鎖の魔術師
バーインとその他三人のメンバーは巣の中で大サソリの群れに襲われていた。
十大サソリたちがこっちに敵意を向けたとき、バーインは「操鎖」と唱えると、手のひらから一本の長い鎖が「じゃらじゃら」と伸びた。
「ギィイイイいイ!!」
大サソリたちは甲高い鳴き声を発してバーイン達に一斉に掛かった。
ドゴァン!!
なんと、バーインの鎖がひとりでに動き、物凄い速度で一気に大サソリたちをなぎ払った。
「ギギィ」
鎖はジャラジャラと音を出しながら中に浮いている。バーインに続きその他三人のメンバーもそれぞれの魔法で大サソリたちを倒していった。しかし、
バーイン「ハッ 全く減った気がしないな」
いまだに天井の穴からぞろぞろと大サソリたちが出てきている。
そんな中、パーティーの女性が、
「これもうさっさと先進んだ方がいいんじゃない!?」
と言うと、バーインは、
「そうだな、さっさと女王倒して終わりにするか。お前ら!行くぞ!」
そう言った直後、天井から変わった物が落ちた音がした。
ドス
……
「バーインさん……あれっ…て……人?」
「あれ体……どうなってんだ?……体が人で……頭が……」
真っ先に構えたのはバーインだった。
「頭が眼球……あの魔力…"あれ"は人間じゃない……おい、火の玉飛ばせるか…」
そうバーインが女性に命令すると、女性は両手を真っ直ぐ構え、眼球の魔物に向けて放った。
「了解!爆発する火の玉!!」
半径1メートル強の火の玉は拳サイズに凝縮され、目に止まらぬ速度で放たれた。
ボォウ!!
魔物に当たる……そのときだった。
ギャギャギャギャギャウ!!!
魔物の周囲にある"見えない壁"によって火の玉は削り消された。
「はぁ!?何あれ!爆発もしないなんて!渾身のやつだったんだけど!!」
バーインはさらに深く構え、
「ここで逃げてもいいが……見たところA級以上はあるこいつを放っておくと後々面倒になるかも知れないしな………」
「ねぇ冗談でしょ~さっき防がれたので意気消沈なんだけど~」
「気を付けろよ……未知の魔物だ……何してくるか分かったもんじゃな…ー
バッ!!
魔物が一瞬にして女性に接近した。
「……え?」
「ッ!!」
ジャラジャラ!!
魔物は女性に向かって衝撃波を放った。
バッ
ドュオン!!
女性は間一髪、バーインの鎖によって引っ張られて回避することができた。
ドサァ
「大丈夫か?……」
「ええ……感謝するわ……」
(にしても今の動きどういうことだ?攻撃もだ。魔法持ちの魔物か?)
そのとき魔物がバーインのほうを向くと、「何か来る!」と勘づいた彼は両手から一本ずつ鎖を伸ばし、渦状に盾のようにして衝撃波から身を守った。
バァン!!
「ッ……」
鎖の盾は弾かれ、砕かれながらも、衝撃波を防いだ。その破片が地面にじゃらじゃらと落ちた。
(今のは……衝撃的な魔法か?それを利用し、体を吹き飛ばすことで、さっきみたいにえげつない速度で動くことができるのか?)
魔物は「ドッ」と突風のような音を出してバーインに急接近し、再び衝撃を放って追撃を入れる。
しかし、バーインの鎖の先端が瞬きする間もなく魔物の足に巻き付いて、バーインの方へ引っ張った。
バッ
魔物は後ろに倒れるように姿勢を崩し、衝撃波を天井へと放ってしまった。
ドゴォン!!
パラパラ……
「成る程、攻撃は一直線かつ、狙った一方向にしか撃てないのか」
鎖は足を離すことなく、そのままの勢いで魔物を壁、地面に何度も叩きつけた。
ドォン!
ガァン!
ボォン!
