つないだ手
校庭まで手をつないで行くと、薫と奈緒美がもう待っていた。奈緒美は、変な顔して笑ってるウサギのお面をつけていて、手には同じものが2個ある。私達に気づいて走ってきた。もしかして・・・。
「遅いよ2人共。はいコレ。おもしろい顔してるから、あんた達にも買っちゃったよー。」
やっぱり・・。
ゲラゲラ笑いながら心にお面をつけていく。普段の心なら嫌がって、なんやかんや文句を言いながら最後にはつけるってかんじだけど、今日はやけに素直につけている。
薫が後をゆっくり歩いてきた。腕を組んでヤレヤレってかんじで奈緒美を見ている。でも、手には同じのを持っている。たぶん奈緒美が4人おそろいとか言いだしたんだろうな。薫とお店の前で言い合ってる姿が目にうかぶ。
「まったくすごいセンスだよね。他にも色々あんのにさ、なんでそれ?って思わない?」
薫の視線が、されるがままの心から、私たちのつながっている手に一瞬動いた気がした。
「奈緒美、ほら場所とりするんでしょ?行くよ。」
腕をつかんで、ずんずん歩いて行ってしまった。奈緒美はお面をつけてるから、よく周りが見えてなかったんだろうな。向こうで「えー」とか「急にどうしたのさー」とか聞こえる。ごめん薫・・。気を使わせちゃったな。
遠くなっていく2人の姿を、そのままぼーっと見ていた。心はお面をはずさない。背が低いから子供みたいに見えて、ちょっとカワイイ。
花火を見に来た生徒たちが多くなってきた。お面はずかしくないのかな?
「心、お面はずさなくていいの?みんな見てるけど。」
首を横にふって、どこかを見ている。そんなに気にいったのかな。この変な顔のヤツ。ならいいんだけど。
風がやさしく吹いて、少し熱くなった体をさましてくれる。心は鼻をズズッとすっている。寒かったかな?まだ手が少し冷たいし、外より教室とかで見たほうがよかったかな。
「寒かった?私たちは中で見ようか。薫たちに言ってくるよ。」
おしいけど、つないだ手をはなそうとしたら、心がギュッとにぎってきた。
「いいの。このままで大丈夫だから。もう花火あがっちゃうし。」
たしかに、もうすぐ時間だ。今からよく見えそうな教室を探すってなったら、間に合わない。このまま見るか。
「なら、薫と奈緒美がよく見える場所とってるらしいから、そこ行こうか?たぶんあっちだから・・。」
1歩を踏み出したけど、心が動こうとしない。危うく前に転びそうになった。
どうしたんだろう。ふり返って見ても、お面してるから表情が分からない。手をさっきより強くにぎってきた。
「どうしたの?」
顔を心に近づける。鼻をすする音がした。
「葵、本当は間仲くんと見たかった?」
お面越しだから、ボヤッとした声だった。
胸がザワッとした。心、もしかしてずっと気にしてたの?ずっと・・。
たしかに間仲に誘われたとき、一瞬だけ行ってもいいかなって思っちゃったけど、でも私は心が好きだし、あいつとは友達ってだけだし・・・。
他の男の子よりはしゃべるけど、少しやさしくしてもらったけど、心より間仲と一緒にいたいなんて、そんな事ない。
「私は心と一緒にいたい!!」
ドォォォン!!
始まった。心も私も空を見上げる。次々にあがっていくのを見て、手に力がはいる。
『花火を一緒に見たカップルは、ずっと一緒にいられる・・。』
ドォォォン!!
心、好きだよ。すごく。
ドォォォン!!
いっそ、伝わってしまえばいいのに。つないだ手から私の思ってること全部、心に伝わっちゃえばいいのに。
ドォォォン!!
心がお面をはずして、私を見た。花火の明かりで顔が一瞬照らされる。
笑っている。私の大好きな心の笑顔だった。
「私も葵と一緒にいたい。」
全部伝わったわけではないけど、でも伝えたかった事は、そういう事なのかもしれない。
私もつられて笑っちゃいそうになった。心の笑顔は、私を幸せな気持ちにしてくれる。
「行こう。奈緒美たち待ってるよ。」
フフフッと心がやさしく笑いながら、ゆっくりと歩きだした。
つないだ手は暖かくて、もうふるえていなかった。