妹
紺色にアジサイ柄の浴衣。私の肌と髪の色に合うって心が選んでくれたやつだ。去年買ったのに、丈がもうスレスレだ。これ以上背がのびたら、きっと来年は着れなくなっちゃうだろうな。
「はい回って。腕上げて。ちょっと動かないでよ。このアジサイも今年までの命か。」
ウチのなんでも屋の妹が、帯を締めながら独り言をぶつけてきた。・・・まだ分かんないよ。もう止まるかもしんないし。
同じ物を食べていても私達は見た目も性格も違う。私は身長170センチの痩せ型(自慢)で、成績は常に学年3位以内(自慢)だけど、料理・洗濯・掃除とか家に一歩入ると私はなにもできない。蒼佳は逆で、勉強は・・まぁ、できなくもないけど得意ではないみたい。ちっちゃいし、学校ではあまり目立たないようにしてるみたい。でも、あの子が作る料理とかすごい美味しいし、裁縫とかメチャ上手い。掃除は自分で作った道具を使ってる。しっかりしてて、いいお嫁さんになれるだろう。だけど着付けなんて、どこで覚えたんだろう。
「はい終わり!心ちゃん待たせないでね。」
ポンッと背中を押される。昔は蒼佳も一緒に遊んで、私の後を追っかけてきてたのに、今は全然。大きくなるとあんまり喋らなくなっちゃたし、ちょっと寂しい。
玄関を出ようとしてサンダルを履いたけど、ふり返って脱ぐ。
「蒼佳も行かない?」
リビングで片づけをしているみたいで、聞こえてないみたい。なんかまたブツブツ言っている。ばれないように、後ろから静かに近寄って耳元でささやく。
「蒼佳さんも行きませんか?」
たぶん、私はもう出かけたと思って油断してたんだと思う。猫みたいにギャーっ!!!と叫んで、抱えていた物が宙に舞った。そこまで驚かすつもりはなかったんだけど・・・。
「なにしてんの!?バカなんじゃない!?」
ちょっとなみだ目になって、毛が逆立ってる。
「いや、そういうつもりじゃなかったんだけど、祭り・・蒼佳も一緒にどうかなって。」
はぁーっと深いため息。おとなしい人ほど怒らせると恐いと聞く。この子が怒ったとこなんて見た事なかったから、後ずさりしてしまう。
「15分で仕度するから待ってて。」
くるりと背をむけ部屋に入っていった。
自分で誘ったけど、ちょっと意外だった。言われたとうり15分後、浴衣を着て、髪を上げてちゃんと化粧して出てきた。ビックリだ。こう見ると私に似ている気がする。なんだ。ちゃんとできんじゃん。普段からこうしてればいいのに。サンダルを履くのに玄関に座る。
[全部お姉ちゃんのおごりでいいんだよね?」
今度は蒼佳が耳元でささやいてきた。マジかと思って顔をあげたけど、もう走って行ってしまった。だけど、なんとなくだけど後姿が少しうれしそうに見えた。