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繋がる人繋がらない人

「今日は、朝から雨が降っていたから髪がまとまらなくって恥ずかしいです……。変じゃないですか?」

 椎名のこの言葉に返す言葉は難しい……。

 前々から女性が時々発するこの言葉に対する正解を模索している。しかし、未だ解明できていない。

 『いつもとかわらないよ』は『いつもボサボサだってこと?』って返ってきそうだし、『本当だね』は……どう考えてもNG。と言うことで、今回もノーコメント。


「はい」

 大将が小鉢を持ってきて俺の前に置いた。

「酒盗ですか?」

「ああ、下にクリームチーズのブロックが入っているから、一緒に食べてね」

 酒盗にクリームチーズ? 何だか不思議な取り合わせだが、大将が出すのであるからきっと美味いに違いない。早速一口……。ん? 何とも不思議……。いや、ちょっと癖になる味かも……。


「椎名、日本酒くれるか?」

「あ、は~い」

 椎名がコップに酒を注いで持ってきた。早速一口……。うん、イメージ通り。合う。


「美味いですね」

「ああ、珍味のコラボってところだね。これを出す店は多いよ」

 大将は笑っている。


「私も見たことありますよ。ショットバーだったかな……」

「へぇ、お洒落な店でも酒盗は出るんだな……」


「悪かったね、お洒落な店じゃなくって」

 大将が笑う。

「言葉を間違えました。『気取ったお店』でした」

「あはは、気にしないでよ。こっちはハナっからお洒落だなんて思っていないから」

 俺の言い訳に大将は更に笑う。和やかな時間だ……。

 その時、椎名のスマホから『ペコペコ』と音がした。

「あ、すみません。切っておくのを忘れていました……」

 慌ててマナーモードにする椎名。

「何の着信だい?」

 大将が聞いた。

「あ、LINEです」

「聞いたことあるな。何に使うんだい?」

「ええっと……。簡単に言うと、グループチャットみたいな感じですね」

「なるほどねぇ。メールとは違うのかい?」

「原理は同じだと思いますが、一斉送信を全員が毎回して、そのログが一望できる点がメリットですかね……。こんな感じです……」

 椎名は説明が難しいと感じたのか、LINEの画面を大将に見せようとした。

「良いのかい? 見ても」

「ええ、内容は大学関係のことですから、問題ないですよ」

 大将は椎名のスマホをのぞき込んだ。


「なるほどねぇ……。チャットだね。完全に」

「尾田さんもチャットされているんですか?」

「あはは、今はしないよ。でも、パソコン買った当時は夜遅くまでやっていたな……。兄ちゃんはやらなかったかい?」

 大将は俺に聞いた。

「昔、やりましたね。ちょっとしたブームでしたよね?」

 俺は答えた。

「何だっけ? 『テレホーダイ』だっけ? あれで夜中にインターネットにふけっていたなぁ。俺が契約していたプロバイダーは『ビジー』が多くて困っていたよ……」

 大将は懐かしそうに言った。


「何ですか? それ? 『テレホーダイ』? 『ビジー』? 何となく聞いたことがあるような……」

 椎名は不思議そうに聞いた。

「あはは、大将。椎名に言ってもわかりませんよ」

 俺は一応知っているが、説明するのが面倒なので、さらりとスルーしたが、椎名はこういうことは絶対に納得するまで調べる。ほら、早速スマホで調べ始めた……。俺は大将の懐かしかった当時のパソコン事情を興味深く聞いていた。


「えええ! 電話回線でインターネットしていたんですか?」

 椎名が叫んだ。

「そうだよ。電話のモジュールをタップみたいなもので二つに分けて……」

 大将が言い終わらない内に椎名が続ける。

「ISDN?  ADSL? リーチDSL? 今の光ファイバーになるまでに凄くいろんな段階があったんですね……」

 椎名は必死で調べている。


「まあ、月並みな言い方だけど、今は『便利な世の中になった』って感じだよなぁ……」

 大将は言った。

「俺は、若干付いていけていないところがあるんですがね……」

「ええ? どうしてですか? この前のアンドロイドの件といい、すっごく詳しいじゃないですか?」

 俺の言葉に椎名は過剰気味に反応した。


「いや、流行の話だよ……」

「流行ですか?」

「その……、複数人で使うアプリがはやっているじゃない? LINEとかTwitterとかFacebookとか……」

「ああ、俺も全部聞いたことがあるな」

 大将は力強く頷いている。

「その全てをしていないし、する気にもなれないんだよな……」

「へぇ……。でもどうしてですか?」

「どうしてだろ? その前のmixiの時点で拒絶反応出ていたからなぁ……」

「何ですか? 『繋がりたくない』人なんですね?」

 椎名はそう言って笑った。

「うん、正にそう。面倒で……。ここに通うくらいだから、『人嫌い』や『世捨て人』ではないと思うんだけど……」

「あはは、確かにその二つとはほど遠いイメージですよ。このお店の常連さん全員に言えることですけど」

「あはは、兄ちゃんらしいな……。しかし、確かにその『繋がり』を巡っていろんな問題が出て来ていることも報道されているよな……」

「使い方の問題だと思うんですけどね……」


「使い方で思い出しましたが、この前ノートパソコンにアンドロイドを入れて頂きましたよね? お盆に帰省したとき、あのパソコンを実家で使っていたのですが、父がとても関心があったみたいで、随分色々聞かれました」

