好きな子にしかしない
学年準備室。ここは普段使わない部屋で、今日みたいに先生や生徒達が授業で使う物を準備する部屋。
担任は「会議があるから。」って、間仲と2人で作業をしている。お互いなにも喋らないで黙々とやっているから、すごーく気まずい。胃が痛くなってきた。
「水原さんは聖夜祭はまた実行委員やるの?」
うわっ。びっくりした。急に話しかけてくるなよ。気まずいよりはいいけど。
「なに?聖夜祭って。」
なんだかくすぐったい名前のお祭りだなぁ。
「俺たちが今束ねてるプリント。クリスマスにやるから聖夜なんだろうね。」
渡されたのをよく見ると、12月25日のお昼からって書いてある。でも冬休みだよね?わざわざ学校に来て、何やらされるんだろう?
「文化祭みたいなかんじ?」
プリントを返す。
「そうだろうね。でもコレは部活ごとで食べもんの屋台が中心で、クラスじゃやらないっぽいよ。部活やってないなら行かなくていいみたいだし。」
冬休みかぁ・・。ゆっくりしたいけど、奈緒美が行きたいって言うんだろうな。クリスマスは毎年蒼佳がケーキ作って3人でやってたけど、今年はどうなんだろう。薫と奈緒美はどうするんだろう。
「間仲は委員やらないの?あっでもだれかとクリスマスは一緒にいるのか・・。」
自分で言っといて後悔した。これだと私が気にしてるみたいじゃん。
「水原さんみたいに器用じゃないから。あーでもクリスマスに野郎だけでいるのも切なすぎだよね。」
ハハッと笑って伸びをした。
器用じゃないって・・文化祭のとき普通に器用だったじゃん。それなら私のほうが不器用だ。
それに野郎だけって・・。彼女いないのかぁ。でも好きな子はいるんだよね?・・・告白しないのかな。モテるのに。
胸がキュウってなって、お互いなにも喋らなくなった。
最後のプリントをやり終わって外を見ると、夕焼け空になっていた。間仲は担任に終わった事を言いに行ってくれている。
疲れたなぁ。机に突っ伏して目を閉じる。モヤモヤしている。
心は間仲となにを話してたんだろ。普通に聞いちゃえばいいのかもしれないけど、答えを聞くのが怖い。心は間仲が好きなの?間仲も心が好きなの?間仲は優しくていいヤツだから、心が好きになるのも分かる気がする。・・・でも泣いてたのはなんで?両思いでうれし泣きとか!?私に気を使って言えないとか・・?
やっぱりどんなに想っていても追いかけても、届かないんだな・・・。
ゆっくり目を開けると、目の前の間仲と目があった。
「なにしてんの!!?」
飛び起きる。顔がすごく近くてなんかもうヤバかった。ちょっと動いたらくっつきそうで、心臓とび出たかと思うぐらいびっくりした。
「いや・・。呼んでも起きないから寝てんかと思って、マネしてた。」
なにその理由。訳分かんない。それより心臓の音ヤバイ。はずかしくて死にそう。
「あのさぁ、こういうの好きな子以外にやっちゃダメだよ?誤解されるよ!?」
カバンを持ってドアに手をかける。まだドキドキしてる。本当ヤダ。
「知ってるよ。」
フワリと息が耳をかすめて、体温をかんじる。間仲の髪が私の頬をくすぐった。一瞬なんなのか分からなかった。
後ろから抱きしめられていた。ビクンとこころの奥がはねる。
「知ってる。だから水原さんにしかしてない。」
ジワジワと伝わる体温。耳元でしゃべる声。間仲の心臓の音を背中で感じる。
「な・・にこれ?」
なんで?だって間仲は好きな子いるんでしょ?心が好きなんじゃないの?なんで?なんで?これ・・どうしよう・・・。心臓がバクハツするかも。
「なにって、ちゃんと好きな子にしかしてないって事。」
するりと手をほどいて離れた。・・・好きな子。
「また明日。水原さん。」
ガラガラとドアを開けて行ってしまった。
背中で感じた間仲の心臓の音が、まだ残ってる。