となり
教室のベランダでボーっとしていると、薫と奈緒美が来るのが見えた。2人は私に気づいていない。心は職員室に呼び出されて行ってしまった。早く帰ってこないかな。
朝の風は冷たくて、でもそれが心地いい。1人でこうしてると色々考えちゃうけど・・。
間仲に告白されて1日休んじゃったけど、結局なんの解決にもならなかったんだよね。いつもなら誰かに告られても、すぐ断ってなにも感じないのに間仲は違った。だから1日休んでなんでそうなのか考えたかったけど、心と一緒のフトンで寝た事で全部吹っ飛んでった。改めて私は心の事が好きなんだって思った。
間仲は・・たぶん初めての男友達で、他の男の子より仲がいいから、こんな気持ちになったんだ。・・・と思う。でも、だとしても胸のモヤモヤがスッキリしない。もっと違う理由があるような気がする。
「おはよう。」
聞き覚えのある声にドキッとする。間仲もベランダに出てきて、となりに座った。
「お、おはよう。」
声、裏返ったかも。肩があたりそうになるぐらい近くにいる。
「あのさ・・。」
白くなった息が、目の前でなくなっていく。ちゃんと、ちゃんと断らなきゃ。
「私、好きな人がいる。だから・・・その・・間仲とは付き合えない。」
言えた。ちゃんと断った。でも、なんだろう?すごい罪悪感。胸に重りがあるみたいに苦しい。
「うん。知ってる。」
間仲を見る。ボーっとした横顔でどこかを見ていて、大きくため息をついた。白くなった息が空にとける。
知ってるってどういう事?・・なんで?いつから?
頭の中がグルグルしておかしくなりそう。私が心のことを好きなのを知っている・・・。私は女の子で、心も女の子。普通じゃない。
もしも、万が一誰かに言ってたらどうしよう。指先がふるえて、体がしびれてきた。どうしよう。絶対気持ち悪いって思ってる。だって普通じゃない。
「まぁ、誰にも言ってないから安心してよ。」
・・・は?
「なんで!?」
ゆっくり私を見てきた。なにを考えてるのか分からない。
「言ってほしかったの?」
心臓がゾワッてなった。目をそらす。そういう訳じゃない。・・だって普通は言うでしょ。こんな気持ち悪い話し。
「いつから知ってたの?」
間仲が知ってるってことは他の人にもバレバレなのかな。どうしよう。
「夏の祭りで家まで送ったときに、俺の背中で熱にうなされながらしゃべってたじゃん。覚えてないかぁ。」
ハハッと乾いた声で笑った。
ウソ・・。あれは夢の中で自分が思ってたんじゃないの!?まさか口に出してたなんて。・・・じゃぁ、あのとき誰かに『大丈夫』って言われた気がしたのって、あれも夢じゃなくて間仲だったってこと?あのすごく落ちついた声で、すごい安心した気持ちにしてくれたのは、間仲だったの?
手に力が入る。
「なんで知ってたのに告ってきたのさ。」
胸がギュウッてなる。間仲が本当に私のことが好きで、それで私には別に好きな人がいて、それを知ってて好きでいるってどんな気持ちだったんだろう。苦しく・・ないのかな。私だったら耐えられない。
「誰かさんに言われたんだよね。『葵のこと好きじゃないなら、近づいて優しくしないで。』って。」
『誰かさん』って・・。たぶん心だと思うけど、知らなかった。そんな話ししてたなんて。
「俺は水原さんが好きだから、近くにいたいと思うし、優しくしたいって思う。・・本当は告るつもりなんかなかったけど、俺以外にもそう思ってるヤツがいるって思うと、なんか我慢できなくってさ。」
・・ちょっと待って。俺以外にもって、心のこと言ってる?ちょっと待って。それは無いでしょ。じゃぁ誰?ってか、さっきから普通にしてるように見えるけど、私のこと・・。
「気持ち悪くないの?」
だって同姓が好きなんだよ!?ひくでしょ。なんか自分で言って変な汗出てきた。
「それなら俺だって、一回フラれてるのにまだ好きなんだよ?しかも同じ高校受けて、らしくもない副委員なんてやるし、祭りも文化祭も後追いかけるように近くにいるし。言葉にするとけっこう気持ち悪いことしてるよ?」
じっと見てきた。ドキッとする。思い返せばいつも近くにいて、助けてくれた。でも、気持ち悪いなんて思わない。
「でも、困らせてた。ごめん。学校休んだの俺のせいでしょ?」
・・違う。間仲のせいじゃない。
「諦め悪いから、しばらく水原さんのこと好きなままだと思う。でも、あんな困らせることはしないから。」
立ち上がって、カラカラとベランダのドアを開けて行ってしまった。教室から心の声が聞こえた。
早く教室に戻らなきゃ。でも、なんだろう。なんでこんな泣きたくなってるんだろう。これでいいはずなのに、すごく悲しい。ギュウッて胸が締めつけられるみたいで、鼻がツゥンと痛い。
私は心が好き。だから他の人に告白されても断っても、なにも感じなかった。今までは。
でも今は、今まで感じたことがない感情がこみ上げてきてる。・・なんかフラれたみたいになってる。なにこれ?これじゃあ私が間仲のこと好きって思ってるみたいじゃん。
頬にあったかいものを感じた。なんで・・・なんで涙が出てくるんだろう。
こころの中にスゥッと風が吹いたような気がした。