第3話 天界と地上
「朝か、よく寝たな」
連勤であまり眠れていなかったからか、ここ数日は久々にゆっくり寝られて気持ちが良い。
今さらだが、王城での仕事は日本で言うところのブラック企業だったな。
「さて、水を取りに行くか」
――
――
「おっはよーリュウさん!」
「おはよう。リカちゃん」
「ねぇねぇどこ行くの? 私も行ってもいい?」
井戸へ向かう途中で、看板娘のリカちゃんに遭遇する。
この間のチップの件からなのか、少し懐かれてしまったようだ。
まあ、彼女は健康的で可愛らしいし悪い気はしないのだが、周りにロリコンだと思われないか心配である。
「井戸に水を汲みに行くところだよ」
「じゃあ私も手伝うね!」
「ああ、ありがとう」
リカちゃんは色々と世話を焼いてくれるが、あれからチップを受け取らない。
良くできた子なのだろう、あの店主の教育の賜物か。
「だけど、俺に手伝いは必要ないよ」
「え、どうして?」
「まあ、ちょっと見ててくれ……ほら!」
「……っ!?」
井戸へ到着してから、スキルを発動する。
俺のスキルは《全自動採取》といい、一ヶ所だけ俺が居なくても自動で採取をしてくれる。
特に便利なのが水汲みで、数時間放置すれば、俺がその時間働いたのと同じだけの水を汲むことが出来るのだ。
まあ、結局はその程度の能力ではあるので、王城勤めだった身としては、地味な事この上ない。
「すごーい!! リュウさんスキル持ちなんだ!! お父さんに自慢してくるね!!」
リカちゃんはそう言うと、店の中へ走って行ってしまった。
相変わらずの天真爛漫な性格だな。
「俺が十代だった頃は、あんなに元気だっただろうか」
何だか元気な若者を見ているとそれだけでお腹いっぱいになってしまったので、持てるだけの水を汲んでから宿の中に戻る。
まあ、今は元気に走り回るよりも、ゆっくり生活をしていきたい。
「よし、当面の目標は隠居生活だな!」
そう決意した俺は、少しふらつく桶を支えながら自室へ戻った。