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第二話 伝承の子

佐間の旧家、龍口家では親族会議が行われていた

伝承の子が現れたかもしれない……

 六月半ばの夜、佐間町の旧家・龍口家の書斎では、当主の龍口義弘(よしひろ)と息子の義人(よしと)が、パソコンの画面を挟んで義弘の姉・(さと)、そして弟の礼司(れいじ)とオンライン会議を始めていた。

「姉さん、礼司、急な呼び出しで済まんかったな。驚いたかもしれんが、……ついに、言い伝えの子が現れたようなんだ。これまでも紛らわしい話は何度かあったが、今回ばかりは……私は、本物だと思っとる」


 義弘は隣の息子に目を向けた。

「義人、お前から彼女が見つかったときの状況を説明してくれんか」

 義人はうなずき手元の手帳を開き、淡々と語り始めた。

「はい。まず、警察から町役場に提供された情報です。彼女が発見されたのは、昨日の午前五時二十分ごろ。湯多神社の参道で倒れているのを、新聞配達員の菅田安次さんが見つけ、すぐに消防と警察に通報したとのことです」


 義弘が確認した。

「昨日の夜半は雷が鳴っていたし、明け方には揺れたな。あの地震のすぐ後か?」

「ええ、そのとおりです。彼女はすぐに救急車で佐間総合病院に搬送されました。警察は、家族とはぐれた子か、あるいは遺棄の可能性もあると見て、神社周辺の防犯カメラや車載映像を調べました。ですが、映っていたのはすべて地域住民で、彼女が乗っていたと思われる車や歩いてきた痕跡は確認されていません」


 礼司が画面の向こうから口を挟んだ。

「……ということは、あの子は神社に“現れた”としか言いようがない」

「はい、現状ではそのように判断されています。今日は警察の立ち入りもあったため控えましたが、明日の早朝、私が神社裏の潜龍窟を確認しに行くつもりです」


 義人は一息つき、手帳をめくった。

「次に、消防と病院からの情報です。発見時、彼女は意識不明で、血圧低下と浅く速い呼吸が見られ、非常に危険な状態でした。集中治療室での処置により、昼過ぎには危機を脱しましたが、検査では低血糖と脱水、そして深刻な栄養不良が判明しました。現在も治療が継続されています」

「意識は戻ったのかい? 話はできそうなのか」

 義弘が眉をひそめて尋ねた。

「今朝、意識は回復したようですが、まだ会話はできていないとのことです。看護師が声をかけると、何か話そうとしてはいるようですが、声にはならず……」


 そこへ、仁が静かに口を開いた。

「……ねえ、その子はどんな子なの? あなたたち父子の話を聞いていると、まるで調書を読んでるみたいで情景が浮かばないわ」

「叔母さん、申し訳ありません。役所の人間なもので……。私自身はまだ直接面会できていないのですが、警察の報告では、年齢はおよそ九歳。長い黒髪で、白い麻の着物を着て裸足だったそうです。手には横笛を握っていたとのこと」

 仁が声の調子を変えた。


「……白装束に笛? それなら、本当に“あの子”の可能性が高いわね。それで潜龍窟が開いていたなら……。その子、なるべく早く会えるよう手配してちょうだい。“あの子”なら今の言葉は通じない。通訳がいるわ」

 義人がうなずいた。

「頼りにしています、藤森国文学教授」


 礼司が義弘に尋ねた。

「兄さん、今日はまず私たち“知っている者”だけで話をしたけど、この先はどうするつもり?」

 義弘はうなずき、少し口調を柔らかくした。

「まずは、本人と会って確かめることだな。本物と分かれば、当然、我が家で引き取る。なによりも、うちの家族の理解と協力が欠かせん。皆にはきちんと説明するつもりだ。驚くとは思うが、これはありがたいことだ。きっと受け入れてくれると信じとるよ」


マキは伝承の子か?

龍口家のメンバーが動きだす

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