ありがとう
文化祭まであと3日。時間が流れるのって本当に早いって、イベントの時にはより感じる。私たちのクラスは、よくありがちなカフェに決まった。
「水原さん。この板は何色にすればいいの?」
中庭で店の看板作り。ぶっちゃけなんでもいんだけど、そんな事言えないし、私まだやらなきゃいけない事たくさんあるんだけどなぁ・・・。
「そっちは俺がやるから、教室の飾りつけやっといてくんない?」
お!気が利くじゃんと思ってふり向くと、間仲だった。
なんかドキッとしてしまう。夏休み終わって、文化祭の準備で忙しくなっちゃって、あれからちゃんとお礼言えてないし、最近コイツ女の子から人気あって告白されてるらしいし、中学の頃はそんな事なかったのに、変わったんだなぁ。
「あ・・ありがとう間仲くん。でもかわいくやってよね~~!」
目をクリクリさせて上目づかいで、さりげなく肩にタッチしてパタパタと走って行く。あの子はきっと間仲の事を好きなのかもしれない。かわいいなぁ。分かりやすくて。
作業にとりかかる間仲はテキパキとこなしている。「ありがとう」って私も言ったほうがいいかな?でもさっき、あの子に言われたし、別に私が言わなくても・・・。もんもんとしてると目が合ってしまった。
「何?」
男らしいがっちりした腕なのに、細くて長い指がずるい。
私はお祭りの日、あいつに助けてもらった。お礼を言っても特別な意味なんかない。
間仲の隣に座る。
「間仲、あのさ、祭りのときありがとう。あと、さっきも・・。」
まわりに聞こえないように小声で言う。顔見られない。はずかしい。ありがとうって言うの。間仲が作業する手を止めて、肩と肩がふれそうな所まで近づいてきた。
「はい。どういたしまして。」
ふふっと笑われて、どっか行ってしまった。立つときにポンポンと肩を優しくたたかれた。意外だったから、すぐに反応できなかった。
なんなんだ!?アイツのあの余裕なかんじは!?なんかムカツク。間仲のくせに。前はもっと小動物みたいなヤツだったのに、今ちょっとモテるからってムカツク!!!
急に間仲が止まってふり返るから、すごくビックリしてしまった。な・・なんだ?
「あんまり色んな事考えこむなよな!」
またふり返って行ってしまった。もう、目をはなす事ができない。ふれられた肩に、まだ間仲の手の感触が残っている気分になった。