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第十八話 夏休み

八月、夏休み。結衣は真貴と一緒に過ごすのが楽しくて仕方がなかった。

 八月に入った。結衣は真貴と一緒に過ごす今年の夏休みは楽しくて仕方がなかった。結衣には年の離れた兄の昌平と姉の知佳がいる。物心ついた時から、二人は結衣をかわいがってくれた。幼稚園の頃から夏休みはたっぷり兄姉と過ごした。姉の知佳は面倒見がよくて、よく遊んでくれていた。しかしながら昨年、結衣が小学校三年生になった夏は事情が変わった。兄は大学受験、姉は高校受験で忙しく、結衣に割く時間はほとんどなかった。結衣ははじめて寂しい夏休みを過ごした。ところが、今年は真貴がいてくれる。


 結衣は父母との朝ごはんを終えると、筆記具と一緒に「夏休み帳」やドリルを持って母屋に行く。母屋では早起きして剣道の練習をした真貴がすでに美和子に勉強を教わっている。結衣と真貴は、午前中、美和子の指導で勉強して、昼ごはんを食べてからは、本を読んだりおしゃべりをしたりして過ごす。ときには義弘が車で二人を図書館に連れて行ってくれた。


 真貴の習得力は素晴らしかった。理科や社会はまだ追いつけていないものの、わずか一か月あまりで算数はもう少しで三年生のレベルに届きそうだった。特に力を入れていた国語は四年生のレベルに達し、長い文章を読むことも、日記をつけることもできるようになっていた。


 八月の第一週の終わり、龍口家では大人たちが再び会議を開いていた。

 圭が話をはじめた。

「今日、昼に知佳から電話がありました。剣道部の合宿が終わるので、来週の水曜に帰りたいから迎えに来てとのことです」

 知佳は長野市の高校に入学後は寮生活を送っている。

「昌平からもメールで『お盆には帰るかも』」と連絡がありました」

 昌平は東京の大学に入学していた。


 義人が父に尋ねた。

「昌平と知佳には真貴のことは『事情があって結衣と同じ年の女の子を預かることになった』とは言っています。しかし、お父さんもご存じの通り、あの二人には言い伝えのことは、まだ話してないんですよ。どうしましょうか?」

 義弘は顎に手を当て、考えながらつぶやいた。

「昌平と知佳か……。真貴を目の前にしておいて、いきなり、言い伝えの話をするのはやりにくいなあ……。知佳はまだ受け入れてくれそうだが、昌平は理屈で納得できないものは受け入れないしなあ……」

 皆しばらく黙り込んだ。


 やがて美和子が沈黙を破った。

「そうですねえ……結衣の協力が必要ですが、二人には、先日話し合ったように『真貴は龍口家の遠い親戚の子で、海外で両親が事故に巻き込まれて亡くなり、我が家で預かることになった』という話でいいんじゃないでしょうか?」

 圭が心配そうに言った。

「よその子でしたら、会ってる時間も短いし、それほど関心も持たないでしょうから『親戚の子』で何とかなるでしょうが、昌平と知佳はしばらく家にいることになりますし、強く興味を持つと思います。そして二人とも聡いですから……」


 美和子が答えた。

「そうです。賢いからこそ、このやり方がいいと思います」

 皆、怪訝そうに顔を見合わせた。美和子が続けた。

「やがて二人とも『ただの親戚の子じゃない、真貴はほんとは何者なんだ?』と思うようになるはずです。その時に言い伝えの話と真貴を迎えた経緯を話せばいいんです」

 義弘がうなずいた。

「なるほど。自分が違和感を抱くようになれば、理屈で説明できない話も受け入れやすくなるというわけか。このやり方なら昌平を納得させる余地がありそうだな。うん、これで行こうじゃないか」

 義人も圭もうなずいた。


結衣の姉、知佳と、兄、昌平が龍口家に帰省する

真貴の秘密は守れるだろうか?

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