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蝶になれなかった蛾  作者: 前野 秀一
2/8

普通

家に帰ってきた僕は玄関のドアを開けた。

「しーちゃんお帰り。」

まるで待ち構えていたかのように家に入る間もなく母の声が聞こえてくる。

「ただいま」

テストの点がよくなかったことを悟られないようになるべくいつもの声色で返事を返す。

「…それじゃ、いつも通りかばんは置いて手洗いうがいしてきてね。」

いつもならこの間にお弁当や水筒、保護者用のプリントのファイルを抜き取られる。

今回はテストを教科書にはさんだのできっと見つかることはないだろう。

多分…だけど。

「はい、それじゃあお勉強がんばってね。」

そういって母は地下に通じる扉を開ける。

この家にはとても稀有なことに地下室というものが存在している。

もともとは地下シェルターだったそうだが今は僕の勉強部屋と化している。

地下室には階段の裏にある床の扉を持ち上げてはしごで降りる必要がある。

ちなみに地下室には監視カメラが設置されているため勉強をさぼったりすることは到底できない。

そうして勉強をはじめてから3時間が経過した。

「そろそろお夕飯よ。」

部屋の隅にあるスピーカーから母の声が聞こえてくる。

その直後に部屋の扉が開けられる音が聞こえてくる。

「早くご飯食べてまた勉強がんばってね。」

母が扉から顔をのぞかせてそう言ってきた。

「わかってるよ母さん。」

何の変哲もないいつもの会話。この家の普通の会話だ。


僕は1階に上りおそらくまだ途中であろうアイロンの様子を横目で見ながら席に着いた。

夕飯は家族で食べることになっている。といっても二人しかいいないわけだけど。

父は僕が小学校に上がってすぐにどこかに消えた。当時は初めてまともにやる勉強に一生懸命だったためあまり気にする余裕がなく、父がいなくなってから数日は何も気づかなかった。

当時のことを何か思っているかと聞かれれば本当に何も思ってない。

さて、母さんから何も聞かれないうちにさっさと食べてしまわないと。

「あら、ずいぶん急いで食べるのね。」

「うん。今勉強がすごく忙しくてさ。」

ボロが何も出ないように細心の注意をはらって返答をした。

おそらく何も問題はないはずだ…

「…ふふ、熱心でお母さんうれしいわ。」

よかった、悟られてはいないようだ。間があったように聞こえたのは気のせいだろうか。

「ところで、期末テストが終わってから一週間たったけどまだ返ってきていないのかしら。」

読んでくださりありがとうございました。


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