第1話:序章1
城内人員募集
年齢性別問わず。
要ギルドカード。
城壁内部に宿舎あります。
…これはダメもとで行ったほうがいいかもしんない。
城の前の掲示板に張り出されたチラシを見つけて嘆息する。
リアル冒険者として活動するには致命的な壁に当たり他の職業への転職を感じていたのだ。
VRMMOではありえない解体作業と生々しい血の臭いは16歳には少しばかり堪えた。
チュートリアルからしばらくはちゃんとゲームらしい機能が揃っていたのだが、レベルが高位になるほど体感レベルが引き上げられ、今ではリアル過ぎて吐き気がするほどだ。
もはや子供が遊ぶレベルじゃねぇ。
いっそ退会してしまおうと、一昨日プレイヤー向けのアジトから、ログアウトした。
そして、キャラクター"アルチェ"は、VR世界で自立しなければならなくなってしまった。
それは、日本人の少年が異世界に取り残されたのとなんら変わりない状況になってしまった。
趣味に走った女アバターだから少年じゃなく13・4くらいのパッキン緑瞳の美少女キャラなのがなお悪い。
◇◇
冒険者ランク:G
出身:アース
種族:エレク
名前:アルチェ
職業:気法師
備考:データ保護期間中(2/12より三ヶ月
◇◇
ギルドカードの表記を改めて確認する。
出身種族名前以外の表示が消えている。
ゲーム中のステータスはどうやら反映されないらしい。
レベルはなくなって冒険ランクとやらに変わっているので、おそらく初心者という意味なんだろう。
種族エレク…ネット上にあった原始人ならぬ電子人という意味だと思う。
エレク=電子人は独立AI搭載型の思考するモブキャラ…つまり雑魚ですね。背後さん(プレイヤー)退会した後にまだVRMMOでキャラだけが活動してたなんて都市伝説があったけど、それがコレですかね。
三ヶ月のデータ保護期間とやらが終わったらどうなるんでしょうね?最悪デリケートか?
幸い退会前に所持品バラマキしなかったから、Gもアイテムもあるのけど。
よりによって、ろくに鍛えてない支援職の気法師キャラで残されたとか酷くね?
攻撃力はいいけど、防御力が大分削れている。
ゲーム中ならどんな装備であれ防御に徹すれば大型モンスター相手でも吹き飛ばされる事はなかったのだが、やや小さい狼型モンスターの体当たりで転がされた。
見た目どおりの体重の軽さがかなり影響している。まぁ、子供がレトリバーの体当たりに吹っ飛ばされるのは普通か。
それはともかく、安全な拠点が必要だよ。
ゲームの枠組みから逸脱したというなら小説によくある人掠いやら貞操やら危険だ。
となると、宿屋も安心出来ない…いや!宿屋がヤバイ!
全体的に歓楽街に近いから治安は最悪だ。
借家という手もあるかもしれないが、女の子の一人暮し…強t…強k…はい危険だね。
次、住み込みの下働き…元冒険者身寄りのない美少女騙されて売られて……………ぶるっ。
ヤバイこのアバターはヤバイ汎用性が悪すぎる…火力もない宇宙にもいけない、あのR44ガン〇ンクですら、宇宙に飛び出したというのに!使い道がねぇ。実際、ガン〇ムと赤ザ〇がならんで街歩いてますからね。鍛冶と裁縫どっちに頼むんですかあれは。
ちなみ今の装備は、気法師が支援職で後衛なので増幅系の装備【精霊の法衣】という、全身をカバーできる装備をしている、所謂ガチャアイテムだ。
鍛冶や裁縫の一級品には劣るけど初心者でもガチャレアは別料金で払えばなんとかなるのはありがたい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
という訳でそろそろ冒頭の求人に戻りますか。
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「結論から言わせてもらえれば消去は起きません。エレクになってしまうとアチラ側からは干渉されませんから。」
キャラデータの破棄の影響はないから安心していいのか?。
「アチラ側が認識しているフィールドは我々と尺度がちがいます。隣の国に行くのにアチラだと5分くらいですが、我々では一週間はかかります。
要は、認識範囲が違いすぎるのです
。私達はエレドラシル【電子樹】の恩恵の元にありますからアチラから廃棄されない限りこの世界とは関われないのですよ。」
ごめんなさいせっかく説明してもラッタノニヨクワカラない…。
とりあえず、マジで今後を考える必要があるようなので、要進路相談です。
現在お城にきています。
門番らしき人に事情を説明したら、わりとあっさり中へ通されました。
城の中は、たぶんホールだと思われる内装なんだけど…案内板とかが置かれたりしてまるで市役所に来たみたいでした。
さっきからオレの質問に答えてくれてるのは、民事課の人らしいです。
「それで本題に戻りますが、第一条件が安全性でしたね。ならば、チュートリアル教育もかねて城の内勤はいかがでしょう?」
お城なのにそんな簡単に就職できていいんでしょうか?とても助かりますが。
「エクド大陸は、VR発足以降に稼動した新興大陸といって差し支えないですから純粋に人手がたりないのですよ。」
どうやら、プレイヤーキャラのほとんどは冒険やらで生計を立てる事を選択するらしくオレみたいなのは珍しいんだそうな。門番が生暖かく対応してくれたの訳ですな。
とりあえずオレにスプラッタは無理なのは確かですとも。
一度草原に出てみた時に狼に遭遇したんだけど、軽くバグってるらしくて狼がバラバラに弾けた。
しかもスローモーで…。
…あれ見たら一気にやる気がうせました。
もう、二度とフィールドにはいきません、マジで勘弁してください。
「それで、どんな職業がございますの?じゃ」
…言語が無意識にどこぞの令嬢になるんで「じゃ」を自力で追加してます。
「そうですね、城の奥にある祠なら、いろいろな意味で安全でしょうし。まだ管理人がいないのでソコを担当してもらいたいのですが。」
「…殿方からもでしょうか?の」
「アチラは精r…システムの許可がなければ立ち入りできませんからね。」
…精rシステムってなにさ(汗
精霊か?よくわからないけど、その方向でお願いします。
「今夜は城の客室を使って下さい。」
兵士用の宿舎とかでもかまいませんがどうして客室?
「若い兵士の情熱は時として予想の遥か上に至りますからね。」
キリっと担当さんが告げる。
目が真剣ですね、そうですか…がくぶる。
「私の事はウオノメ…親しみを篭めてウメさんとおよび下さい。」
いやまて、名前がおかしい。ひと昔前の勇者かあんたわ。
ん?短い黒髪でがっしりした体格とか…まさか。
「いろいろ事情があるんですよ。さ、こちらへ」
にっこりと微笑むウメさん。
…わかりました。追求しません従います。
そうして、祠の管理人というわりと安全な職業を手に入れました。