魔法とは
こじんまりとした落ち着いた部屋で老人が揺れる椅子に座って本を読んでいる。
ガチャとお手伝いさんが扉を開けて部屋に入った。
お手伝い「ヴァルカン様、覚醒者と思わしき冒険者が発見されました」
老人は本をパタンと閉じ、老眼鏡を机に置いて立ち上がった。
老人「今、その者はどこに?」
お手伝い「ギルドが管理する病院に、」
老人「急いで準備しなさい」
お手伝い「ただ今、」
ペコリと頭を下げ部屋から出ていった。
老人「覚醒者……またあの時が来てしまったか」
場面が変わり、病院の一室で老人とそのお手伝い、そしてしりもちをついているダダンが会話している。
老人「君たちはあの地下墓の入り口で無傷で発見された。帰還が遅く、何かあったんじゃないかと思ったギルドの職員が様子をうかがったそうじゃ。
そして発見後の君の魔方陣のアザが記録より大きくなっており、覚醒者だと分かった」
ダダン「ていうか覚醒した?ってなんだよ」
老人「その右手の魔方陣のアザじゃ。元のアザより大きくなったじゃろ、それが覚醒の印じゃ。しかしもっと大きくなったと思ったのだが……」
ダダン「これか?もともとアザなんてなかったぞ」
お手伝い「記録によると、この者の魔力は元々類を見ないほど弱かったそうです。その影響で魔法使い特有の魔方陣のアザが異常に小さく、生まれつきのアザがホクロのように見える程で、覚醒しても思ったより大きくならなかったのでしょう。」
老人「……まぁ強くなったことは確かじゃからな」
ダダン「そんなことよりザートはどこだ?」
お手伝いは老人に耳打ちでザートについて教えた。
老人「共に病院に運ばれた者か、ついてきなさい、話をしながら行こう」
3人はダダンの病室を後にした。そして廊下で歩きながら話している。
老人「稀に魔方陣のアザを持って生まれてきた者がいる、その者は天に与えられた魔法を使うことができる、それが魔法使いじゃ。その中でも突然何かの拍子に持っている魔法が強くなる事がある。それが覚醒なんじゃ」
ダダン「んじゃぁ俺のテイム魔法が強くなって、ネズミとかミミズだけじゃなくて、魔物すらもテイムできるようになったってことかあ!?」
老人「まぁそんなとこじゃろ」
それを聞いて「うおぉー!!」と喜んでいる。
老人「ところで何があって覚醒したんじゃ?」
ダダン「……それがあんま覚えてないんだよ、何か頭が眼球の見たことない魔物が出てきて、んでそいつに右肩ぶっ飛ばされて、気づいたらここにいたんだ」
老人「う~む」
3人はザートの病室の扉の前に着いた。
お手伝い「ここがザートの部屋です」
扉を開けると、目が見開いてるザートがベットの上で、自分の首を必要にさわっていた。
ザート(……繋がってる……夢?)
