そばにいたい
昼休みに窓から外をながめていると、男の子4人組と目が合って、手を振ってきた。顔も名前も知らないと思うけど、手を振ってきたって事は私が忘れてるだけなのかな・・。一応振り返す。
「知り合いなの?」
前に座ってる薫が聞いてきた。
「いや。たぶん知らない・・と思う。」
視線を教室へ戻す。いつもと変わらない昼休みの風景。と言いたいところだけれど、いつも私のとなりに座っている心がいない。用事があるって言って、授業が終わったらどこか行ってしまった。
一緒に行こうか?って聞いたけど、『一人でやらなきゃいけないから。』って断られてしまった。それってなんだろう。昼休みはあとちょっとしかないのに、どこ行っちゃったんだろう・・。
空いてるとなりがすごく寂しそうにしてる。
「モテる人は大変だねー。知らないヤツからも手振られちゃって。」
奈緒美が4コ目のパンに手をのばした。成長期って怖いと思う。
ガラッっと教室のドアが開く音がして見る。知らない子だった。これで5回目。
「そういえば心はどこに行ったの?また告白されに行ったの?」
告白されに・・・そうなのかな?
急に変な汗が出てきて、下腹が締め付けられるみたいに痛くなってきた。脳裏に中学のときの忘れられないアノ記憶がよぎった。
「ちょっと行ってくる!」
後ろから奈緒美が何か言ってるのが聞こえたけど、ふり向かなかった。
思い当たる所を走って探す。どこだろう。心・・。やっぱり一人で行かせるんじゃなかった。あのときみたいな事にならないように、ずっと近くにいたのに。なんで一人にさせたんだろう。なんで告白かもって思わなかったんだろう。私のバカ!
もし、またあんな事になったらどうしよう・・。心に断られても、こっそり後をつけとくんだった。本当にバカだ私。心になにかあったら私のせいだ。守るって、ずっとそばにいるって決めたのに。
トイレ、食堂、体育館。行くかもしれない所を走って探す。
美術室の前に来た。走りすぎて苦しい。ドアに手をかける。指先がふるえて力がはいらない。お願い誰もいないで・・。
ガラッと勢いよく開けると、美術部っぽい人達が作業をしていた。みんな私を見て、「何?」って顔をしている。
「あ・・・すいません。間違えました。」
そろりとドアを閉める。はずかしくて顔から火が出そう。間違えたってなんだよ・・。もっとマシなこと言えなかったのかな・・。そんな事より、心どこに行っちゃったんだろう。
ため息をついて窓の外を見ると、体育倉庫の影に心が立っているのが見えた。窓にしがみついて目を凝らすと、奥にもう一人いるのが見えた。
ぐわんぐわん目が回ってきた。ドキドキしてその光景を見てるのがやっとだ。・・・だって、心はもしかしたらもう私にはついて来てほしくないのかも。だから『一人でやらなきゃ』なんて言いだしたんじゃないの?
本当はずっと前から男の子と付き合いたかったけど、私がいたから断ってたのかもしれない。だったら、私はもう行かないほうがいいんじゃないの・・・?
「なにしてんの?」
薫だった。私の視線のさきの心に気づいた。
「行かないの?」
胸がギュッてなる。行きたいけど、行っちゃダメなような気がする。
薫は窓に背を向けて、壁によりかかった。トンッと肩があたる。顔を見ると泣きそうな顔で笑った。
「なんでアンタたちってそんななの・・。思ってることはたくさんあるのに、何も言わないの!?相手を想ってるから?それ違くない!?」
キッとにらんできた。近いからよけい怖い。
「心配なんでしょ?そばにいたいんでしょ?」
頭の中で、薫の言葉がグルグル回る。
そばにいたい。誰よりも心の近くにいたい。でも・・・。
肩をポンと押されて、一歩前に出た。
「そう思ってるのはアンタだけじゃないと思うんだよ。」
指のふるえはおさまっていた。
「行ってきなよ。」
今度は背中を押された。薫の手から力強いものを感じた。
私は心のそばにいたい。心はそんなこと望んでないなんて分かってるし、すごい勝手なこと言ってるって思う。だけど、それでも心のそばにいたい。
「薫、ありがと!」
走り出す。外の風は冷たい。
自己中だよね。心が来てほしくないって言ってるのに、追いかけちゃうんだから。きっとずっと追いかけてると思う。
心が好き。だから私はこうやって追いかけてそばにいる。
心の後姿を見つけて近寄る。告白だろうとなんだろうと構わない。心の手をとって、ぐいっと引き寄せる。
顔を見ると、目が少し涙ぐんでいた。
「葵・・?なんでここに来て・・。」
最後まで聞く前にギュッと抱きしめた
ごめん心。来てごめん。
奥にいる相手を見て息を飲んだ。
間仲だった。