第6話 止まらない“初めて”たち(編集版)
※本章は【編集版】として、深い描写をカットして再構成しています。
完全な内容をご希望の方は、NOTE掲載の【完全版】をご覧ください。
1か月限定 ―― とはいえ俺には平日フルタイム勤務がある。
会えるのは基本、毎週土日のみ。
だからこそ平日のLINE戦線が命綱だった。
就業時間以外はスマホを握りっぱなし。ほぼ常時チャット状態。
それに付き合ってくれる唯ちゃん。
俺:
服装とか全く分からないんだけど、デートっぽい服とか教えてもらいたいな〜!
唯ちゃん:
それなら次の土曜は洋服を買いに行きましょう!
私がコーディネートしますから、ぜんぶ任せてくださいね♪
おしゃれに無頓着な俺のために、唯ちゃんがスタイリストを買って出てくれた。
唯ちゃんは普段から服とか美容とかトレンドに詳しいのは知っていたけど、
まさか俺のために全身コーデしてくれる日が来るとは……!
正直、めちゃくちゃありがたい。
そして、服を女の子と一緒に買いに行くなんて、そんな経験は人生初。
それだけでめっちゃデートっぽくて、前日からそわそわしていた(笑)
◆ 土曜:恋のスタイリストは君でした
通ったこともないような駅前の脇道にある、洒落たセレクトショップに到着。
まるで異世界。モデルでも出てきそうな空気感にちょっとビビりながら、
唯ちゃんに言われるがまま、試着を繰り返していく──。
■くすみブルーのサマーニット(ニットなのに涼しくて柔らかい肌触り)
■黒のテーパードスラックス(脚がすっきり長く見えるやつ)
■白ソールのレザースニーカー(めっちゃ軽い)
■手首にシルバーのバングル(こんなの人生で着けたことない)
■ミニマルなレザーのサコッシュ(サコッシュって言葉を初めて聞いた)
■そして、人生初・5万円超えのチェスターコート(淡いキャメル…っていうのは色の名前らしい)
どれも自分じゃ絶対に選ばない服ばかり。値札を見ては白目になりかけたけど――
試着室から出た俺を見て、唯ちゃんが言った。
「すごく……カッコいいです。……惚れ直しました♪」
その瞬間、レジまで一直線。
今の俺、ちょっとだけ、主人公だった。
もう、惚れ直したとかさ、ニヤニヤが止まらなくなるじゃん(笑)
ちなみに、なんでこれから夏になるのにコートまで買ってるのかって?
そんなの決まってるでしょ。
冬服まで一式フルコーデしといてもらわないと、冬になったら何を着たら良いか自分じゃ判断できないからさっ!
爽やかに言っても童貞感丸出しだな(笑)
◆ 日曜:ノートの隙間に、恋が溢れた
大型商業施設のフードコート奥、ちょっと静かな共有テーブル。
コーヒー片手に、唯ちゃんの勉強を手伝っていた。
俺は一応それなりの大学を出ているし、数学は特に得意だったから、唯ちゃんが苦手な数学も秒で解決。
「ユウさんて、本当に頭いいんですね。……また惚れ直しました♪」
笑顔でそんなこと言うの、ずるい。
声がちょっと小さくて、目がちょっと潤んでて、しかも頬を赤くして、「えへへ//」とか言いながら…反則でしょ、それ…。
「そんな殺傷力高すぎる発言は困ります!」
……と内心ツッコミつつ、俺も負けじとノリで反撃。
「俺の方こそ惚れ直したわ」
って、耳元で囁いてみたら――
「えっ?なんでですか? 惚れ直す要素なんて私のどこかにありましたっけ?」
と、ちょっと首を傾げて笑う唯ちゃん。
俺は少しだけ間を置いて、
「……勉強をちゃんと頑張ってるとことか、
真面目なとことか、
その、……頑張ってる時の顔が可愛いとことか……?」
って、ちょっと照れながら答えたら――
「ボッ!」
って、効果音が聞こえるレベルで顔を真っ赤にする唯ちゃん。
「……ユウさん、ずるいです……!」
と、小声でうつむきながら、袖の端をキュッと握る彼女。
可愛いすぎないか!?!?!?