ダダン「ザート!生きててよかったぜ!」
ザート「ダダン!?君、頭を吹き飛ばされたはずじゃ……!」
ザートは老人の顔を見るや、驚いた顔をした。
ザート「け、賢者さま!?」
ダダン「賢者?誰が?」
ザート「この方だよ!」
目線で老人が賢者だと示した。
老人「ホッホッ」
ダダン「え?」
老人「そういえば、自己紹介がまだだったな。
わしはヴァルカン、この国唯一の賢者じゃ」
それを聞いてダダンは「えっ!?」と驚く
ザート「賢者さま、今日はどのような用事で?」
ヴァルカンは長く白い顎髭を撫で下ろしながら「ホッホッ」と軽く笑った。
ヴァルカン(老人)「君がザート君だね、地下墓のダンジョンの中で何があったか話してくれるかな」
ザート「……僕たちはあの中で、見慣れない頭が大きな眼球の、ヒト型の魔物に遭遇しました。そして手も足も出ず、やられてしまいました。ですがこうして無事だったことを考えると、魔物の魔法で幻覚を見せられていたのかもしれません」
ダダン「あれは幻覚じゃねぇーだろー」
ザート「じゃぁ何で僕たちは生きてるんだ」
ダダン「いや普通、幻覚見せたら隙ついて殺すなり食うなりするだろ。それなのに無傷で、しかも入り口まで運んでくれるなんてさ、なんでかなぁってなるだろ」
ザート「……」
地下墓の出来事について話していると、
突然「ガシャーン」と少女が窓を突き破って入ってきた。
それは窓と直線上にいたダダンを突飛ばし、バタバタとザートに駆け寄った。
ダダン「ブハッ!」
少女「ザートさ~ん、心配したんですよ~!(。>д<)」
彼女はごついグローブをはめ、真面目とわんぱくを掛け合わせたような少女だ。
よく見ると彼女の腕には拳サイズの魔方陣のアザがある。
ヴァルカンは表情一つ変えていないが、お手伝いさんは口を開いて驚いた顔をしている。
巻き込まれて倒れたダダンが頭を抑えて起き上がった。
ダダン「だれだよそいつ!」
ザート「彼女はミリー、僕の本来のパーティーメンバーだ」
ミリー(少女)「ザートさ~ん、病院に運ばれたって聞いて急いで来たんですよ~(。>д<)」
ザートはミリーを「はいはい」と受け流した。
ザート「あ、それで賢者さま、僕らはどれぐらい?」
ヴァルカン「つい昨夜運ばれたばっかじゃ。まあ、あの地下墓の事はこっちで調べておくよ」
ザート「お手数おかけします」
ヴァルカン「ホッホッ、ではわしは帰るとしよう」
ダダン「なんだ?もう帰えんのか?」
ヴァルカン「なに、またすぐに出会うことになるじゃろ」
ヴァルカンはお手伝いさんを連れて退室した。
すこしの間、部屋が静寂に包まれる。
すると突然、ミリーがダダンをじっと見つめた。
「ダンダンダン!」迫力ある足音をたてて攻めよった。そして、「ガシィッ!」と胸ぐらを掴んだ。
ダダン「ウッ!?」
ミリー「あなたですね……ザートさんを巻き込んだ人は!( ;`Д´)」
掴まれたダダンはだんだん浮いていった。
すると、いきなりパッと掴んだ手を離し、ザートにかけよった。
ダダンはお尻から落下した。
ダダン「イダッ!!」
ミリー「ザートさん~!!大丈夫ですか?ケガはないですか?(。>д<)」
ザート「ミリー落ち着け、大丈夫だ。すこしの間外してくれないか」
ザートの肩を掴んでるミリーを落ち着かせ、病室から出るように促した。
ダダン「いたた……なんだよあの女」
ザート「すまないね、彼女には凄く慕われているんだ。」
ダダン「……なんか腹立つな……あ、そういえばこれ」
ダダンは何か思い出した顔をして、ザートに袋に入った銀貨を渡した。
ザート「なんだこれ」
ダダン「言っただろ、報酬の半分だ。それで酒でも飲みに行こうぜ。行きつけの酒場があるんだ」
ザート「フッ、意外と真面目なんだな。仕方ない、いいよ」
ダダン「イヤなんだったらいいんだぜ」
ザート「行くよ!」
2人は病院から出て、ダダンの行きつけの酒場に向かった。
