薫と葵
「はぁ?何その質問。私と心の関係ってさぁ・・・そりゃぁ友達でしょ。くされ縁とも言えるかもね。長い付き合いだから家族みたいなもんだよ。」
キッとにらんでくる。私もウソはうまくない。たぶんバレバレだと思うけど、知られるわけにはいかない。
「あたし、アンタのこと好きだよ。」
腕を組んでまっすぐ見てくる。突然の事すぎて返す言葉が見つからない。しどろもどろしてると薫の顔がどんどん赤くなってくる。
「バカ!!友達としてだよ。なに勘違いしてんの!?友達として好きなタイプって言ってんの。やめてよ!はずかしい。」
びっくりした。ちょっとあせった。さっきまでのピリピリした空気が和らいで、ホッとする。
薫にはきっとウソつけないな。きっと。いっそ本当の事を打ち明けられたらどんなに楽か、考えなかった訳でもない。でも、今まで築きあげてきた関係が音をたてて崩れていくに決まっているから、分かっているから言える訳がない。自分の気持ちを言えないで苦しむのは、もう慣れたから耐えられるけど、言った事で避けられて一緒にいられないのは耐えられない。大事な想い。誰にも言わないで、1人で胸の中にしまってきた私の想い。心が私の事を万が一、億が一、好きになってくれるまで絶対に言わない。そう決めた。
「仮に私が心に特別な気持ちをもっていても、一番最初にそれを口にするのは心の前だと思う。」
勘のするどい薫ならきっと気づくだろうな。今のでわかっちゃたよね?ばれっちゃったよね?私バカだなぁ。なに言っちゃってんだろう・・。否定し続ければいいのに、なにばらすような事言っちゃって、バカだな私。薫きっと気持ち悪いって思ってるよね?だって女が女を好きなんて普通じゃないもん。私だって分かってる。だけど好きなんだもん。ずっと好きなんだもん。この気持ちはウソつけないよ・・・。
はぁ・・とため息が聞こえる。
「アンタ見てると辛そうなんだよ。心を見る目が。心がはしゃいでるのを嬉しそうに見てるかと思ったら、急に寂しそうな辛そうな感じになるんだよ。一応あたしだって、ナオだって友達だから嫌なんだよ。そういう感じで1人で悩んでるの見んのが。だから・・だからさぁ、なんて言うかさぁ・・言ってほしいんだよ。相談とかしてほしいんだよ。アドバイスできるか分かんないけど、友達なんだから頼ってほしいんだよ。」
以外だ。問いただされてる気分だったけど、違うんだ。心配してくれていたんだ。口は悪いけど、すごい優しくてアツい奴だったんだ。
「ありがと。」
海の家あたりに心と奈緒美が来たのが見える。涙が出てきそうなのをこらえて大きく手を振る。奈緒美は制服を脱ぎはじめた。心が必死に止めているけど、下に水着を着ているらしかった。その光景を大笑いしながら薫と見ていた。
「楽しいよ。皆といると。」
すごいクサイ台詞言った気がして、はずかしくなって心と奈緒美の元に走っていく。後ろから「あたしもだよー!!」って叫ぶのが聞こえた。はずかしい奴。でもすごい優しくてアツい奴。
キラキラと波の粒がまぶしく光っていた。