いやもう、こっちの心臓が爆発するかと思った。
これ、試験勉強どころじゃない。
もうすでに恋の偏差値が爆上がり中です。
少し休憩してちょっと落ち着いて…。
施設内をふたりでウィンドウショッピング。
子供服の店を見て「これ、将来子どもに着せたいです!」とか
ペアのパジャマ売り場で「これ、ふたりで着たら可愛いかも」なんて
無意識の破壊兵器みたいなことを平気で言ってくる無邪気な唯ちゃん。
俺の脳内はすでに3年後の結婚式場を検索していた。
そして、
帰り際――
「ユウさん。今日、ずっと楽しかったです。また勉強教えてくださいね」
と、名残惜しそうに笑う彼女を見て、
“この子を好きになって、本当によかった”って思った。
甘すぎて、コーヒーが無糖なのに砂糖入ってる気がした。
いや、嘘ついた、砂糖たくさん入れたんだったわ(笑)
俺コーヒー苦手だけど、カッコつけたくて頼んだから、苦くて苦くて(笑)
なんて1人コントして週末が終わった。
◆ 平日:その一行が、心を撃ち抜いた
日曜日のデートが終わって、いつものように平日のLINE戦争が始まった。
おはよう、おつかれさま、ただいま、寝るね――
そんな何気ないやり取りの中に、時おりドキッとするような甘い言葉が混ざりはじめる。
唯ちゃん:
ユウさんと一緒にいると、時間があっという間なんです。
この前も、帰りたくなかったです。
……そんなメッセージが届いた夜は、布団の中で何度も読み返してしまう。
平日の疲れなんて、彼女の一言で吹き飛ぶんだから、ほんと、単純なものである。
その夜も、他愛ないやり取りが続いていた。
夜遅く、お互い「そろそろ寝ようか」なんて言い合いながらも、話は終わらず、
いつの間にか話題は“恋人同士のこと”に。
俺は無意識に、こんなメッセージを送っていた。
俺:
恋人らしいことって、他に何があるんだろうね?
……そして、届いた返事は。
唯ちゃん:
……じゃあ。
次の土曜、キス……してみますか?
……。
…は?
……時が止まった。
画面を見つめたまま、10秒以上、思考停止。
「え……? キス……??」
脳内のアラートがフル作動。
何かそういう流れがあったのか思い返そうとするも、全部吹っ飛んだ。
俺:
え、ま、マジで!? いいの!?
指が震えてるのが、自分でも分かる。
でも、送らずにはいられなかった。
唯ちゃん:
恋人なら普通ですよ?(笑)
……したくないんですか?
その一文で、スマホが爆発するかと思った。
俺:
し、したいに決まってるって!!
打ち終わったあと、何度も読み直して、
「あ〜!! したいとか言っちゃった〜〜!!!」と布団に顔を埋めて悶絶。
──でも彼女は、笑うように、言った。
唯ちゃん:
じゃあ次会ったとき、しましょうね(笑)
……完全に、とどめを刺された。
それ以降、俺の時間感覚は「土曜までのカウントダウン」だけになった。
仕事中も上の空。昼休みにはリップクリームを検索。
鏡の前で口元をチェックする自分に気づいて、ニヤける。
……初キス、である。
これはもう宇宙規模のビッグイベント。
ブラックホールに吸い込まれるより緊張するやつだ。
◆ 決戦の土曜日:小さな距離、大きな勇気
そして迎えた、土曜日。
……何が起きたかは、ご想像にお任せします。
(※気になる方はNOTEで公開している完全版でお楽しみください)
初めての体験に、脳がフワフワして。
夢のような時間だった。
それだけは、確かに覚えてる。
――その後のことも。
「せっかくだし、呼び方変えてもいいですか?」
「いいよ。どう呼ぶ?」
「……あっくん、ってどうですか?」
「今まで呼ばれたことない! お願いします!」
「じゃあ、あっくんで(笑)」
「俺も呼び方変えたいな。……みーちゃんでいい?」
「嬉しいです、あっくん♪」
「ありがとう、みーちゃん♪」
「ここで“ありがとう”は変ですよ(笑)」
なんて、甘々な時間は瞬く間。
みーちゃんには門限があるので、名残惜しく解散。
▶ 第3章 ― 第7話につづく。
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※編集版として改変したことで違和感があると思いますがご了承ください。
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