その途中、2人はあの地下墓について話しているようだ。
ダダン「おれの持ってた財宝どこいったんだろうな」
ザート「あれも幻覚だったんだろ。人間を呼び寄せる罠だったんだ。そもそも真っ直ぐ進んだだけで宝の部屋に行ける時点で怪しむべきだったんだ」
ダダン「フーン、あ、そういえばお前、あのジジイに話したこと結構端折ったよな、財宝の事とか」
ザート「……賢者様に財宝に釣られたなんて知られたら恥ずかしいだろ」
ダダン「お前結構ガキだよな」
ザート「……」
2人が歩いている後ろの物陰にあの少女が隠れているのが見えた。
ダダン「ていうかさぁ、あの女、ずっとついてきてない?」
ザート「いつもあの調子だ。君と初めて会ったときも居たよ」
ダダン「え、こわ…… ;」
しばらく歩いているうちに、ダダンの行きつけの酒場が目前となった。
ダダン「この先だ」
するとザートはいきなり足を止めた。
ザート「……あー、ちょっと僕用事を思い出したかも」
ダダン「はぁ?なんの予定なんだよ」
ザート「いや、大切な野暮用だ。とにかく今日は止めておく」
ダダン「うるせぇ!行くぞ」
ザート「ちょ、ちょっと待て!」
ダダンがザートを引っ張って酒場に連れていこうとしている。その時偶然、酒場から店主の女が樽を抱えて現れた。
ダダン「あ、バラさん」
バラ「あ、お帰り!ザート!」
ダダン「え?」
ザートの方を見ると、少し顔を赤らめていた。
ダダン「なんだ?知り合いか?」
ザート「ッ……、僕の母親だ」
ダダン「……え!!
酒場の中、後ろでダダンとミリーが飲食している中、ザートと店主のバラがカウンターを挟んで話をしている。
バラ「え、じゃぁなんだい、アイツとパーティーを組んで、任務に行ったって言うのかい」
ザート「一度だけって話だけど。全く、とんだ災難にあったよ」
バラ「まぁ、よかったよ元気そうで。病院に運ばれたって聞いたときはどうなるか心配だったんだからね。お見舞いには行けてないけど。父さんのようにはならないでくれよ」
ザート「うん、大丈夫だよ」
一方ダダンとミリー、
ミリー「カフェにいたとき、あなたは一体ザートさんに何をしたんですか!?ザートさんのズボンの中に何かいれたでしょ!( ;`Д´)」
ダダン「別にズボンの中に入れてはねぇけど、あの時パンツごとめくって、アイツのケツ見えたんだぜw,」
ミリー「そんな!ひどい!許せないです!( `ー´)ところで毛は生えてましたか?」
ダダン「ツルッツルだった」
ミリー「ほぉ~(*^^*)」
適当に話していると、ダダンはあることを思い立った。
ダダン「あ、そうだ、せっかく覚醒したからランク昇格依頼するか。いつまでもEランクじゃやりにくいもんな」
ミリー「覚醒って何ですか?(^_^)」
ダダン「魔法が強くなったってことだぜ。賢者のジジイがそう言ってた」
ミリー「賢者!?(゜ロ゜)」
しばらくして、ザートとバラは、
ザート「やらなきゃいけないことがあるから、そろそろギルドに戻るよ」
バラ「そうかい、それじゃぁ飲んだ分の金払いな」
ザート「え、今までそういうのなかったじゃん」
バラ「稼いでるだろ、親孝行しな」
ザートは「はあ」とため息をついてポケットの中をガサゴソと探った。
「はい」とカウンターにいくつかの銀貨を置いた。
しかし、その銀貨の中に一枚だけ金貨が混ざっていた。
ザート「……え、これ……幻覚じゃなかったのか……?」
いろんな角度で金貨を観察する、そして完全にあの時のものだと確信した。
ザート「ダダン!おい!こっち来てくれ!」
金貨のことを話そうと彼を呼んだが、一向に返事がかってこない。
ザート「ダダン!おい!」
するとミリーが
ミリー「ダダンさんならとっくに依頼受けに行きましたよ(^_^)」
ザート「は!?あいつ
一方そのころ、ダダンは森の中にある洞窟の前に立っていた。
ダダン「よっしゃ!どんぐらい強くなったか腕試しだ!」