成長と新たな出会い
森での冒険を続けるジョウは、気づけば5歳になっていた。彼の小さな体は日々の探検と密かな魔法の訓練によって、同年代の子どもたちよりも逞しく成長していた。家の裏庭で父の木工の手伝いをする日々も増え、小さな手で木を削る技術も身につけていった。
「ジョウ、今日はこの木を削ってごらん」
父親のゴーランは温かな笑顔で、小さな木の塊をジョウに手渡した。ゴーランは村で評判の木工師で、その器用な指先と繊細な技術は多くの人々に重宝されていた。
「わかったよ、お父さん」
ジョウは真剣な表情で木片を受け取り、父から教わった通りに小刀を握った。前世でのサラリーマン時代には趣味程度だった木工だが、この世界では生きるための技術として真剣に学んでいた。
「ジョウはすごいわね。同じ年頃の子より手先が器用だもの」
母のメイラは庭の野菜を収穫しながら、息子の成長を嬉しそうに見守っていた。彼女は美しい茶色の髪と優しい緑色の瞳を持ち、村でも評判の美人だった。
姉のアナは10歳になり、村の学校で勉強を進めながら、家事の手伝いも積極的にこなしていた。彼女はジョウの不思議な早熟さに気づいていたが、それを特別視することなく、ただ弟を可愛がっていた。
「ジョウ、今日はお姉ちゃんが学校で習った歌を教えてあげるね」
アナは明るく朗らかな性格で、村の子供たちからも慕われていた。その美しい歌声はジョウにとっても癒しだった。
そして3歳になる妹のリリーは、まだ言葉もおぼつかないながらも、常にジョウの後をついて回る可愛らしい存在だった。
「ジョウ、おにいちゃん!」
リリーが彼の袖を引っ張る度に、ジョウは心の中で前世の娘を思い出していた。彼女を守りたいという思いは、この世界でも変わらなかった。
昼食を終えた後、ジョウはいつものように「ちょっと遊んでくる」と言って家を出た。もう家族も彼の森への小さな冒険には慣れていたが、母は「日が暮れる前に帰ってくるのよ」と必ず声をかけた。
森に入るとすぐに、フラビットがふわりと彼の肩に降り立った。
「ジョウ、今日はどこへ行くんだい?」
フラビットの声はジョウの心に直接響く。契約を結んでから4年、二人の絆は日に日に深まっていた。
「今日は前回見つけた洞窟の奥をもっと探検したいんだ。そろそろ準備も整ったと思うんだ」
ジョウは密かに修得してきた魔法「光の玉」を手の平に浮かべた。この光は洞窟の中でも十分に周囲を照らすことができる。
「女神の叡知」を頼りに、ジョウはこの4年で基礎的な魔法を身につけていた。「光の玉」の他にも、小さな傷を癒す「癒しの手」、物体を少し動かす「微動」など、実用的な魔法を優先的に習得していた。
「その光、前より明るくなったね。ジョウの魔力が成長しているってことだね」
フラビットは感心したように言った。
「うん、毎日少しずつ訓練してるからね。アイテムボックスの容量も少し増えたんだ」
二人は森の奥へと進んでいった。フラビットが先導し、時折立ち止まって周囲の危険を確認する。彼らが向かうのは、以前発見した古代の遺跡だった。洞窟の壁には不思議な文様が刻まれ、「女神の叡知」によれば、それは「風の精霊の加護」を意味するという。
洞窟の奥へ進むと、前回は開けなかった石の扉が見えた。ジョウは「女神の叡知」に問いかける。
「この扉を開けるにはどうすればいいですか?」
答えは明確だった。「風の魔力を扉に注ぎ込むことで開く」
ジョウは深呼吸し、これまで練習してきた「風の息吹」という魔法を扉に向けて放った。最初は何も起こらなかったが、彼が魔力を集中させ続けると、扉の表面に刻まれた文様が青く光り始め、ゆっくりと開いていった。
