甜蜜
「ご主人様!」
天使の従者は屋根裏部屋の窓から帰宅すると、窓枠から飛び跳ねて私の胸に飛び込んで来た
天界で何かしらの素敵な願いを叶えた事は、その明るい表情を視れば明白だった
天使族はこの世に生を受けてから十年が経過するごとに、『天界で小さな願いを一つ叶えて貰う権利』を獲得する
今回の彼の帰郷は、その祝いの為のものだった
「ご主人様」
「どんな願いを叶えて貰ったか、当ててみて下さい」
私の両腕の中に抱かれている小さな躰が、いたづらな上眼遣いで視上げてくる
従者たちの中でも飛行の為か華奢な躰付きの彼が、少し重くなって居る気がする
甘い匂いもするし……
「なにか、お菓子でも沢山貰ったのか?」
私が答えると天使の従者は、むくれた表情で羽ばたいて近くに在った革張りの椅子へ着地し、座った
「不正解です」
「天界で、躰の部位一つを総て飴に置き換えて貰いました」
なるほど、と私は思った
重さも甘さも飴が原因だったのか
「いや……」
「なんで?」
せっかくの願いを何故そんな事に、と私は思った
答えは直ぐに、彼自身の口から端的に語られた
「ご主人様と遊びたいのです」
華奢な躰が甘い香りを撒きながら、脚を組む
「ご主人様、僕の何処が飴になったと思いますか?」
「その場所を嘗めてみて下さい」
天使がくすくすと笑う
僕は無遠慮に彼に近寄ると、首筋に噛み付いた
ハズレだったらしく、柔らかい感触と血の味が口腔に静かに広がり始めた
「ちょっと!!」
四肢をばたつかせて暴れながら、従者は当惑を視せた
「ここじゃない事くらい、視れば解りませんか?」
「それに噛まないで下さい!飴を噛むタイプなんですか!?」
私はそうだと答え、「首で無いならば、私は指か腹だと思っている」と彼に伝えた
彼は恐怖で少し後ずさったが、背もたれより後ろに逃げる事はそもそも出来ず、単に座り方が深くなっただけだった
「違いますよ、ここです………」
天使の少年は恥ずかしげに視線を伏せると、右脚を包むソックスをゆっくりとめくった
膝から下は飴へと置き換わって居る
紅くけばけばしい輝きが、部屋の薄暗い灯りの下で妖しく僕の瞳に映る
一流の職人でもここまでは作れないというくらいに、細い爪先、柔らかな踵の膨らみ、骨張った足首、滑らかな足の甲の優美な曲線が、彼の足の形そのままだった
「噛まないで、大切に味わって下さいね」
私は自分の吐く息が、いつの間にか熱いものになっている事に気付いた
天使の顔すら視ず、一歩ずつ彼の突き出した爪先へと近付いていく
口付けると、造り物のイチゴの味がした




