表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/38

第二十一話 小学校転入

真貴は小学校に転入した

結衣は「自分が守らなくちゃ」と構えたが、真貴はすんなりと小学校になじんでいった

 結衣が通っている小学校の二学期は八月二十三日に始まる。龍口家では真貴の就学の準備を進めていた。教科書類や学習道具は問題なくそろったが、戸惑ったのはランドセルだった。


ショッピングモールでは来年度春入学児向けのランドセルの予約販売はしていたが現物はなかった。通販サイトから購入する話をしていた時、帰省していた知佳が「私の使ってみる?」と言って、自分の部屋の押し入れにしまっていた赤いランドセルを持ってきた。少し年季は入っていたが、大きな傷みはなかった。真貴は「これがいいです。使わせてください」と言って、知佳のランドセルを大切そうに抱きしめた。何度か剣道の指導を受け、神楽で舞う姿を見て、知佳は真貴の憧れになっていた。


 八月二十三日になった。結衣は夏休みの課題類をもって一人で登校した。真貴は美和子に連れられ、まず校長室に行くことになった。

 二学期はいつものように体育館での全校集会から始まった。校長先生の長々したお話がようやく終わり、結衣はクラスメートと教室に戻り、ホームルームが始まった。しばらくすると結衣の教室に教頭先生が真貴を連れて現れた。結衣の担任の先生が教卓の横に真貴を案内し、黒板に「望月真貴」と書いた。

「『もちづきまき』さんです。今日からこのクラスで一緒に勉強することになりました。真貴さん、ご挨拶できるかな?」

 真貴は美和子に連れられ学校に着いて、美和子と別れてからは少し心細かった。しかし教室に案内され、結衣がいるのを見て安心した。目が合うと結衣がうなずいた。

「望月真貴です。よろしくお願いします」


 真貴が顔を上げはっきりした声で挨拶し、両手を前にそろえてゆっくりお辞儀をするのを見て、結衣も安心した。まわりを見るとクラスメートたちが真貴の凛とした佇まいに声を失っていることに気づいた。今のところ真貴の親友は自分だけと思うと結衣は誇らしかった。


 二学期の初日は午前中で学校は終わる。結衣は真貴と連れ立って帰宅した。クラスメートの何人かが真貴に話しかけたそうにしていたが、結衣が真貴をしっかりガードしていたので、結局、真貴は結衣だけと話して帰宅することになった。

「真貴ちゃん、困ったり、変なこと言われたりしたら、わたしに言ってね。そんなことする子は許さないから」

 結衣が下校中に真貴に言うと、真貴は笑顔で答えた。

「結衣ちゃん、ありがとう。すごくうれしい。でも、そんなに心配しないで。困ったときは相談するから」

 翌日から結衣はガードを少し緩めた。クラスメートの何人かが結衣の顔色をうかがいながら、おずおずと真貴に話しかけ始めた。真貴はにこやかに答えていた。


 真貴の学校生活はスムーズに始まった。結衣は「何かあったら自分が真貴を守ろう」と気負っていたが、拍子抜けするくらい何も起きなかった。真貴は授業中は集中していた。自ら手を挙げて発言することはないが、指名されればためらうことなく音読したり質問に答えたりする。算数ではまだ少し理解が追いついていないところもあるが、レベルを上げつつあった。クラスメートとの関係も少しずつ築かれていった。もともと結衣と話すことが多かった女子たちが結衣と真貴との会話に加わるようになった。


 中には「真貴ちゃん、どこから転校してきたの?」と尋ねる子もいたが、そこは結衣が真貴の答えに先回りして「海外なのよね、真貴ちゃん。あちこち移ってきたのよね」と答えると、質問した子は『聞かないほうがいい話なのかな』という雰囲気になった。男子たちはまだ近寄りがたいようで様子見をしていた一方で、真貴が剣道をやっているらしい、という噂が男子たちの間で広まりつつあった。


 真貴はお盆明けから義弘に連れられて剣道教室に週に一度、通い始めた。知佳から譲り受けた防具を身に着け、稽古をするのが楽しかった。元町長で長年の指導者である義弘が連れてきたこともあるが、礼儀がきちんとした真貴は剣道教室の指導者たちからも同年代や年上の子どもたちからも好意を持って受け入れられた。義弘は稽古を指導しながら、真貴の技量が同年代の子たちを大きく上回っていることを密かに楽しんでいた。


 結衣が真貴の意外な一面に気が付いたのは体育の授業でポートボールを行った時だった。ポートボールはバスケットボールを小学生用にアレンジした競技で、バスケットゴールの代わりにポートマンと呼ぶ競技者が台の上に立ちボールをキャッチすると得点になる。真貴は初めてのプレーの時には戸惑っていたが、すぐに理解してスムーズに動けるようになった。


 ポートボールはバスケットボールと異なりドリブルが許されていない。チームのキープレイヤーである結衣はボールを手にするとできるだけ前線にボールをパスし、さらに前線へと自分が走り込みパスを受けてゴールしようとする。しかしながら、チームスポーツはそうそう結衣の思い通りにはならない。結衣からのパスを受けた味方が相手のガードに邪魔されて、結衣にパスを送れず、最終的にはボールを奪われることがたびたびあった。


 何度目かのチーム分けで結衣と真貴は同じチームになった。味方陣地の奥でボールを手にした結衣はパスできるレシーバーを探した。真貴がコートの左側を駆け上がりはじめた。結衣は右側に駆けだしながら相手の背後に出た真貴に高いボールをパスした。結衣が前線に走り込もうとした時には真貴は相手のガードに囲まれていた。結衣は真貴と目が合った。「真貴からパスが来る」と確信した結衣はシュートが可能な位置で構えた。次の瞬間、相手ガードも結衣も驚く展開になった。真貴はいったん腰を落としガードの上にパスを出すフェイントをかけたと思うと、相手ガードの足元を抜くワンバウンドパスを結衣に送ってきた。結衣はボールを受け取り、ゴールを決めた。その後も二人の活躍でチームは勝利した。


 その日の下校時、二人はおしゃべりしながら帰った。

「真貴ちゃん、すごい!あんなに囲まれても落ち着いてパスできるなんて!」

「結衣ちゃんが、必ずゴールしてくれると思って頑張りました。うまくいきましたね」

 結衣には真貴に尋ねたいことがあった。真貴は相手に囲まれたときに、右足を軸にピボットをしていた。ボールを送るときは、たいてい右足で踏み込んでいた。

「真貴ちゃん、もしかして左利き?」

「はい、そうです。お箸や筆は母から右を使うように教えられました」

「えー?それたいへんじゃなかった?」

「昔はそういう決まりでしたから。ただボールを持つと左になります」

「剣道はどうなの?」

「剣道も右で稽古していますが、たいへんなことはないです」

「そうなんだ……」

 二人はつくつくほうしの鳴き声が遠くに聞こえる道を龍口家に向かった。


結衣は真貴のスポーツにおける意外な一面にびっくりした

真貴の社会生活は順調にはじまった

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