第4話 モンスター
「さて、のんびりした生活を送るには、貯金が必要だな」
数日宿で身体を休めたところで、久々の外出を決意する。
10年単位で働かずに済むとしても、もちろん老後まで貯金がもつわけではない。
隠居生活を送るには、金が必要なのだ。
まあ、働かずに生活するためには、頑張って働く必要があるというのが、辛いジレンマではあるのだがな。
「まずは森に行ってみるか」
軽く荷物をまとめた俺は、近くの森へ向かうことにした。
――
――
「はぁはぁ、疲れた……」
森へ着いた途端、俺の身体が悲鳴を上げる。
役所勤めだった身としては、街の外へ出るだけでも既に辛かったが、既に日本で言えば、市町を跨ぐくらいの距離は歩いただろうか。
この世界の冒険者などは、毎日これ以上の距離を歩いて依頼を受けていると考えると、少し恐ろしくなってくるな。
「少し休憩するか……」
近くにあった切り株に座って、空を見上げる。
「そういえば、天界は相変わらずのデカさだな」
俺の視線の先にあったのは、天界……もとい巨大な浮島だった。
俺が小さな頃から島が空に浮かんでいたので、何も違和感なくそこにあったのだが、日本での前世を思い出した時から謎に思うようになった。
今俺が暮らしているエルリアという世界は、大まかに四つに分類されている。
人間が暮らしている人間界、魔族の暮らす魔界、獣人族など様々な種族が暮らす外界、そして天に浮かぶ天界である。
「どうやって浮いてるんだろうか?」
あの天界では豊かな暮らしが約束されているとされ、地上人達の羨望の的となっている。
あそこへ引っ越すために人生を費やしている人もいるらしいが、それはなかなか難しい。
その理由は、天界と人間界の接点があまり無いことと、人間に翼が生えていないことがその主な原因だ。
天界の住人は人格に優れているらしいので、仲良くなれれば移住の機会もあるだろうが、そもそも会う機会が無ければ話す事もできない。
そして無理やり天界に行こうにも、天界人のように飛んでいく翼がない。
だからこそ憧れとなるのだ。
「さて、考えてもしょうがないな。ある程度採取したから帰ろう」
俺のスキルは一ヶ所で同じ量を採取し続けられるので、薬草の採取などには使い勝手がいい。
初めてにしてはそこそこの量を取れたので帰るか、と思って一歩を踏み出した時……。
"キシャァァァ"
少し遠くでモンスターの鳴き声が聞こえた。
それだけなら良かったのだが、同時に人の声も混じっていた気がする。
「一応様子を見に行ってみるか……」
声が聞こえた方へ音を立てないように走り、そっと木の陰から覗く。
そこには、四方をモンスターに囲まれた女性が立っていた。逃げ場もない。
それを見た瞬間、状況を確認する間も無く身体が勝手に動く。
「逃げてくれ!!」
モンスターから庇うように女性の前に立った俺だが、すぐに軽率な行動だったと後悔する。
何故なら俺は、戦闘能力が低いからだ。