3.最強の御披露目
「えらい目にあった」
茶会が終わり今、雅仁は食事会に向けた着物の着付けの最中に風間に愚痴をこぼしていた。
「母上にも困ったもんだよ。あんなに中身のない話でなぜ数時間も話せるんだ。美和もよく付き合えるな」
「あまり奥方様を邪険に扱わないで下さいませ。若様と話せて嬉しいんでございますよ。若様はご多忙ですから。それに美和様のお年は4つ、まだ母が恋しいお年でございますれば」
「僕が4つの時はもう鍛錬漬けだったよ。あんなんで大丈夫なの?父上も何も言わないけどさ。妖力も多いわけではないし、まあかろうじて固有術式は持ってるらしいけど」
「若様は御嫡男ですので美和様とは教育が違うのはしょうがないことです。それに奥方様が美和様は伸び伸び育てるとおっしゃり、ご当主様もそれを承認されたのでゆったりとしたカリキュラムになっております」
「ふーん。まあ、如月家の名を汚さなきゃ何でも良いけどね」
雅仁はもう興味ないと言わんばかりに生返事で風間の言葉に返した。
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―風間総一郎SIDE―
雅仁様の態度を見て美和様に興味ないことを悟る。
やはり、興味を持たれないか……今日の奥方様のお茶会の真の目的はおふたりの仲を深める事だろう。まあ若干、というか絶対雅仁様と話したいという欲が有ったとは思うが。
雅仁様は比肩するものがいないほどに優秀だ。教えたことはすぐに吸収し戦闘力はすでに月牙隊の一般隊員を凌駕している。如月家の最高傑作というのはだてではない。周囲の期待もご自身の求めるものも現代最強。他の事には興味を持たれない。それ故に家族を必要としない。だからご当主様は当主として雅仁様を次期当主として扱い、奥方様は雅仁様に家族として愛を教えようとする。おふたりとも別の方法で雅仁様に必要なものをお与えになっている。
それに比べ美和様は不敬な言い方になるが凡庸だ。妖力、知能、運動神経どれをとっても一般の陰陽師の卵の域を出ない。それ故、さほど期待がかかるわけではなく奥方様の要望通りの育て方がなされている。
ご当主様も父として向き合い奥方様は母として美和様を守っている。
そんなおふたりが仲良く笑い合うことなどできるだろうか。想像もつかぬ。
だが無関心な雅仁様とは違い美和様はよく私に雅仁様について聞いてくる。だから可能性がないというわけではないのだろう。
私にできることは多くはない。精一杯雅仁様の傅役を務めるだけだ。だが、願わくばおふたりが笑い合う未来があることを祈っている。
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着物の着付けが終わり控え室で待機する。すると数分で使用人に呼ばれ、広間に風間を伴って移動する。
「如月家次期当主、如月雅仁様の御成でございます」
広間の扉が使用人の声とともに開く。風間に促され、中に入ると上座に父と母が座っており、その下に如月家分家の当主と僕と同じくらいの歳の子達が平伏していた。
僕は平伏しているものを気にせず用意された父と母の間の上座の座布団の上に座る。
「面をあげよ」
父が言うと一斉に顔を上げた。皆、緊張しているのがわかる。
「雅仁、皆に挨拶を」
「はい」
父の言葉に従って挨拶をする。
「如月雅仁だ。よろしくね」
そう言って笑うと広間の空気が和むのがわかった。父のような厳格な次期当主だと思われていたんだろう。傲慢な性格と言う噂が流れてるって風間が言ってたし。僕はそんな傲慢なショタじゃないっ!誰だそんな噂流したの。とっちめてやる!そう決心していると「よろしくお願いします」の大合唱が聞こえてきて我に返った。今日は世間体のために猫かぶろっ。
その後は何事もなく食事会が進んでいき、1時間ほどでお開きとなった。食事会の最中、いろんなガキがこっちをちらちら見てきたので笑顔を返してあげた。これぐらいは次期当主としてのサービスの範囲だろう。さすが僕。神対応を連発してしまった。これで僕の評判は鰻登りだろう。良いことして気分がいいわ。
この後知ったがこの食事会で次期当主は相手を油断させて品定めする悪魔だと噂が広がった。噂流した奴は処刑決定な。
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食事会の次の日、僕は護衛の月牙隊員と訓練場で模擬戦を行っていた。
「若様、我ら月牙隊第8小隊は本気で戦います。若様もどうぞ遠慮なさらず戦ってください」
「おっけー。僕が勝ったらきみたちの護衛は要らないから午後のお出かけについてこないでね。風間、合図出して」
