第3話 ケンさん
その後も、女っ気のない生活は続いた。
大学時代に始めた、とあるSNSがとても面白くて、
同じ趣味の人たちが集まるコミュニティにいくつも参加し、
同士達とのやり取りを楽しんでいた。
当時は、本名の悠真から取って「ユウ」という名前を使っていた。
音ゲーにどハマりしていた時期には、
そのSNSに“1日1回は必ず何かを書き込む”っていう、自分ルールを作っていた。
ゲームのスコアやプレイ記録、自分なりの分析、他愛もない独り言──
何でもいいから、毎日なにかしら発信していた。
けれど、音ゲー人気が落ち着いて、ゲーセンに行く機会が減ってくると、
その習慣も、いつの間にかフェードアウトしていった。
当時、自分をフォローしてくれていた人は100人近くいたと思う。
でも、同じようにゲームを卒業する人も増えて、
なんとなく発信する意味が薄れていった。
代わりに、どんどん増えていったのが──カラオケに行く頻度だった。
とはいえ、ヒトカラには抵抗があった。
店員に「一人で来たの?」と心の中で笑われていそうで、
なかなか踏み出せなかった俺は、基本的に友達と一緒に行っていた。
でも、それだけじゃ回数的に物足りなくなってきた。
そんなとき、SNSで知り合ったヲタク仲間──
しかもカラオケ好きという共通点まであるフォロワーさんから、
「今度オフ会があるんだけど、良かったら参加してみませんか?」と誘われた。
そして、俺はカラオケオフ会という新たな世界に、足を踏み入れることになる。
コミュ症の俺が、ビビりすぎて変な汗をかきながら申し込んだ、人生初のカラオケオフ会。
これ、未来の俺からはスタンディングオベーション。
「神か!?あの時の俺、神だったんか!?」ってレベルで感謝される大英断だったとは、この時はまだ思ってなかったが──
まずオフ会の参加者は必ずSNSをやっているので、
オフ会終了後に参加者全員にDMを送ってやり取りをするようになった。
その中で、
とびきり印象的だったのが――
美味ケンさん。
通称、ケンさん。
(みんなSNSの名前で呼んでいて、本名は聞いたことがない。俺も知らない)
「見た人を幸せにしたい」っていう想いを込めて、
“ビリケン”をもじって“美味ケン”にしたらしい。
……が、漢字にしたことでややこしくなり、
初見だとたいてい「ウマケンさん」と読まれる。
もはや本人もそれをネタにしてるレベルで、
「“びみけん”じゃなくて、ケンさんでOKっす」って皆に自己紹介してた。
ユーチューバーをしているらしく、グルメを扱っていることから、「美味」というフレーズはハズせないんだとか。
地方の激マズB級グルメを探しては、
YouTubeにレビュー動画を上げているらしい。
激マズB級グルメを扱ってるなら美味じゃなくて良い気がするが(笑)
で、またその食レポがクセモノで、
「ぬめりが攻めてくる」「この油、たぶんしゃべれる」など、
語彙が独特すぎて一周まわって中毒性がある(笑)
服装はいつも同じ――
自作の謎Tシャツに短パン、そしてなぜか必ずクロックス。
ぽっちゃりを通り越して、“安心感のあるふくよかさ”。
「お前、マジでポケモンにいそうだな」って誰かが言ってたけど、
なんか否定できなかった。
清潔感はあまりないのに、なぜか女の子にモテるらしい。
理由を考えたけど、たぶん“謎の安心感”と“異常なポジティブさ”にある。
それと、妙に距離が近いのに嫌味がないという、
謎の天性のコミュ力がある。
好きな音楽はアニソン、戦隊モノ、特撮主題歌。
アニメもメジャーよりマイナー派で、
「お前それどこで知ったんだよ」みたいなタイトルをスラスラ挙げてくる。
で、極めつけが――
彼女持ち。
「どこで出会ったの?」って聞いたら、
「なんか気づいたら手繋いでましたねぇ」って笑ってた。
意味がわからない。だがモテている事実は変わらない。
そんな謎だらけのケンさんと、なぜか意気投合してめちゃくちゃ仲良くなった俺(笑)
……でも、このケンさんこそが――
俺の人生を変える、カギを握る存在になる。
▶ 第1章 ― 第4話につづく。
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