ほんのひと時
そうしてついた場所はというと…ゲームセンターだった。
「どうしてこんなうるさい場所なんだ?」
僕のそんな否定的な質問に彼女は明るく返してきた。
「いいじゃん来てみたかったんだもん。」
来てみたかったということはやはり一度も来たことがなかったのだろう。
しかし本当にうるさい。まるで夏と秋の虫が同時に鳴きだしたかのような煩さがそこにはあった。
しかし彼女の子供のような笑顔を見るとそんな煩い場所も悪くはないと思えてしまう。
「じゃあ早速何かしよぉ!」
そう彼女は無邪気な声を上げて僕を先導していくのだった…。
彼女は一台のクレーンゲームの前で止まると僕の方に向き直ってきた。
「ねぇ、これってどうやってやるの?」
「は?」
いや、彼女なら無理もない、なんたってこういうものに触れる機会が一度もなかったんだろう。
そう考えなおして口を開こうとする。しかし…
「わからない…。」
「え?」
僕の素直な返事に彼女もまたそんな返しをしてくる。
「仕方ないだろ。僕だって何度か前を通ったことのある程度なんだ。」
そうだ、決して僕が悪いわけじゃない。
「かっこわるいね。」
彼女のそんな何気ない一言が僕の胸に深く突き刺さる。
そんなこんなであやふやしているうちに肩を後ろからたたかれた。
「あの、やらないのなら変わってもらってもいいですか?」
「え、あ、はい。」
できなかった…。
「ねぇ、やっぱり別の場所に行こうか。」
そう提案してくる彼女の横顔は引きつった笑みをしていた。
「あぁ、間違いなくそうした方がいい。」
何もできなかったけど楽しかったな。
そんなことを考えながら僕たちはその場を後にするのだった。
読んでくださりありがとうございました。