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ふわふわ。  作者: 水無月
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マフラー

「ねぇ葵、きのうは一人で帰ったの?」


横を歩いている心の、白くなった息が私の肩にあたる。ドキッとする。


「うん。まぁそうだね・・・。」


間仲と一緒だったなんて言えない。あいつは友達だけど、なにを喋ったとか、なにをしたとか、なんとなく知られたくない。変な勘違いされてもイヤだし。高校生の男女が一緒にいると、恋愛のウワサになるけど私はそんな気持ちないし、好きなのは心だし。心に私と間仲はそういう関係だって思われたら絶対イヤだもん。


「待ってあげられなくてゴメンネ。でも次はちゃんと待ってるから。」


ウソをついてしまった。心の言葉にもグサッとくる。今まで心には隠し事とかウソとか言ったことなんてなかった。でも間仲の事はなんだか知られたくない。勘違いされたらイヤだっていうのもそうだけど、他にも理由があるような。でも、それが何なのかよく分からない。

朝の冷たい風にブルッと心が身震いをした。

寒がりのくせに手袋もマフラーもしてこないなんて、無防備というかなんというか・・。自分のいていたマフラーを心にかける。首元がヒヤッと風にさらされる。


「大丈夫だよ。最近は寒いし、暗くなるのも早いから。委員の仕事は、これからは遅くなる前に終わらせるよ。」


キュッとマフラーを結ぶ。赤くなった頬と鼻の頭がカワイイ。


教室に向かう途中のろう下で、後ろから知らない男の子に話かけられた。


「あの、すみません。」


誰だろう。この人。私?それとも心?


「あの斉藤さん。今大丈夫ですか?」


心に用か。この空気だと私はいないほうがいいかな。心に「向こうに行ってるね。」と小声で耳うちして、そそくさと歩く。角を曲がって壁によりかかった。これならすぐに心と男の子のやりとりが聞こえる距離だと思う。心が呼ばれる時、私は毎回こうして近くでやり取りを聞いている。そのたびに胸の奥が締めつけられる気分になる。

もしかしたら心は告白をOKして付き合っちゃうんじゃないか。誰かの彼女になっちゃうかもって思わずにはいられない。

同時に告白できる男の子達がうらやましくなる。声に出して言えるなんてうらやましい。

私にはできない。だって困らせるの分かってるし、その後どうすればいい?ギクシャクするに決まってる。

私が1番心のこと好きだって自信ある。今まで心に告白してきた男の子達よりも、誰よりも心のことが好きだって思う。ずっとそばにいて見てきた。どんなヤツよりも私が心のこと想ってるのに、なのに、なんでこんなにツライんだろう。覚悟してたのに、報われないって分かっていたのに・・・心を好きになってしまった。

本当に誰かの彼女になっちゃったら、私はどうしたらいいんだろう?ちゃんと「おめでとう」とか「よかったね」とか言えるんだろうか。・・自信ない。


「ごめんなさい。今は誰かと付き合うとか考えられないんです。」


小さくため息が出た。良かった。失礼だと思うけど、本当にOKしなくて良かった。

付き合うとか考えられないっていうのはアレなのかな?やっぱり中学の時の「アレ」が原因なのかな。確かに怖いよね。私もこうして毎回盗み聞きしてるのは、二度とあんな事になってほしくないからかもしれない。


「葵、待たせてゴメンネ。」


心が小走りで来た。

・・・違う。

キラキラした優しい笑顔。サラサラの長い髪。放つ言葉。全部が私だけのものであってほしい。私の知らない間に、誰かのものになってるだなんて考えたくない。

二度とあんな状態になってほしくないのは確かだけど、それだけが理由ではないんだ。心のことは全て知っていたくて、私の心でいてほしくて、そうじゃないのが怖いんだ。

なんて面倒くさいヤツなんだろう。私は・・・。


「私ね、彼氏なんて必要ないって思ってる。」


真面目な顔して急に言い出すから、ビックリした。どうしたんだろう。

階段をフワリと上って、最後の段で私を見下ろした。


「葵がいてくれれば、それでいいの。」


マフラーを巻いていたから見づらかったけど、はにかんでいるように感じた。


「あ!親友がいてくれれば満足って事だからね!変な意味じゃないから。」


マフラーで顔を隠して走って行ってしまった。

私がいてくれれば、それでいい。か・・。

私もそうだよ。心。私も心がいてくれればいいよ。でも、私が言うのと心が言うのじゃ意味が違うから。私が言うのはどうしても特別な意味を含んでしまうから、言えない。簡単には言えないよ。


「おはよう。何してんの?」


薫が階段を上がって来ていた。


「おはよう。別に・・。」


まだ朝なのに、すごく疲れた気がする。並んで歩いていると、前から知らない男の子が近づいてきた。


「水原さん、ちょっといい?」


なんだろう?薫に「先に行ってるから。」と耳うちされた。

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