「男の影を感じたのかな?」

 大将は笑う。

「そんな感じでは無かったですけどね……。父は昔からデジタル端末をいつも持ち歩いていましたから。なんだっけ? 『palmパーム』でしたっけ? 今のスマホみたいな感じの端末です」


「へぇぇ! そうなんだ! 実は俺も『palm』は使っていたんだよ」

 意外だな。日本ではあまり普及しなかったから、あっという間に発売中止になったんだけどな……。

「そうなんですか? 私は時々父に借りてゲームした程度ですけど……。あ、一応『グラフィティ』は使えるんですよ」

「おお! なんて懐かしい響き! スマホでもグラフィティの入力アプリは出ているんだよ」

 椎名の言葉に俺は思わず感激してしまった。

「そうなんですね! 今はフリックが主流ですが、グラフィティは非常に効率的な入力方法でしたよね?」


「さっきから言っている『グラフィティ』ってのは何だい?」

 大将が聞いた。

「『手書き入力』の一種なんですが、ローマ字の省略文字のことです」

「言われても正直ピンとこないな……」

「だと思いますよ。見たこと無い人に説明するのはかなり難しいと思います。ちょっと待って下さい……」

 そう言って椎名はスマホで検索を始めた。


「あ、ありました。これを最初に覚えるんです」

 椎名はグラフィティの省略文字一覧を大将に見せた。

「ふ~ん、ちょっと『速記』みたいな感じだな……」

「まあ、近いですね。ただ、あくまでローマ字一文字なんですよ」

「日本語では書けないの?」

「書けるソフトもありましたが、俺はずっとグラフィティを使っていましたね……」

「そりゃ、またどうしてだい?」

「最後に使っていたpalmは、日本語入力もグラフィティも両方使えるタイプだったので、ものは試しと日本語入力を試してみたんですよ」

 フンフンと大将は頷く。


「すると、認識がグラフィティの方が確実なんですよ」

「誤認識するってこと?」

「まあそうなんですが、仕方がないんですよ。例えば『裏』って書いても『衰』とか『哀』って出てしまったりするんですよね」

「確かに似ているな……」

「基本、手持ちで書きますから、それほど丁寧には書けないんですね。ところが、グラフィティは基本アルファベット26文字ですから、高確率で思い通りの文字が認識されるわけです」

「なるほどなぁ。『急がば回れ』って感じかい?」

「まさにそんな感じですよ」


「私は、そこまで便利だとは知りませんでした。グラフィティも父親が書いていて、何だか秘密の暗号みたいだなって思って教えてもらいましたから……」

 椎名は笑った。


「ところで、その端末は何に使うんだい?」

 大将は聞いた。

「基本的にはシステム手帳ですね。途中から日本で発売されたものには、音楽が聴けたり動画が見れたり、インターネットができたりしましたけど……」

「へぇぇ。それは何年前くらいの話だい?」

「日本での販売が出荷終了になったのは、二〇〇五年ですが、俺は数年前まで使っていましたよ。スマホを使うようになって、使わなくなりましたけど」

 そう言って、ポケットの中からスマホを取り出した。

「父は、『時代が追いついていない』って言ってましたね……」

 椎名が言った。

「正にその通りだと思うよ。しかも、結構高額だったことも原因だと思う」

「そうなのか……。でも、その当時ならデジタル機器ってのは『高額商品』って諦めていたところもあるなぁ……。二〇〇〇年に入って、ようやくデスクトップが十万円を切り始めたくらいだったろ? 当時ブームに乗って買ったからよく覚えているよ」

 大将は言った。

「あ、私の家にあったノートパソコンが当時二十万円以上したって聞きました……」

「そうだろうな……」


「昔は頑張ってホームページとか作ってみたりしていたなぁ……。今はブログだろ?」

「あ、どうですかね……。今は個人であれば、Facebookかもしれないですね。若しくはTwitterくらいですかね。本格的にホームページ作っているのは、大学くらいじゃないかな……」

 フム、と椎名は考えている。


「そうかぁ……。この店のホームページを作るってのはどう思う?」

 大将は椎名に聞いた。

「わざわざ作らなくても勝手に紹介されたりしていませんか? 口コミサイトとか……」

 俺は言った。

「いや、そう言うのとは違ってさ。店の宣伝は二の次にして、この店の雰囲気とここで交わされる会話とか、考え方みたいなものをさ……。ちょっと伝えることができたらいいなぁって思っただけでさ……」


「小説にしてしまうとか……?」

「うん、イメージとしてはそんな感じ。俺も仕事しながらだけど、みんなの会話とかを聞いていて、今更ながらにいろいろ勉強になることが多いんだよな。時には結構元気付けられることもあったりさ……」

「私もここで沢山のことを学びましたよ。それが楽しくて続けているっていうのが一番大きいかもしれませんね……」

 確かにここでの出来事を小説にでもすれば、ネタは尽きることはないかも……。しかも、ちょっと面白い小説になるかもしれない……。


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