未知の白い箱
美術館の中にはひとつの箱があった。
人の頭がすっぽり入る大きさの、真っ白な箱。
模様も何もないそれは、だだっ広い展示室の中央にぽつんと置かれ、四方からの光のせいか、影を失っていた。
──不気味。
その感覚が全身をじわりと支配していく。
私は近づき、周囲を見渡した。白い、箱。
中が詰まった四角いブロックではないことが、
直感的にわかる。
箱の中の空間が、息づいている。
背筋に悪寒が走った。
私の動作に呼応して、箱が脈動した気がする。
近くには小さなパネルがあった。
この作品のタイトルが書いてある。
『未知』
そしてたったひとことの解説。
「どうぞ、中をご覧ください」
──私はしばし考えたが、好奇心を抑えきれなかった。
箱の縁に手を添え、ゆっくりと開ける。
覗いた瞬間、そこには静かに動く小さな私がいた。
箱の周りをゆっくりと歩き、恐る恐る箱を伺う私。
そして箱を開け、中を覗いている光景がそこにあった。
私は一瞬、後ろを振り向く。
天井のレンズが瞬きしたように見えた。
子供騙しだ。そう思った瞬間、胸の奥がわずかに冷えた。
この展示室自体が箱。
私は構造を理解し、もう一度、箱の中を見た。
しかしそこは、黒だった。光を呑み込む黒。
説明のしようがない沈黙が、目の前に広がっていた。
光も、視線も、そこで途切れている。
そう思った瞬間、その箱がまた、息づいていると感じた。
視線が徐々に、飲み込まれていく。
──その箱は、じっと私を見ていた。




