第1話 解雇
「お前は追放だ、リュウ」
「え?」
王の口から放たれた言葉に、一瞬思考が停止する。
この城で働き初めて早14年、俺は絶望するよりも先に、追放という言葉に聞き覚えがあることが不思議だった。
「貴族達から進言されてな。無能のスキル使いを城に置いておくなど……」
王の言葉は途中から耳に入ってこなかった。
そうだ俺の前世の記憶にあった気がする。物語の中で主人公がひどい目に遭う話。
たしか、追放復讐ものだったっけ?
異世界転生系の話で主人公が復讐を遂げるようなお話だ。
「それでは、この金を持ってどこへでも行くが良い」
「あっ、はい」
考えている間に話は進んでいた。
俺は地面に転がったなけなしの金貨袋を拾って、謁見の間を出る。
「はぁ……」
そして扉を閉めてから、思い切り溜め息をつく。
日本で育った記憶を持っているというのは、俺にとってアドバンテージだったはずだが、今の状況では全く役に立たない。
何故ならここは紛れもない現実の中で、俺は異世界転生すらしていない。
ただ別世界の記憶を持っているだけだ。
現実逃避しようにも、このドラマにもならないような追い出され方が、俺を現実に引き戻す。
「さて、これからどうしようかな……」
現在32歳、王城勤めだったとはいえ、この厳しい世界に再就職の当てはあるのだろうか。
「まずは宿を探して……」
「おっ! 無能おっさんのリュウくんじゃん!」
考えながら外へ向かおうとした俺に、同僚のイサルガが声をかけてくる。
いや、俺は追い出された身なので、元同僚と言うべきか。
「何暗い顔してんの、もしかして解雇された?」
「……まあな」
「え、まじ!? プハハッ!! まじで解雇されたんかよ、超おもしれぇ!!」
「……」
ゲラゲラと笑うイサルガを見て、気持ちが萎える。
こいつはいつも一言余計だ。
まあ、二十代前半のイサルガからすれば、三十路を越えた俺はおっさんなのだろう。
それは仕方ないのないことだ。
それに、イサルガは俺と同じスキル持ちだが、俺の無能スキルとは違って優秀だ。
そのスキル名は《天剣》。
剣に対して絶大な才能を発揮し、凡人には不可能な技を体得する。
天狗になってしまうのも無理はないのかも知れない。
「それじゃあ、俺は暇人と違って剣の稽古で忙しいからじゃあな!」
そう言い残して、イサルガは行ってしまった。
「はぁ」
自然、溜め息が増える。
俺のスキル名は《全自動採取》。
対象の一ヶ所に対して、俺がいなくても採取を進めてくれるという微妙なスキルだ。
特に王城には採取ポイントが少なかったので、貴重なスキルを披露することも出来なかった。
今回解雇された理由も、スキルが少なからず関係しているかもしれない。
せっかくの貴重なスキル持ちなのに、使えないスキルであると落胆されたのも一つの原因なのだろう。
「さて、これからどうするかな」
俺は先のことを考えながら、荷物をまとめる為に自室へ向かった。
リュウ「しかし、リュウって名前だと、ドラゴンを連想してしまうな。自分の名前なのに厄介だ」
ヴァリー「私はカッコいいと思いますよ、壮大なモンスターのようです!」
リュウ「それを言ったら、ヴァルキリーなんてイメージそのままだけどな」
ヴァリー「はい?」
リュウ「いや、何でもない」