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ふわふわ。  作者: 水無月
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「好き」の意味

顔をのぞくと目をそらされた。


「どうしたの?」


なにも言わずに下を向いてしまった。『どうしたの?』なんて、なんてこと言っちゃったんだろう。本当は分かってる。間仲となにがあったのか知りたいんだ。でも・・・。

蒼佳がまた私たちを呼ぶ声がした。心の手を優しくほどく。


「行こう。お腹減ったでしょ?」


心が小さくうなずいた。ドアを開けて足早に階段を下りる。胸が痛かった。

席についてテーブルを見る。いつもより豪華だ。心が私の隣に座った。蒼佳がお茶の入ったカップを心に渡す。


「今日は心ちゃんの好きなものにしてみたよ。久しぶりだからね。ウチで食べてくの。あと、電話しといたよ。」


ニヤッと笑って取り分け始めた。気の利く妹だ。


「ありがとう。蒼佳ちゃん。」


たしかに心がウチで食べてくのは久しぶりだ。夏の祭り以来なんじゃないかな。あのときは買ったやつだったけど、前は3人でカレーとか作ったりしたなぁ。あの時ぐらいから、自分が料理とかできないって気づき始めたんだよね。持つべきものは、なんでもできる妹だ。


「ねぇ、今日は泊まってくよね?心ちゃんの家にもそう言っちゃったんだけど・・。」


ちらりと私を見てきて、「お姉ちゃんも何か言って!」と言うようにうったえてきた。心を見ると、少し悩んでるみたいだった。まぁ・・ちょっと気まずいよね。


「そうしなよ。もう暗くなってるし、明日は休みなんだし。」


心を見ないで味噌汁をすする。蒼佳が私の前に座って少しにらんできたけど、気づかないフリをしてテレビのスイッチをつける。

だって、どうしたらいいのさ。


「うん。じゃあそうしようかな。いただきます。」


やっぱり声がちょっと元気ない。私のせいなんだけど。ぎこちない空気が漂ったまま食事が始まった。

蒼佳は心と私の間に流れる気まずい空気を察知したのか、食べ終わって心がお風呂に入ってる時にすごく怒られた。


「何があったか分かんないけど、お姉ちゃんのこと心配して来てくれたんだよ!?なんか、いつもと違うよ。2人共。」


たしかにそうだ。蒼佳の言うとおり。私を心配してくれているのに、すごく勝手なことしてる。じゃあ、どうすればいいのさ?間仲と何があったのかそのまま話すべき?でも嫌なんだよ。知られたくない。

心に「良かったね!」とか言われるのなんて嫌だし、間仲とそういうかんじだって思われるのも嫌だ。でも、なんでだろう?こんなにムキになってるのは、それとはちょっと違う気もするんだけど・・・。

ガチャッとリビングのドアが開いて、シャンプーのいいニオイがしてきた。


「お風呂あがったよ。お先にありがとう。」


心が戻ってきた。長い髪がしっとりと濡れていて、頬が紅く染まっている。パジャマはウチに置いてある、心専用のヤツ。首筋に、髪からしたたる雫がスッと落ちていく。

どうしよう。息が止まるかもしれない。すごく・・かわいい。思わずみとれてしまう。


「つぎ、お姉ちゃん入っちゃいなよ。」


ウチのシャンプーってこんないいにおいだったけ?心が使うと特別なんじゃないかって思う。ドキドキして、心の横を通るとき顔を見れなかった。



お風呂からあがって部屋に戻ると、心と蒼佳がフトンを敷いていた。まさかこの部屋で、3人で寝るとか言い出さないよね?


「お帰り。今日は心ちゃんとお姉ちゃんは一緒に寝てね。」


ベッドの横にフトンが1セット。


「蒼佳は?」


あーヤレヤレ・・って顔で見られた。


「あたし一応だけど受験生だからね。勉強したいの。じゃあ心ちゃん、おやすみ。」


手を振って行ってしまった。ろう下から鼻歌が聞こえてきた。

蒼佳はこの部屋にいない。・・て事は心と2人きりで夜を過ごす。

ゆっくりとふり返って心を見る。髪はもう乾いているけれど、顔はまだ紅い。昔はよく泊まったりしてたけど、高校に入ってからは初めてでパジャマ姿なんて久しぶりすぎる。

どうしよう。緊張してなにを言えばいいのか分からない。白い肌に頬がポッと鮮やかに紅く染まっている。ぷっくりとした唇に、きゃしゃな肩・・。


「葵?」


ハッと我にかえる。体中が熱くなってきた。


「も・・もう寝ようか?心はベッドで寝ていいよ。」


まだ寝るのは早すぎると思うけど、明るい所でこのまま心をみてたら何をするのか分からない。

電気を消してフトンに入る。ベッドの心に背を向けると背中あたりがモゾッとした。びっくりして電気を点けると、フトンの中に心がいた。


「な・・・なにしてんの?」


上目づかいで私を見て、フトンの中に隠れた。


「一緒に寝ちゃダメ?」


胸をギュッてつかまれた気分。鼻血でそう。・・ダメなわけない。


「ダメじゃないけど・・。」


汗がドッと出てきた。


「じゃあいいんだね!?」


フトンから顔を出して目をキラキラさせている。そんな目で見られたら、もうなにも言えない。電気を消して、またフトンに入る。

気を紛らわせようと思って、時計の針の音に意識を向けるけど、肩にふれる心の指がそれをジャマする。

今、同じフトンの中に心がいる。・・ちょっとだけなら触れても大丈夫かな?でも、もしもそれ以上の事をしちゃいそうになったら、自分を止める事ができるだろうか・・。ほんの少し手をのばす。


「ねぇ葵。」


耳元でささやく甘い声で、ゾクッと体中に響く。落ちつけ自分・・。しっかりしろ!心に伸ばした手を戻してギュッと力を入れる。


「なに?」


耳から心臓でてくるかも。


「私、葵のこと好きだよ。」


本当ならこんなに聞きたかった言葉ないと思う。だけど・・。


「私も。」


だけど私の「好き」と、心の「好き」は意味が違うから。心に「好き」って言われる程、胸がズキズキと痛くなる。

そんな事を考えながらいつの間にか眠っていた。

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