」

「キジバトですか?」

「ああ、公園とかにいる鳩を一回り小さくスリムにした感じなんだよ。『山鳩』っていう人もいるけどな」

 一同フンフン頷く。

「居着いたってことは産卵だろうから、卵抱えて十五日と、巣立つまでの十五日。併せて一ヶ月ほど居候させてやろうかと」

 原田さんは人差し指を立てて言った。


「そう言えば、去年の春だっけ? メジロが巣を作ったって言ってたよね?」

 大将が言った。

「ああ、可愛らしい鳥だから、今年も来てくれねぇかなと思っていたんだが、空振りさ。期待すると空振りなんて、どっかの球団と同じだよ!」


「で、時々玄関の塀の上に、二羽並んで座っているのな。何するわけでもなくジッとしているだけなんだが、何となく楽しそうなんだよ」

「巣はもうできているんですか?」

 椎名が聞いた。

「それが俺もよくわかんねぇんだよ。夜になるとどこかに行っちまうんだよ。多分隣の家だと思うんだが……。だから、巣は隣の家の木にあるのかなぁ……」

「じゃあ、昼間は何しにくるんでしょうね……」

「うん、よくわからねえが、今じゃ手を伸ばしたら届く距離まで近づいても、逃げようとしねぇ。決してなついている訳じゃないとは思うがな……」


「卵は二個生むし、食べるところ少ないけどキジバトは美味いよ。親子丼できそうだね」

 大将は意地悪な顔をして、椎名に言った。椎名だったら怒るに決まっているのに……。

「残念でした。日本では鳥獣保護法で、勝手に取ったり食べたりできませんよ」

「そうなのか? 食材にあるから大丈夫かと思ったが……。逆に一本取られたな……」

 頭を掻く大将。

「いえ、実は適当に言っただけです。詳しいことは知りません。毎回こんな話でからかわれ続けていますから、私だって学習しますよ」

 椎名はそう言って笑った。


「ありゃ、大将ダブルでやられたな……。椎名、成長したな!」

 原田さんが愉快そうに笑う。『お陰様で』と椎名が原田さんにお辞儀をする。原田さんには何度もやられたんだろうなぁ……。


「それにしても、美味いのかな? キジバトって」

 原田さんはまだ言っている。

「俺も使ったことがない食材だけど、フランス料理や中華料理では一般的な食材だよ」

「へぇ、そうなのか。大将は食ったことがあるかい?」

「いや、一度も食べたこと無いな。誰かが『料理次第』って言っていたから、食材としてはそれほど美味しいものではないのかもしれないね」


「あ、ありました。キジバトは狩猟しても良いけど、飼育はだめだって書いています……。本当かな……」

 椎名はスマホを読み上げた。

「殺しても良いけど、飼育しちゃだめってのも変な感じだな……」

 原田さんは言った。確かに言われてみれば……。

「食害があるんだよ。多分。農家が巻いた種を食べちゃうとか」

 大将が言った。

「あ、そうみたいですね。狩猟免許を持っている人なら、狩猟期間っていうのがあるみたいで、一日10羽まで大丈夫みたいです」

「じゃ、やっぱり俺たちが勝手にとっつかまえたらいけなかったんだな。勿論捕まえる気もないけど」


「ところで、兄ちゃん達は明日どこへ行くんだ?」

 原田さんが俺に聞いたので、俺は椎名に視線を向けた。

「前に行った水族館でペンギンの赤ちゃんが産まれたそうなので……」

「ほう、ペンギンの赤ちゃんか! 黒くてフワフワのやつだな?」

「そうなんです! 一度生で見たかったんです」

「早く行かないと、あのフワフワの時期ってすぐ終わっちゃうんだよな……」

「そうなんです! 原田さん、ペンギンに詳しいですね?」

「そりゃ、そうさ。さっき椎名が自分で言っていただろ?」

 原田さんは大笑い。椎名は真っ赤になった。

「ところで、今回も水着持参かい?」

 大将が笑う。椎名は更に真っ赤に……。


「もう! いろんな方法で私をからかうのはやめて下さい!」


「大将! 仇はとったな!」

 原田さんは笑いながら、大将に親指を立てた。大将も親指を立てている。

「椎名からかうのは、『弱いものいじめ』ですよ。趣味悪すぎです」

 一応俺はフォロー。だけど笑った。椎名だけはぷう、とふくれている。

「その『弱いものいじめ』っていうのも、ちょっと引っかかりますけど……」

 椎名は更にふくれた。


「わかった、わかった。二人で楽しみにしているのをちょっとやっかんだだけだ。悪かったよ。お詫びに、椎名のお気に入りのウイスキーがあるんだろ? 一杯ずつおごるよ。ついでに俺にもくれ」

 原田さんが言った。

「お言葉に甘えて、私達の分はたっぷり入れますから!」

 椎名はそう言って、大将の顔を見た。大将も諦めたようで笑って頷いている。

 早速椎名は氷を削りだした。いつからできるようになったのか、見る見る綺麗な球状に仕上げて、『松亀十七年』をナミナミと注いだ。そして、その一つを俺の前に置いた。

「かんぱ~い!」

 うん、相変わらず美味しい。実は、俺の部屋にも買い置きがあるんだよな。次の日、早速買ったもの。恐らく南ちゃんの部屋にもあることだろう。湖仲がこの酒を知ったら、スーパーヤスヤスで置き始めるかもしれない。そうすると近場で手にはいるようになるな……。よし、次に出会ったら、飲ませよう……。


「こりゃ、美味いな……」

 原田さんは驚いた表情で言った。

「あはは、気を付けてよ。この間は月野さんがフラフラになって帰ったんだから……」

 大将は言った。

「何? べっぴんさんが? 良いな! この酒……なんてな」

 原田さんは笑った。


「でも本当に飲み口がいいので、気が付いたら結構キてたりするんですよ」

 椎名はそう言って、グラスをぐいっと傾けた。相変わらずの飲みっぷりだ。でも、めちゃくちゃ酒の強い椎名だから、このくらいへっちゃらなんだろうな……。

「度数は……? あれ、普通だな。四十三度か……」

 原田さんはポケットから老眼鏡を出し、装着してから松亀のボトルを持ち上げていろいろ確認し始めた。

「四十三度ですか。お風呂だと丁度良い温度ですね……」

 あれ? 椎名酔っているな……。


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