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第22話 あの夏の約束

この回は、完全版と同じ内容でお届けします。

編集による省略はありません。

ある日のこと、唯ちゃんから突然、重要なメッセージが届いた。


 

唯ちゃん:

今の彼氏と別れようと思います。

だからもう少し待っててもらえますか?



細かい言い回しまでは覚えていないけど、たしかこんな感じの内容だったと思う。


──そりゃもう、狂喜乱舞だったさ。


当たり前だ。


ついに……


ついにこの時がきたのかって。


逆転勝利の鐘が、ついに鳴ったのかって。


れいこ姉さんが言っていたとおり、行動してきて本当によかった。


耐えて、耐えて、踏ん張ってきた期間が、やっと報われるんだって。


嬉しくて、嬉しくて、ずっとにやけていた。


嬉しさが、波のように押し寄せてきた。


どこかで張り詰めていた心の糸が、ふっと緩む音がした。


こみ上げてくるのは、ただの歓喜じゃない。


ここまでの全部が、脳裏にフラッシュバックしてきた。


あの日、ケンさんから誘われた最初のカラオケ。


唯ちゃんが歌っていた、あのキラキラした歌声。


ゲームで笑い合った日。


そして……あの一言。



「お願いします」



あの言葉にすがるように過ごした日々。



本当に、ここまで来たんだ。


俺の想いが、ちゃんと届いていたんだって。


この恋は、片思いじゃなかったんだって。


画面の文字が滲む。


泣きそうになるけど、なぜか涙は出てこない。


それよりも、込み上げるのは笑いだった。


嬉しすぎて笑いが止まらない。


道を歩きながら、思い出し笑いしてる自分がちょっとヤバいやつに見えるかもって思いながら、でも止められなかった。


何度もLINEを読み返しては、頬が緩んで、口元が勝手にほころぶ。



「待ってて」と言ってくれた。


「もう少し」と言ってくれた。



その言葉の一つ一つが、まるで心を包む毛布みたいで、やさしくて、あったかくて。


胸の奥にポッと火が灯るような、そんな感覚に包まれていた。



ようやく、ようやく届いたこの気持ち。


ついに、恋が動き出す。


奇跡って、本当にあるんだって、心から思えた。




天国に昇るような気持ちで、そのときを待っていた。


そんな俺に届いた──次のメッセージ。



唯ちゃん:

ごめんなさい。別れ話をする時に浮気したって全部話しちゃいました。

私はずっと罪悪感を感じていて、話さずにはいられなくて…。

そしたら、めちゃくちゃ怒られて…。

あんなに彼氏が怒ったのは初めてで…。

絶対に別れないって言われてしまいました…。

私もいろいろと考え直したんですけど、やっぱり別れられないです。

彼氏とは高校生の頃から付き合ってきたいろいろな思い出があります。

簡単には裏切れないはずなのに裏切ってしまった…。

私は罪を償わなければいけないと思います。

本当にごめんなさい。


……


……



──泣いた。



とても、泣いた。



涙が止まらなくて。



何日も。


何日も。



ただ、泣き続けた。



「なんで?」って、何度も聞いた。


苦しくて、どうしても納得できなくて。



だけど、唯ちゃんの気持ちはもう固まっていた。



どんなに想いをぶつけても。


どんなに「別れてほしい」って言っても。



返ってくるのは、たった一言。



唯ちゃん:

ごめんなさい。




それだけだった。







今思えば──


 


本当に、唯ちゃんを苦しめてしまったのだと思う。


 


あの頃は、なぜ突然、あんなにも態度が変わったのかと戸惑ったけれど。


今なら、わかる。


 


きっと唯ちゃんは、ずっと前から自分を責めていたんだ。




誰にも明かせない罪を抱えて、

その重さを、飲み込むしかなかったんだ。




悩んで悩んで。




思い詰めて。




毎日毎日、悩みに悩み抜いて。




そして出した結論。

 


だからこそ、あの冷たい仕草も、言葉の一つ一つも、

全部──覚悟の現れだったんじゃないかな。




俺は、その悩んでいた姿を見ていないから。





突然、変わってしまったかのようにその時は感じていたけど。




変わったのではなく。




結論を出したからには、そうせざるを得なかったんじゃないかな。






そして──


 


連絡は、徐々に減っていった。


 


会うことなんて、もちろんもうなかった。


 


俺はようやく、はっきりと悟った。


 


これは、完全なる終わりなんだと。


 


唯ちゃんは「これからも友達でいよう」って言ってくれたけど、

その言葉の裏にある本当の意味が、痛いほど伝わってしまって。


 


少しでも希望を持ってしまったら、

きっと俺は、ずっと未練を引きずってしまう。


 


だから──


 


連絡が来たら、返事はする。


でも、自分からは、絶対にしない。


 


そう決めた。


それしかできなかった。


 


 


夏が終わり。


 


 


やがて、秋が、静かに過ぎ去り。


 


 


そして、冬が、街に降りてきた。


 


 


白い息が空に溶けていくように、

俺の中の「初恋」は、ゆっくりと──音もなく、消えていった。



そう、これは紛れもなく、初恋の話。



今まで好きになった人なんて、恋と呼べるものではなかった。



それを知った。

 


人生で一度きりの、大恋愛のおかげで。



だから、これは初恋だ。



誰がなんと言おうと。



俺の初恋だ。



大切な。



大切な思い出。


 


嬉しくて、泣いて。


切なくて、笑って。


叶わなくて、それでも、愛して。


 


すべてが、俺という人間を形作った、かけがえのない記憶だ。


 


たった一度だけ、

誰かを、本気で好きになったという事実が、

今の俺を、生かしてくれている気がする。


 


そして、いつか、また誰かを愛せたなら。


そのときはきっと、

この恋が教えてくれたすべてを、胸に抱いたまま──


 


 


歩いていこう。


 


 


 


──Fin.


ここまでお付き合いいただき、

本当にありがとうございました。


皆さんの応援や感想が、

最後まで書き切る大きな力になりました。


この物語の中で描かれた夏が、

あなたの中の“何か”と重なってくれたなら、

作者としてこれ以上の幸せはありません。


完全版はNOTEで公開中です。

もしよろしければ完全版も覗いていただけたら幸いです。


それでは、また別の物語でお会いできる日を楽しみにしています。


雨無とむ

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