第5話 戦闘
「ちょっとこれはマズイな」
モンスターの姿を確認せずに飛び込んでしまったので、周りを取り囲んでいるモンスターを見た瞬間に冷や汗が流れてしまう。
目の前にいたのはケルルグだった。
ティラノサウルスを人間大にしたような見た目で、戦闘力はそれほど高くない。
一対一なら俺でも何とか勝てるだろう。
しかし、その数が問題だ。
奴らは群れで行動することが多く、冒険者でもなければ生き残るのは難しい。
特に今回は十体以上に囲まれているので、二人で逃げ切る事も難しいだろう。
何とか隙を作って、後ろの女性が逃げる時間を稼ぐしかないか。
「俺が切り込むから、その隙に逃げてくれ!」
先程から返事の無い女性が心配だが、確認している暇は無い。
まったく……穏やかな生活を目指してたのに、数日で終わってしまうとは運が無いな。
俺は採取用に予備で持ってきた短剣を引き抜いて、目の前のケルルグに突進する。
はずだったのだが、その直前に後ろから落ち着いた声が聞こえた。
「その必要はありません、勇敢な地上人よ」
それと同時に、周りのケルルグが一瞬にして地面に崩れ落ちた。
俺の目の前に居た奴も同様に。
「え、何が起こったんだ?」
「巻き込んでしまい申し訳ありません、地上へ用事があって来ていたのですが」
その言葉に、ようやく後ろを振り返る。
そこに居たのは、金色の戦乙女だった。
鮮やかな金の髪に、輝く銀の鎧、そして背中の翼が天界人であることを示していた。
こんなに特徴的な人物を女性としか捉えていなかったとは、さっきまでの俺はどれだけ慌てていたんだ。
自分では冷静だったつもりだが、やっぱり焦っていたのか。
「ああ、無事で良かったよ。このケルルグ達は君が
やってくれたのか?」
「はい、失礼ながら貴方だけでは対処しきれそうになかったので……ああ失礼、私はヴァルキリーと申します」
「いや助かったよ、俺はリュウだ」
お互いに挨拶してから、状況を確認する。
「ところで、天界人が何でここにいたんだ? 用事があるって言ってたけど」
「実は、天界で頭を悩ませていることがありまして。地上に助っ人を求めて来たのです」
なるほど、天界にはその問題を解決できる人が居ないということか。
それ程の問題なら地上に来ても見つからない気もするが、まあ世界は広いので一人くらい目的の人物がいるかもしれないな。
「本来はリービット城に降りる予定だったのですが、着地点を誤って少し離れた森の中に来てしまいました」
「それは何というか災難だったな。俺も城の役人だったから、何か手伝ってあげたいが……」
「リービット城ゆかりの方ですか!?」
「うぉ!?」
最後まで言えないうちに、ヴァルキリーが身を乗り出して俺の手を取る。
何というか、期待させてしまったようで申し訳ない気持ちになるな。
「いや元役人なんだ。今は追い出された身でな、実は……」
それから俺は、ここ数日の事を掻い摘まんで説明した。
「……というわけで、城の中へ案内する事も出来ないんだ、すまないな」
「そうでしたか、辛い出来事を思い出させてしまい申し訳ありません」
二人の間に沈黙が流れる。
葬式のような雰囲気にさせてしまってさらに申し訳ないような気持ちになるが、程なくしてヴァルキリーが話を変える。
「そういえばリュウ殿はスキル持ちでしたね、私も地上へスキル持ちを探しに来たので、詳しくスキルを測る魔道具を持っているんですよ」
そう言ってヴァルキリーは、球体に輪が二つ付いた道具を取り出す。
「これに手をかざして下さい」
「こうか?」
差し出された球体の上に手をかざすと、何やら文字が浮かび上がってきた。
「こ、これは!?」
俺には字が読めないので分からないが、ヴァルキリーの表情が驚愕の色に変わっていく。
この反応だと、良いのか悪いのか分からないな。
史上最悪のカススキルとか言われたらどうしようか。
「リュウ殿、私と一緒に来ていただけませんか!?」
「え、どういうこと?」
「詳しくは道中で説明します、他の方にリュウ殿を取られるわけにはいきませんから」
そう言うや否や、ヴァルキリーは俺を抱き抱えると、猛スピードで飛び立った。
そして俺が人生で体感した事のない速度で空へと上っていく……って怖すぎるんだが!?
「ジェットコースターでもこんな怖くないだろ……!?」
「急に連れ出してしまい申し訳ありません、リュウ殿のスキルがあまりにも強力だったもので」
風の音で聞き取りづらいが、スキルが強力だとか聞こえたな、何かの冗談か?
「俺のスキルは一ヶ所を自動で採取するだけだぞ」
「いえ、それだけではありません。リュウ殿のスキル《全自動採取》は、最高レベルまで上げればこの世界……エルリアを飲み込む程まで成長するでしょう」
「え、本当に?」
何だか信じられない事ばかり起こってるな。
というか、地面が遠すぎて現実感が無くなってきた。
「そろそろ天界に到着しますので、まずはスキルを進化させましょう」