冬の朝
冬の晴れた日はあんまり好きじゃない。空が高すぎて、澄んでいて、自分なんてホントちっぽけで無力だなって感じる。少し寂しくて不安になる。
「ねぇ、葵。ちょっと早いけどクリスマスの事なんだけど・・。」
頬がほんのり紅く染まって、毛先が朝の光に反射してキラキラ光ってる。淡い色のマフラーがよく似合ってる。
「どこか出かけない?」
毎年、心と蒼佳の3人で家でまったり過ごしてきた。今年もそうだと思ってたから、ちょっと意外だ。
「ほら、蒼佳ちゃん受験生で一人のほうが勉強に集中できるかと思って。夜はもちろん3人でご飯食べようと思ってるよ?」
2人だけでいられるなんて、すごい夢みたいでうれしい。蒼佳がすねるかも。
「うん。そうだね。どっか行こう。」
どこ行こうかな?買い物とか?それじゃいつもと変わらないか・・。せっかくならもっとキラキラしてクリスマスらしい所がいいよね?
教室に行くろう下を歩いていたら、心は担任につかまって連れていかれてしまった。なんかテストがなんとかって言ってたけど・・。話しが長くなりそうだから、先に行っちゃって大丈夫かな?
中庭を渡っていたら、脚立に乗って木になにか付けてる間仲に会った。
「水原さん、おはよう。」
いつもと変わらない感じ。爽やかな笑顔。シャツ一枚だけど寒くないのかな?
「お・・おはよう。なにしてんの?」
枝から電飾っぽいのが垂れてる。
「あーコレ?ほら聖夜祭って夜だからさ、中庭中の木に付けたらけっこうキレイかと思って。俺、実行委員だから。」
知らなかった。器用じゃないって言ってたくせに、ちゃっかりやってんじゃん。
脚立にまたがってブルッと震えた。やっぱり寒いんじゃないの?
「セーターとかなんで着てないの?」
手にハァッと息を吹きかけてる。
「教室に置いてきた。動けば熱くなると思って。」
12月なのにそんなわけないじゃん。冬の朝なめてんのかな?
マフラーをはずして間仲に投げた。
「実行委員が風邪ひいたら困るでしょ?」
首がスゥッとする。寒いはずなのに、顔が熱くなってきた。・・私はきのう間仲をフッた。ホントは今日、どんな顔すればいいか分かんなかった。
でも、普通にいつも通りにしてくれてる。これでいいんだよね?同クラでギクシャクするよりは、今までと変わらなくしてる方が間仲もいいよね?
子供みたいに笑って、脚立から降りた。
「聖夜祭、来ない?」
鼻が少し赤い。そんな薄着だから・・。
「せっかくならたくさんの人に来てほしいじゃん?」
私の前に立った。間仲の顔、見られない。ドキドキする。
きっと昨日の事があったからで、それ以外の気持ちなんて無いはずなのに、胸の奥が切なくなってる。なんなの?コレ。
「マフラーありがと。でも、こういう事されちゃうと俺バカだから、ちょっと期待しちゃうよ?」
体がカッと熱くなった。期待って、いつか私が間仲を好きになるって事?ナイよ。だって心が好きなんだもん。
「私は間仲を好きになったりしない。」
間仲はまた笑った。
「そんなにハッキリ言われると、逆に清々しくなるよね。分かってるよ。そんなこと。俺が言ってるのは、まだ好きでいてもいいって事なのかって話。」
間仲の白い息が目の前で溶けて無くなる。
なんでそんなに笑っていられるの?だって好きでいても、自分を好きになってくれるか分かんないのに。ツライだけじゃん。報われないなんて・・・。
ギュッと唇をかむ。それは私だ。今の言葉、そっくりそのまま私じゃん。私はムリだよ。間仲みたいに笑えない。心のこと好きでツライもん。なんで間仲は平気なの?
「なんでそれで平気なの?」
小さくため息をついた。
「平気じゃないよ。全然。でも、だからってそんなにスッパリ割り切れないから。ホントはダメって頭で分かってても、気持ちはそうも上手くいかないんだよね。」
なにソレ。
「好きだから平気じゃなくても、ちょっとした事でうれしいし。さっきの聖夜祭に誘ったのもホントは水原さんに来てほしかったからで、たくさんの人なんて来なくていい。」
静かな声。私は間仲が好きになるほどイイ人間じゃない。自分のことしか考えてないのに。
「俺も教室に戻るから返すよ。ありがと。」
フワリと首にマフラーがかかる。ほんのり間仲のニオイがして、頭の中いっぱいに広がる。
間仲の後姿から目がはなせない。なんでだろう。アイツといると変になる。ドキドキして頭の中がフワフワする。いなくなると気になるし、笑ってるのを見るとくすぐったい気持ちになる。
アイツは私にとってなんなんだろう?