4.最強の初実戦
午後から屋敷の外に遊びに行けると思っていた僕をぶん殴ってやりたい。ウキウキで車に乗って連れてこられたのは行ってみたかった渋谷!…………の路地裏。
「これはどうなん?風間。これが嫡男に対する仕打ちかよ。ガキなら泣いてんぞ」
「若様は十分、子供でございます」
僕の軽口に真剣に答える風間にうんざりする。こいつ有能だけどユーモアが足んないよ。
「じゃあ今から泣くわ」
目から水を無表情で垂れ流す。さすが僕、ハリウッドスター顔負けの演技力。自分のスペックの高さに惚れ惚れしちゃうよ。
「若様、おふざけはそれぐらいでお辞めください。では今回の任務を説明致します」
僕の涙顔を無視して風間が説明を始めた。
「若様には、この路地裏で確認された3級の妖魔を倒して貰います」
「3級かよ。3級って雑魚なんじゃないの?僕にそんなゴミ掃除やらせんなよ」
「3級は一般的には雑魚ではありませんよ。中級といったところです。ところで若様は妖魔、陰陽師の階級についてどれ程ご存じですか?」
風間の問いに記憶を確認する。ふむ、ほぼ知らん。
「うーん。三位階は弱いってことだけー」
「三位階も一般的には中級です。認識をお改めください。まあ、若様と比べると弱いと言わざるを得ませんが。ごほんっ。気を取り直してここで簡単に階級についてレクチャーいたします。
まず、妖魔。簡単に説明しますとこうなります。
4級:陰陽師なら誰でも対処可能
3級:訓練された一人前の陰陽師なら単独撃破可能
2級:上級クラスの陰陽師で対等
1級:最上位クラスの限られた陰陽師専用
特級:厄災。封印推奨。
そして陰陽師の階級です。
六位階:観察・報告任務。戦闘力なし
五位階:訓練生。4級討伐可能
四位階:半人前。小隊による3級討伐可能
三位階:一人前。3級討伐可能
従二位階:上位クラス。2級討伐可能
正二位階:二位階上位10人。序列戦によって入れ替え
従一位階:最上位クラス。1級討伐可能
正一位階:伝説クラス。歴史に10人ほど
となります。また、外国ではG-A,S級で表されます」
「ふーん。で、僕は今どこなの」
風間の長い説明を聞いて純粋な質問をぶつける。
「若様は従二位階と先の評議会で認められました。特例のことでございます。試験もなしにいきなり従二位階とは」
風間がさも凄いことかの様に言う。風間は気づいてんだろうなあ。僕が不満なことが。
「なんで従二位な訳?僕の実力はもう少し上だろ?」
「従二位階以上になりますと序列戦や実績が必要不可欠なのでご納得ください。それに従二階位ともなれば十分エリートでございます。全体の1%以下ですので」
「じゃあ今のところは納得するしかないか。今日のところはサクッと雑魚いなして実績積むとするかね」
「はい。それがよろしいかと」
風間と別れ、路地裏の奥へ1人で進む。どこかしこから見られてる気配がする。
「風間のやつ、監視あんなら言ってよ。これが試験のつもりなのかね。舐められてんなあ」
独り言を呟きながら更に奥へと入っていく。すると、妖力を垂れ流した下半身が蜘蛛の化け物が視界に写った。
「僕の相手って君?困っちゃうよね、互いに……って危ないなあ、話終わるまえに攻撃すんなよ。服が汚れちゃうだろ?せっかく外出るって言うからおめかししたのにねっ」
喋っている最中に仕掛けてきた蜘蛛人間の攻撃をかわし軽口を叩きながら身体に妖力を走らせ数十m上までジャンプする。
どう反撃しようかな……自然落下しながら蜘蛛ちゃんの殺し方について考える。固有術式はこいつには勿体無いし、かといって妖力を込めた拳で殴るのは身体に汚い汁が飛び散りそうで嫌だし……ま、あれしかないか。
術式を使い、そのまま蜘蛛人間の奥の路地へ着地する。後ろを振り向いて蜘蛛人間を確認すると地面や建物の側面から延びる黒い影に全身を貫かれた蜘蛛人間がいた。蜘蛛人間は数秒カサカサと動いた後、動かなくなり身体が粒子の様になりながら消えていく。
「やっぱ便利だなー『闇影』。汎用性バッチリ」
―『闇影』―
自身と繋がった影を自由に操る。伸縮・変形・分裂自由自在。自身の影と繋がる暗所への移動や影にものを収納できたりと汎用性が高い。しかし影は本体と必ず繋がっていなければならなく面積,体積は変えることができない。
簡単な仕事だったな。僕は術式を解除し、もと来た道を戻って風間と合流する。
