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第五十九話 古武術・薙刀(二)

剣道対薙刀の異種目試合稽古がはじまる

剣道とは異なる間合いに真貴は戸惑う

 休みを取りながら、小一時間の地稽古が終わった後、薙刀の静香と、竹刀の真貴との異種目試合稽古が行われることになり、稽古に来ていた七名の門下は壁際で見学。指導者の一人が主審を務め、もう一人は補助についた。道場主の竹本寿和も現れた。


 ルールは薙刀と同じく面、小手、胴、脛を有効打突部位とした。加えて静香の要望で、地稽古では禁じている咽喉も有効打突部位とすることになった。 


 真貴は、時折、佐間の剣道教室で稽古をしていたが、久々の未知の相手との試合であり、しかも、つい先ほどまで、その威力を思い知らされた薙刀との試合に身が締まる思いだった。


 二人はそんきょの姿勢から立ち上がり、真貴は右足前の剣道の構え、静香は左足前の薙刀の構えで向き合った。審判による「はじめ」の声とともに真貴は下がって間合いを取ろうとしたが、静香は素早く間合いを詰めてくる。動きが先ほどまで相手をしていた学生とはまるで違うレベルにある。


 真貴が静香の左側に踏み込もうとしたところ、静香は左足を踏み込みながら薙刀を旋回させた。刃先は真貴の右脛を狙って、弧を描いて迫ってくる。真貴は咄嗟に竹刀を下段に構え、刃の軌道に竹刀を差し込んだ。

 薙刀の物打ちが竹刀に当たった瞬間、衝撃が真貴の腕から肩へと突き抜けた。竹刀がきしみ、足元が揺らぐ。薙刀の遠心力と重量が、竹刀の受けを押し切った。真貴は一歩後退しながら体勢を立て直そうとしたが、左足の踏ん張りが崩れ、腰が落ちた。その隙を逃さず、静香は柄尻で牽制を入れ、薙刀の刃先を脛に滑らせるように打ち込んだ。

「一本!」

 審判の声が響く。

 真貴は息を整えながら、実力者の薙刀の一撃は“受ける”だけでは止まらないことを痛感した。


 二本目が始まった。


 真貴の一本目の反省は間合いであった。薙刀は届くが竹刀は届かない間合いに入ると、一方的に打ち込まれる。相手が実力者だと、薙刀の打ち込みの威力は、竹刀のそれとは比べ物にならないくらい強烈だ。薙刀が届かない間合いと取るか、竹刀で有効打突が放てる距離まで近づくしかない。静香の動きが把握できるまで、真貴は距離を保つ作戦に出た。


 静香は真貴が薙刀の威力と間合いを理解したことを悟った。薙刀を中段に構えたまま小さく切りつけても、真貴の巧みな足さばきと竹刀さばきでいなされる。そこで遠間にいる真貴の竹刀を飛ばすくらい強く大きく切りつけようと決めた。

 

 真貴は静香が細かく距離を詰めるのをやめて、薙刀を八相に構えるのを見た。薙刀は竹刀より重く長いので、動き出しの初速は遅い。さらに強く打ち込もうとするとテイクバックが必要になり振りは大きくなる。


 静香が八相から小さくテイクバックし左足を踏み出した瞬間、真貴は膝の力を抜き姿勢を低く保ち静香の左側に駆け込んだ。護身術で習得した膝抜きからの突進である。


 静香は真貴がより遠間に逃げると予想して切り込んだ次の瞬間に、真貴が一番打ちにくい左手前に飛び込もうとしていると気付いたが、そのまま切りつけるしか選択肢はなかった。


 真貴は姿勢を低く保ちながら、右手を竹刀から離し、柄尻を左手だけで握り、静香から離れながら、気合もろともに静香の左脛を竹刀で払った。

「一本!」

 審判の声が響く。観戦していた門下生から「おお―」の声が上がり、ざわめきが続いた。

 