衝撃で煙が立つと、魔物を煙から引っ張り出して、状態を確認した。
「無傷か……器用にあの攻撃を守りに転用することもできるとはな」
魔物がこっちを向いて攻撃を放とうとする様子を感じたバーインは、鎖を引っ張り大サソリに向かって魔物を投げ飛ばした。
ドゴォン!
「お前ら!」
その一言でパーティーメンバー全員の注目がバーインの方に移った。
「お前らはサソリを頼む!俺はあの目玉とやる」
眼球の魔物との戦いに気合いを入れたそのとき、魔物は起き上がったと思うと突然、天井の大サソリたちが突き破った穴から男の声がした。
「おっ!おお!!あは!まじか!」
バーインたちは「は?」と困惑した表情で天井の穴を見た。すると、後ろで髪を結んだオールバックのトゲトゲしい若い男が穴から降りてきて、
「あれはSランクのバーインじゃねぇかよぉ~」
と、邪悪に満ちた笑顔で言った。
眼球の魔物、大サソリ共々動きが止まった。
そして若い男は続けて、
「んでもなぁ~今日は戦いに来たんじゃないんだよなぁ~でもSランクッ!こんな面白そうな相手がいるのに~な~」
「なんだこの変な男」と全員が思って警戒が緩んだ中、バーインだけは構えを深くして言った
「気を付けろ、多分魔法使いだ」
若い男はニヤニヤと口角を上げると、右腕を軽く振ると
ッピン
弦が弾かれたような高い音がした。すると、パーティーの中の男が、
「いたっ」
痛みを感じたところを見ると、切れ味のいい刃物が足をかすったような切り傷ができていた。
やがて、その傷は紫色に変色した。それを見ていたバーインは何かに勘づいたようで、一瞬にして鎖で男の傷を抉り取った。
ドシュ
「いたァ!!」
パーティーの女が「なにしてんのよ!」とバーインに聞くと、
「あれを見ろ」
と、抉り取った肉片を指差して言った。
すると、肉片は瞬く間に「ジュワァ」と音を出しながら紫色に朽ちてしまう。
そして、バーインは、
「傷を包帯か何かで止血しろ、帰ったらギルドで治してもらえ」
続けて、若い男に言った。
「お前、指名手配されてる魔法使いだろ。"毒糸の魔法" のトクスバ・ベリオール」
なんと、目の前にいるトゲトゲしい格好の若者は"トクスバ"という危険人物であった。それを聞いたトクスバは、
「な~んだ!俺のこと知っててくれてたのか!」
パーティーの男が足の傷を抑えながら、
「バーインさんッ……あいついったい……」
「あいつの魔法は毒糸の魔法、切れ味のいい毒つきの糸を操る魔法だ。」
「あったり~いっぱい知ってるねえ!でもねぇ知ってても、持ち主の技量が高すぎて対策できないってのが俺の魔法なんだよ~その証拠に、ほら……見えないでしょ、ここ、暗いもんね………ん地の利ィ!!」
「………」
バーインは黙って何かを考えていた。
「よし!じゃあ!やろう!だけど、始めるその前に!アイマン2号と大サソリちゃん達はニーズの所にお手伝いに行っておいで」
それを聞いた眼球の魔物たちは一斉にダダンたちが進んだ方へと向かった。
「ふぅ、しかし、いやいや、まさかこんなところでSランクパーティーと戦えるなんて……張り切っちゃうかも……」
気持ちの悪い笑顔でこちらを覗いている。バーインは黙ってトクスバを睨んでいた。
大サソリ・・・女王サソリを中心に50匹ほどのコロニーを地下に形成する2~3メートルほどの魔物。尻尾の毒は退化していてほとんど機能していない。よく農地に巣を作るため、農夫たちに目の敵にされてる。
女王サソリ・・・大サソリとは違って際限なく成長し、巨大なもので10メートルを越える。巣の中に複数いる事例もあるため、発見されると急いで処理される。