「では、これより模擬戦始めっ」
風間の掛け声と共に敵の4人中2人が武具で雅仁を攻撃してくる。雅仁は2人の攻撃をかわしながら小隊の攻撃パターンを学習する。前衛2人に後衛2人。模範的な小隊運用だろう。だからまず、後衛から潰すことにする。妖力による身体強化で前衛の2人を突き離し後衛との距離を詰め、反応ができてないうちに後衛の1人をノックダウンさせ、返す刀で後ろから迫る前衛2人の鳩尾に妖力を込めた拳を叩きつけ意識を刈り取る。そしてその後、味方がいなくなりバフをかける相手がいない後衛を軽くいなして戦闘を終了させた。
「そこまで。雅仁様の勝利です」
戦闘開始から30秒で終了の合図が出る。あまりの弱さにため息が出た。
「これが直属の部隊って大丈夫なの?弱すぎて話にならないんだけど……術式も試せてないし」
「若様、若様には三位階が4人ではもはや相手にならないようなので僭越ながら私めが若様の相手を務めさせていただいてもよろしいでしょうか」
「良いけど、風間ってなん位階なの?戦ってるとこ見たことないけど」
「正ニ位階でございます。では参ります。『王の盤上』」
風間の声と共に風間を中心として床が白と黒のマスに置き換わってゆき、風間の周りに洋風な式神が召喚されていく。雅仁は知らぬ術式を警戒しマス上になっていない床まで高速移動し『鑑定』を発動させる。
―風間総一郎 固有術式『王の盤上』―
妖力を使いチェスの盤面を地面に展開しその中で召喚したチェスモチーフの16体の式神を自由に操ることができる。式神は一度破壊されると妖力を注ぎ込んで直さないと召喚できない。また、破壊されてから1日以上過ぎないと再使用不可。式神を出す代わりにその式神の役割を盤上の者に充てることもできる。
《式神能力一覧》
ポーン 8体:兵隊。代償と引き換えに昇格可能
ナイト 2体:近距離攻撃特化
ピジョップ 2体:遠距離攻撃特化
ルーク 2体:貫通攻撃
クイーン 1体:盤上最強。全ての駒の能力を使える
キング 1体:防御特化。駒を破壊されると盤上破壊
読み取れる能力はこのくらいか。深いとこまで見るには時間が足りない。基本能力がわかっただけでも良しとする。術式対策を考えている間に足元までチェスの盤面が広がってることに気づいた。やられたっ。
次の瞬間にはナイト2体に挟まれ正面からピジョップの遠距離攻撃が迫ってくる。
使うしかない。新たに得た固有術式『天律統世』を。
雅仁は固有術式を初めて発動させる。
―『天律統世』―
三つの制御不能を司る能力。三つの能力を同時使用することはできない。
《三権能》
奔流支配:流れを支配する能力。基本的に水流操作だが制御不能な流れを生み出し操ることができる。
天運改竄:確率を支配する能力。全ての事象を強制的に確率化しその確率を操ることができる。
信仰武装:信仰・暴力の能力。相手が自身に対して恐れを抱くほど能力が底上げされる。また、込めた妖力に応じて基礎能力が変わる僧兵を召喚できる。
雅仁は迷う事なく《奔流支配》を使いナイト2体を自身と反対方向に流す。その直後に《奔流支配》を《天運改竄》に切り替え、ピジョップの遠距離攻撃が当たる確率を0に近づけ攻撃を回避した。
「いきなりは酷いんじゃない?それにしてもここまで風間が強かったとはね。さすが、父上の側近のことはあるよ。」
「若様こそ、流石でございます。今の攻撃を初戦でかわせたのは若様が初めてです」
「運が良かっただけだよ。固有術式がなかったら防御を固めて攻撃を受けてた。じゃあ、次はこっちから行くよ」
「お待ちください」
言葉とともに身体に纏わせる妖力を上げ距離を詰めようとする僕に風間の声が聞こえ、足を止める。
「若様、私たちが本気の試合をいたしますと午後の予定を圧迫する可能性があるのでここいらで中止にいたしましょう」
「僕は別に午後の予定無くしても良いけど?」
「それはやめといた方がよろしいかと。今日を逃すと屋敷の外に出るのは最短で1週間後となってしまいますので」
「えー。ならやめとくかぁ。でも不完全燃焼って感じなんだよなぁ」
「それならばナイト2体のみと勝負なさいますか?身体ほぐし程度にはなるかと」
「んー。いや、喋ってたら興醒めしたからいいや。また今度戦ってよ。次はどちらかが勝てるまでで」
「かしこまりました。いつでもお申し付け下さい。全身全霊でお相手させていただきます」
「そうこなくっちゃ。じゃ、ご飯にしよ。お腹すいてるんだよね」
そう言って僕は風間を連れて食堂に向かい昼食を取った。今日の昼食は自家製ハンバーガーでとても美味しかったです。シェフ、good job!!
こうして僕の初めての術式戦は中途半端な形で幕を下ろしたのだった。




