ep45 愛しき決闘者①
剣技場にアーウェスが現れた瞬間、ひときわ大きな歓声が波打った。
それを気にも留めず、アーウェスは中央を目指して足を進める。
さて、と前方を見据えるが、対戦相手の姿はまだない。
今年の、ここまで上りつめた挑戦者は、いったいどのような者か。
多少は楽しませてくれるだろう、と白銀に輝く剣を抜く。
再びあたりがざわめいたのは、決勝戦にのぼりつめた者が姿を現したからだ。
脅えるわけでもなく、堂々とこちらに歩いてくる者が見える。
銀の鎧を纏い、同じく銀の兜を被ったその相手は、まさに完全装備といった出で立ちであった。
それ以上特に興味も湧かず、ただ相手が近づくのを待つ。
その間に、観客席にアーウェスはさりげなく目をやった。
王家の席には、国王と王妃のみ。あの姿はない。
そんなことを思っていると、鎧を纏った者がすでに位置についていた。
何の躊躇もなく、摩擦音とともに剣を抜く。
威勢がずいぶんいいようだと、アーウェスは口の端をつり上げた。
だが、アーウェスは己の相手にあまり興味がわかなかった。
さっさと片をつけるか、とゆるりと剣をゆらす。
開始の合図がなる。
突然の攻撃を予想して、アーウェスはぎゅっと剣を固く握った。
しかし、相手はアーウェスと対峙したままだった。
今までの相手は、ここまで来たという高揚感と興奮にかられ、まっさきにアーウェスに攻撃をしかけてきていた。なので、いささかアーウェスは意外に感じていた。
「どうした。こないのか」
あまりに動かない相手に、アーウェスは声をかけた。
「殿下に勝ったら、なんでも望みを言ってもいいというのは本当だろうか」
兜の中から、こもった声が聞こえた。
その響きにアーウェスは眉をひそめる。
思いもよらず、返ってきたその声は高いものだったからだ。
…女…?
その疑問が頭に浮かんだその時、鎧の挑戦者がみずからの兜に手をかけ、そして、ゆっくりと持ち上げた。
艶やかな金色の髪がこぼれて、風になびく。
女だ、と周りから驚きの声があがった。
女は兜を脱ぎ捨てると、意志の強そうなエメラルドの瞳でアーウェスを捉え、凛とした声で高らかに告げた。
「なら、私は望みをかけてあなたに決闘を申し込む。お相手願おう!」
「……」
何をやってるんだ、こいつは。
凄絶にわけがわからない。
人生でこれほど驚いたことはない気がする、と思いながらも、ちらりと視線を上げる。
そこにはこちらを見下ろす、微笑む国王がいた。
なるほど。と、頭を抱えたくなりながら、目の前のよく知る挑戦者に視線を戻した。
「私が勝ったら、まずあなたに口づけする権利を望む。私は殿下の愛情が欲しいとは言わない。勝ったら、私の愛情を文句も言わせず、いつまでも受け取ってもらうから」
…何を、言っている?
珍しくひどく困惑しているアーウェスを楽しむように、エルオーシュは薔薇色の唇を歪め、ひどく美しく微笑んだ。
こんな笑い方のできる女だったかと、その赤い唇に魅入りそうになった途端、素早い攻めが繰り出された。
いつもならそれを躱し、相手の懐へ入り反撃する。そんなことなどいとも簡単にできるアーウェスだったが、珍しくその攻撃をとっさに受け止め、防ぐことしかできなかった。
「どうしたんだ?本気でくればいい」
何度もうち鳴る金属音に、ふいに響いた彼女の声。
うるさい、とアーウェスは心の中だけで呟き、思わず舌打ちをした。
――私が勝ったら、まずあなたにくちづけする権利を望む。
――私の愛情を文句も言わせずいつまでも受け取ってもらうから
そんなことを言われて、負けないわけにはいかないだろうが。




