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第21話 ナンをちぎって、心をほどいて

この回は、完全版と同じ内容でお届けします。

編集による省略はありません。

唯ちゃんとの関係に悩んでいた俺は、いろんな人に相談をした。


その中のひとつ、小話を。


参加したオフ会で知り合った、とある超美人女性がいた。


俺より少し年上で、スラッとしたスタイルに、いかにも仕事ができそうな雰囲気をまとったキャリアウーマン。


話すとサバサバしていて、頼れる姉御って感じ。

誰からも慕われていて、まさに「できる女」そのものだった。


名前はれいこさん。


俺は親しみと尊敬を込めて、れいこ姉さんと呼んでいた。


それまでは、オフ会で軽く話す程度の関係だったけど、ある日、思い切って恋愛の相談があると打ち明けると、れいこ姉さんは食事に付き合ってくれることになった。


正直、こんな展開になるなんて、自分の人生では想像もしなかった。

恋愛の相談を、れいこ姉さんと二人きりでなんて——ありえなさすぎて、成長したな俺って、少しだけ自分を褒めたくなった。


食事の場所は、個室ではないけど、仕切りで周囲と目が合わないような落ち着いた雰囲気のインドカレー専門店だった。


まずはお互いにカレーを注文。


…といっても、メニューがややこしい。


5種類のカレーから3つを選べて、ナンやライスのセットが選べて…って、何その自由度!


「え、カレーってライスじゃないの?」と素で言ってしまった俺に、れいこ姉さんはクスッと笑って、「初心者にはチキンとキーマがおすすめだよ」なんて優しくフォローしてくれた。


そもそも外食をほとんどしてこなかった俺にとって、インドカレーはめちゃくちゃハードルの高い飲食店だったけど、こんなところに来ていることこそが感慨深いし、これも唯ちゃんのおかげだなぁってしみじみ思った。


そして、ナンをちぎりながら、ようやく本題に入る。


本当のことを全部話すのはちょっと怖かったから、事実とは少し違う部分も混ぜながら、俺は今抱えている気持ちや悩みを、少しずつ言葉にして伝えていった——



「実は成り行きで、彼氏のいる子と付き合ってまして……本気で好きになっちゃったんですけど……どうしたらいいですかね?」


俺がそう切り出すと、れいこ姉さんは即答した。


「うわー、それ絶対ダメなやつじゃん。お互いに幸せになるっていうエンドが、絶対にないやつよ。それはやめといたほうがいいって」


「お互いに幸せになることが絶対にない……って、どういうことですかね?」


れいこ姉さんはナンをちぎりながら、淡々と説明してくれた。


「だってさ、その子と今カレくんが別れるにしても、絶対モメるでしょ?モメたら、その子がしんどい思いをするわけじゃん。で、逆にその子が今カレくんと別れなかったら、ユウくんが辛い思いをするわけよ。つまり、誰かは必ず苦しむ。全員ハッピーって展開がないのよ」


「……確かに…。」



細かいやり取りは省くが、多少の詳細を話しながら、アドバイスを聞いた。



「…やっぱ俺が自分勝手だったんですかねぇ…。」


「んー、でもさ、最初に“寂しい”って言い出したのはその子なんでしょ?だから、ユウくんが100%悪いとは思わないな。ただね、私はユウくんのことを弟みたいに思ってるからさ。弟が苦しんでるのは見たくないのよ。そんな、苦しむって分かってる恋に突っ込んでいかなくてもいいんじゃない?って思っちゃうだけ」


「……なるほど。さすがれいこ姉さん、全体が見えてるなって思います。あと、心配してくれてありがとうございます。でも……やっぱ好きなのは変わらないっすね。諦めきれそうにないです」


「なんでか私、恋愛相談よくされるんだよね(笑)そっか〜。でも、そこまで好きなら、もう攻めるしかないんじゃない?どうせどっちにしても苦しむ可能性があるなら、後悔しないように動いたほうがいいと思うよ。いや〜、若いっていいねぇ〜(笑)」


「いやいや、何言ってんすか。れいこ姉さんだって、まだまだ若いでしょ(笑)」


「私なんてもうダメよ〜。いろいろ経験しすぎて、恋に臆病になっちゃってさ。絶対大丈夫って確信できないと、もう踏み込めないの。なかなか恋愛できないのよ」


「なるほど……恋愛って、ほんと奥が深いっすね。今日は話聞いてくださって、本当にありがとうございました」


「アドバイスになってるか分かんないけどさ、話くらいならいつでも聞いたげるから。また何かあったら相談しなさいな♪」


「ありがとうございます! めっちゃ頼りにしてます!」


そんなふうにして、俺たちは笑いながら店を出た。


いつものオフ会とはまた違った、大人な時間だった。



浮気は倫理的にやっちゃいけない──そんなふうに、どこかで漠然と思っていた。


でも、れいこ姉さんが言ってた

「お互いに幸せになることは絶対にない」

って言葉は、本当に刺さった。


確かにそうだと思った。


今、俺はめちゃくちゃ苦しい。

たぶん唯ちゃんも、少なからず苦しんでるんじゃないかって思う。


それでも俺は、自分の気持ちにだけは嘘をつかないって、そう決めていた。


唯ちゃんが好きだという気持ちは変わらない。

でもその気持ちをどう扱えばいいのか──

攻めるべきか、身を引くべきか、正解が分からずずっと悩んでいた。


だからこそ、れいこ姉さんに相談してよかったと思う。

一歩を踏み出す覚悟が、少し固まった気がした。


その日からは、以前にも増して唯ちゃんにアプローチをした。

「好き」っていう気持ちを、何度も何度も伝えた。

それだけじゃなくて、唯ちゃんの将来をちゃんと考えて、

少しでも彼女の力になれるように、支えるような行動も意識するようになった。


毎日、唯ちゃんのために自分に何ができるかを考える──

それが、俺の日課みたいになっていった。


恋が、日常になっていた。

そしてその日常が、俺のすべてになっていた。


このときの俺はまだ、

それがどんな結末を迎えるのか、何も分かっていなかった。


それでも。

不安も、迷いも、疑いさえもなかった。

ただ、彼女の笑顔を信じていた。



そんな覚悟を決めていた、ある日のこと。


物語は急加速で進み出す──


▶ 第8章 ― 第22話につづく。

―――

次回、最終話。

君夏の物語が、ついに完結します。

―――

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