「やった!」
ジョウとフラビットは喜びを分かち合い、開いた扉の向こう側へと進んだ。そこには小さな祭壇があり、一冊の古い本が置かれていた。
「これは…風の精霊術の書物だね」
フラビットが興奮した声でジョウの心に語りかけた。
「女神の叡知」によれば、この本は風を操る上級魔法が記された貴重な書物だった。ジョウはそれをアイテムボックスに収め、後でじっくり学ぶことにした。
帰り道、彼らは森の中で異変に気づいた。いつもは静かな森の一角が騒がしい。慎重に近づいてみると、一人の少女が小さな魔獣に囲まれていた。
少女は緑色の髪をした同年代ぐらいの子で、手に持った木の杖で懸命に身を守っていたが、魔獣たちは彼女を取り囲み、徐々に距離を縮めていた。
「助けなきゃ」
ジョウは迷わず行動した。彼は「光の玉」を複数作り出し、魔獣たちに向けて投げつけた。突然の光に驚いた魔獣たちは一瞬ひるみ、少女に注目していた視線をジョウの方へ向けた。
「フラビット、あの子を安全な場所へ」
フラビットはジョウの指示に従い、少女の元へ飛んでいった。最初は驚いた様子だった少女も、フラビットの「ジョウの友達だから安心して」という心の声を聞き、頷いた。
ジョウは「微動」の魔法で石や木の枝を浮かせ、魔獣たちに投げつけた。彼の攻撃は大きなダメージを与えるものではなかったが、注意を引くには十分だった。魔獣たちが彼に向かって突進してくる中、ジョウは新たに習得した「風の壁」を展開して身を守った。
フラビットが少女を安全な場所まで導き、再びジョウの元へ戻ってきた。二人の連携プレーで、魔獣たちを撃退することに成功した。
「大丈夫?怪我はない?」
ジョウは少女に近づき尋ねた。少女は緊張した面持ちで頷き、小さな声で答えた。
「ありがとう、助けてくれて。わたし、セラ。森の魔法薬を探していたの」
セラと名乗った少女は、村の薬師の娘だという。彼女も魔法の素質を持っており、父から薬草の知識を教わりながら、独学で魔法を学んでいたという。
「僕はジョウ。こっちは僕の友達のフラビット。」
ジョウは自己紹介し、フラビットも軽く頭を下げた。セラは驚いた表情で尋ねた。
「魔獣と契約してるの?すごい…わたしもいつか契約してみたいって思ってたの」
三人は森を出るまで一緒に歩き、お互いの話をした。セラの家はジョウの家から離れた村の反対側にあるため、今まで出会う機会がなかったのだという。
「また会えるかな?」
別れ際、セラは期待を込めて尋ねた。
「うん、また森で会おう。その時は一緒に薬草を探すのを手伝うよ」
ジョウはそう答え、セラは嬉しそうに頷いた。
家に戻ったジョウは、夕食の席で今日の冒険について話した。もちろんフラビットや魔法の話はせず、森で迷子になった女の子を助けたという話だけをした。
「まあ、ジョウったら。小さな英雄ね」
母は息子の頭を優しく撫でた。
「人を助けるのは立派だぞ。ただ、危ないことはしないように」
父も誇らしげに言った。
その夜、ジョウは家族が寝静まった後、部屋の隅でひっそりと風の精霊術の書物を開いた。「女神の叡知」の助けを借りながら、一頁一頁丁寧に読み進めた。
この本との出会い、そしてセラとの新たな友情。ジョウの異世界での生活は、少しずつ広がり始めていた。彼はまだ知らない。この出会いが、彼の運命を大きく変えることになるということを。
枕元にフラビットを寄り添わせ、ジョウは明日への期待を胸に秘めながら、静かに目を閉じた。
「明日は何を発見できるかな…」
そんな言葉を呟きながら、彼は夢の世界へと誘われていった。
久しぶりです。ちょっと、周りに不幸がありすぎて、時間空いてしまいました。