「お疲れ様でした若様。これにて今日のご予定は終了です。ご夕食までの数時間ほどなら自由時間としてお過ごしになられますがいかがしますか?」
「まじで?じゃあ、何か食いに行こうよ。腹減った」
「かしこまりました。周辺で良さげのカフェを探します。お車にお乗りください」
風間が開けたドアから車内に入り、そのまま僕たちは渋谷で大人気だというカフェに向かった。
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東京 異能管理局 会議室
「流石だ」
「特例のことでしたが従ニ階位は妥当でしたね」
「のようだな。3級を瞬殺とは……如月家の最高傑作というのはだてじゃないな。現代最強か…………」
「早速次の任務を任せてみよう。その力がある」
「待て。強いというのは同感だが、まだ子供だ。力の使い方を間違えれば日本を危機に晒すことになる。任務を任せるのは情操教育を終わらせてからだ」
「何をいうかバカもんが。現在この国では陰陽師が不足しているのだ。陰陽寮の連中は京都から出てこんし、数も足りていない。特に地方はなんとかギリギリ保っている状態だ。上位クラスの陰陽師は少しでも確保し任務を任せるべきだ」
「そうだな。ただでさえ近年、妖魔のレベルが上がってきているのだ。如月さん、貴方の子息の話だ。貴方はどう思っている?」
口々に雅仁について言い合っていた大人たちの視線が如月家当主照仁に集まる。
「任務に出すべきだ。子供とはいえ遊ばせておく必要はない。まあ、東京付近の任務のみにし首都防衛にまわしてくれるとありがたい。まだ鍛錬も終えてないのでね」
「あれよりさらに強くなるか……頼もしい限りだ」
「如月さんの話はわかった。では、如月雅仁従二階位は首都防衛の任と東京内での妖魔祓いの任につける」
局長の言葉に数人が何か言いたそうにしたが誰も反論はしなかった。局長は全員の顔を見渡し口を開く。
「異存はないようだな。ではこれを決定とし会議を終了とする」
こうして雅仁の知らぬまに重要任務が割り振られた。
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なんか最近忙しい。こんなに忙しい6歳いねえだろ。僕が強いからって何でも任せやがって、家出すんぞ。まあ、そのお陰でここ1年で実力は上がってるし、術式への理解も一定ラインまでは進んだ。ふむ、そう考えると悪くないか。
「若様、余所見していると怪我いたしますよ」
いつの間にか風間のチェス兵に囲まれていた。
「うおっ、人が考えてる時にちょっかいかけて来んなよ。モテねーぞ」
『闇影』の術式を発動させ自身の影を伸ばし、式神の囲いの中から[影渡り]で囲いの外に抜け出す。
[影渡り]―自身の影と繋がる暗所への瞬間移動
「固有術式の方は使わなくてもよろしいのですか?」
「あれ使ったら風間なんて瞬殺さ。手加減してあげてるんだよ。優しいだろ?」
「それはありがたいことですが、『闇影』ばかりではいけません。どんな術式も使いこなしてこその最強です。術式によってムラがあるようではだめですよ」
痛いとこついてくる。実際、僕は『天律統世』を使いこなせていない。術式が複雑で扱いが難しいのだ。その分強力ではあるが……
「……正論だね。じゃあ、使うよ。[護法降臨]」
『天律統世』の《信仰武装》を発動させる。
雅仁の背中に法輪が展開し、僧兵が召喚される。
[護法降臨]―背中に法輪を出現させ、経を読むほど味方の基礎能力は向上し敵の基礎能力を低下させる。
「式神召喚……僧兵モチーフですか。私のチェス兵と真逆のような術式ですね」
チェス兵と僧兵がぶつかり合う。ボーンとは互角だ。でも、向こうの役職付きチェス兵には僕の僧兵が押し負けてしまっている。流石に最低限の妖力じゃ勝てないか。このままだと劣勢なので相手のチェス兵の3倍の数の僧兵を召喚し戦線を拮抗状態に戻す。
「如是。我聞。一時。佛住。王舍城。耆闍崛山……」
僧兵を召喚しながら経を唱えバフをかけていく。
「なるほど、経によるバフ、デバフですか……こちらが劣勢になってしまいましたね。本来であればこれは使わないつもりでしたが、お教えするにはいい機会でしょう。若様、本気で防衛してください。一瞬でも気を抜いたら死んでしまうかもしれませんので」
風間の気配が格段に上がり、僕の脳に危険だと訴えてくる。初めて感じる死の危険。その感覚に生まれて初めての冷や汗が額から一滴こぼれ落ちた。




