第5話 “お願いします”の、その重さをまだ知らない
帰宅後、俺は思い切って唯ちゃんにLINEを送ってみた。
あの空気感が、もう一度味わいたくて。
俺:
お疲れ様です!今日は一緒にカラオケできて楽しかったです!
〜〜〜あまり意味のない長文なので省略〜〜〜
他にも歌ってもらいたい曲がたくさんあるんでお願いしたいな〜なんて思ったりして(^O^)
唯ちゃん:
こちらこそありがとうございました♪
じゃあ次は今日歌わなかった曲を歌いますね!
俺の童貞感丸出しの長文にも、唯ちゃんは要点を拾ってテンポ良く返してくれる(笑)。
気づけば一日があっという間になっていた。
土日は必ずケンさんと合流。
都合が合えば4人でカラオケかゲーム。
ゲーム会場はケンさん宅。実家住みの俺は毎回片道1時間半。
それでも全然苦じゃない。毎日が楽しすぎた。
でも、楽しく遊んでいた中で、4人の関係が変わっていく。
らんかちゃんとケンさん――二人の距離が急接近。
(ケンさんって彼女いたよな……?)と心の中でモヤりつつ、
周りなんて気にならなかった。俺はもう唯ちゃんしか見えてなかったから。
◆楽しさは、時の流れを早送りにする…
数ヶ月後、転機が訪れる。
いろいろと日常的にLINEをしているうちに、
唯ちゃんには高校時代から付き合っている彼氏がいると教えてくれた。
彼氏だけ東京の大学に進学してしまい、遠距離恋愛になって寂しい
――そんな相談もしてくれた。
彼氏がいるのは“そりゃそうだよな”くらいでショックよりも、
俺を信頼して話してくれることが嬉しかった。
彼氏がいるのに俺と遊んでくれるのも、正直ありがたかった。
……なのに俺は口を滑らせた。
俺:
俺じゃ、その寂しさ……埋められないかな?
送った瞬間、読み返して冷や汗。
上から目線だし、思い上がりすぎだろ俺。
慌ててフォローのLINEを打ち込む。
俺:
えっと、その……前に話したけど、俺って彼女できたことなくてさ。
だから予行練習というか、アドバイスがほしいというか……助けてほしいなって思ったりもするしさ。
唯ちゃんは寂しさが紛れて、俺は練習できて、
お互いにメリットあるんじゃないかなって思ったから。
夏休みの1ヶ月だけ付き合ってみるとかってどうかな?
いま思えば完全に悪魔の囁き。
でも当時は「唯ちゃんのためになるかも」って本気で思ってた。
送信ボタンを押したあと、しばらくスマホを見つめたまま固まっていた。
手のひらにじんわり汗が滲む。
脈打つ心臓が、いつもより明らかに早い。
あーやっちまった。
今のって……ただの冗談で流せるラインだったか?
いや、違うよな。
全然、軽くない。重すぎる。気持ち、丸出しすぎる。
唯ちゃん、どう思ったんだろう。
「気持ち悪い」とか思われたかな……
「最低」とか思われたかな……
「調子に乗ってんな」って、引かれたかな……
脳内で最悪の反応パターンが次々と再生されて、胃の奥がきゅっと痛くなる。
通知欄を見るたびに、鼓動が跳ねる。
でも、来てない。
既読すらつかない。
既読がついても、すぐに返事が来るとは限らない。
たぶん今、唯ちゃんはスマホを見て固まってる。
俺と同じように。
何かを考えてる。何かを、決めようとしてる。
「夏休みの1ヶ月だけ付き合ってみるとかってどうかな?」
――なんて言葉を、軽く受け止められるわけがない。
“今のはなしで!”って、もう一通送ろうか。
いや、それは逃げだ。
自分で言ったくせに、って余計にカッコ悪い。
時間だけがやけに遅く感じる。
スマホを置いたつもりでも、無意識にまた手に取ってる。
LINEの画面を開いて、閉じて、また開いて。
無意味なループ。
ああもう、頼む……
せめて、既読だけでも……!
そしてついに。
返信が……。
唯ちゃん:
……そうですね……お願いします。
――1ヶ月限定とはいえ、
童貞人生がついに“交際経験アリ”へクラスチェンジした瞬間だった。
▶ 第2章 ― 第6話につづく。
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