 静香は竹刀で脛を払われたことに驚いた。何度か剣道との試合をしたことはあったが、脛を見事に打たれたのは初めてだった。


 三本目。 


 静香は二本目を反省していた。冷静になれば真貴の戦術は、妹の夏美を破った時と同じであった。力業で切りかかる相手を真貴は恐れずに懐に飛び込んでくる。静香は普段は封印している突きを使うことにした。


 静香は中段に構えたが、真貴は静香が薙刀を握る位置を変えたことに気が付いた。真貴に近い左手は柄のほぼ真ん中、右手は柄尻に近い場所を握っている。真貴は、静香が突いてくると判断した。

 

 遠間から静香が仕掛けてきた。最初は脛を払うと見せかけ、突入すると同時に切先を上げて、咽喉を突いてきた。真貴は竹刀で払いつつ、半歩右にかわした。


 地稽古でも試合稽古でも突きを使うことがない静香が鋭い突き技を見せ、真貴がそれをかわした瞬間、観戦者たちからは、ざわめきの声が上がった。


 静香も真貴も相手との間合いが掴めてきた。真貴が距離を保とうと円を描きながら逃げるのを静香は左足を軸に右足を踏みかえて追いかけ、機を見て大小の突きを繰り出す。真貴は大きく突いてくるのを待ったが、静香は慎重に真貴を追い詰めてきた。試合場の隅に追い込まれそうになって、真貴は思い切って前に出た。突いてきた静香の左側から薙刀の柄を竹刀で押し下げながら静香と肩どうしを合わす形になった。


 静香も真貴も、この体制のままでは埒があかないことはわかっていたが、互いに次の展開が予想できず、押し合いの膠着状態が続いた。観戦者たちも固唾をのんで見つめていた。


 先に手を思いついたのは静香だった。『薙刀を引き上げるのをやめて敢えて下げる。そのまま体を離しつつ薙刀を左に旋回して真貴の右足を柄で払おう』

 真貴は接している体の感触が変わったことで、静香が何かを思いついたことに気付いた。『足元が狙われている!』。真貴は静香の動きを察知した。


 真貴が力を抜くのが静香が力の方向を変えるのより僅かに早かった。静香は一瞬動きを停めてから薙刀を左に旋回させた。真貴は静香から離れつつ、飛び上がった。その足の下を薙刀の柄が抜けて行った。


 静香は空振りした薙刀をそのまま旋回させて真貴の右面を打ちに行った。真貴は着地した瞬間に踏み込み、左片手突きを放った。双方の打突が当たった瞬間、道場主、竹本寿和の声が響いた。

「相打ち!そこまで」

 門下生全員が立ち上がり拍手した。


 互いに礼をして下がり面を取ると、静香の顔には歓喜が満面に溢れていた。

「望月さん、ありがとう。すごく楽しかった」

 真貴も嬉しさで自然に笑顔となった。

「私こそ、ご指導、ありがとうございました」

「私、望月さんの突きを受けてみたくて『突き有り』のルールを提案したんだけど、結局、私が先に突きを仕掛けるまで追い詰められたのよ」

「あの突きは怖かったです。薙刀竹ですから、思い切って前に出られましたが、真剣だったら、ひたすら逃げるしかなかったと思います」

「望月さん、強くなってる。二本目、薙刀使いの足元に飛び込んで脛を払うなんて……二年前の夏美のショックが分かる」

「あれは護身術の教室で教わりました。私は素手の教官に足元を取られ転倒しました」

「護身術か……修業してるんだね。また、やろうね。楽しみにしてる」

「はい、機会があれば、是非」

 道場主の竹本寿和が声をかけてきた。

「二人とも、ほんとうに素晴らしかった。ここまで高度な薙刀と剣との試合は見たことがない。いいものを見せてもらったよ」

 真貴は寿和に向き直り、深く礼をした。

「竹本様、本日はありがとうございました。一日だけですが、薙刀の修業を体験でき、ほんとうによかったです」

「また来てくれたまえ。そうそう、龍口君によろしく伝えておいてくれ。望月真貴君」

 寿和は何度もうなずいていた。


真貴は薙刀を体験できた

千年前に戻るための学びは続く

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