ふたり
たしか、そうあれは中2の体育祭の実行委員のときで、確かに私は間仲と一緒に実行委員をやって、放課後の準備のときに告白された。でも私が覚えている間仲は、こんなチャラいかんじじゃなっかた気がする。目の前のコイツが言うように黒髪メガネで私より背が低かったし、もっと小動物みたいな目で見るような、おとなしいやつだった。でも今、目の前にいるのは茶髪ピアスで、私より背が高いチャラいかんじの今時の男の子だ。そんなヤツに、はい僕がその間仲ですけどなんで分かんないんですか?なんて言われても分かる訳ないっつーの!
「本当に、あの間仲なの?」
おそるおそる聞く。
「そうです。信じられないなら告白した時の状態を1から10まで再現してあげてもいいですけど?」
うわっ。覚えてるって、完全に根にもってるよ。
「いや、いいです。信じてます。再現してくれなくてもちゃんと覚えてるんで大丈夫です。」
まぁ分かんなかったのは失礼だと思うけど、こんな風に扱われる事でもないと思うんだけど。ちらっと見ると、帰り仕度の続きを始めだした。さすがにこれで帰られると明日から気まずいよな。
「間仲ごめん。だってあの頃と全然ちがうんだもん。私が悪いから許してくんない?」
反応なしって。シカトって・・。じゃぁ、
「本当っにすみませんでした。3年間同じクラスだった人わかんないなんて最低です。どうぞお気のすむまでののしってください。」
これでどうだ。こんなに謝ってんだから、もういいだろう。5秒程の沈黙をやぶったのは教室中にひびく間仲の笑い声だった。
「あはっははははは・・・はぁ・・・そこまでやりますか!?普通!?あーもう、ののしってくださいってマゾですか水原さんは?別にそこまで怒ってないですよ。ちょっとすねただけです。まぁ俺って気づかれなかったのはちょっとショックでしたけどね。」
そう言うと急にまじめな顔になって私の髪にふれ、少し悲しそうな目をした。ドクンッと胸の奥が大きくはねる。今まで感じたことのない感情が体中をかけめぐる。少し髪にふれられただけなのに、体中が熱くなる。
「俺のこと忘れてるようじゃ、あの約束だって覚えてないですよね?」
ふれてた手を下ろし、くるりと背をむける。約束?私は約束をしたのか?
「いいんです。見た目がかわっても中身はへたれのままですし、水原さんはモテる人ですし・・・。」
間仲との約束・・思い出せ私。あの時なんて言った?
「でも、ちょっとは期待してたんですよ?変われば水原さん声かけてくれるかなって・・」
声を、かける?
「高校生になって背ものびて、かっこよくなって、そしたら・・」
かっこよくなって?
「そしたら水原さんと友達になれるかもって・・」
カチッとパズルのピースがはまるように、記憶のかけらが一つになった。そう、私は間仲に告白されたときに、こんな事を言ったんだ。
あの日、フッたときに間仲が泣きそうになるから
「もっとかっこよくなって、しゃべりやすい雰囲気になったら付き合うとかは無理でも、友達にはなれるかもしれない。」
私はそう言った。あの時はなだめるのに必死で、とっさに出た言葉なのに、それをずっと覚えていて実行するなんて・・・。
ぎゅっと手に力がはいる。私の言葉をまっすぐ受け止めた間仲。私はまた泣かせてしまいそうになっている。でも今から言う言葉はあの時みたいに、とっさに出るような軽い気持ちで言うものじゃない。深呼吸して、まっすぐ間仲を見る。
おわび?約束?違う。今、こころから思ったこと。
「間仲、私と友達になってよ。」
ふわっと風がふき、カーテンをゆらす。間仲の背中の夕日がまぶしかった。