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08.テニスコートの誓いⅣ ~国王の選択~

 5月7日、国王ルイ16世は新聞の発行を禁止した。ミラボーの三部会新聞は没収され、第三身分内で反対運動が発生する。その三日後にミラボーは「ミラボー伯の有権者への手紙」を創刊するが、これも没収。

 6月17日まで三部会に関する公式官報を除いて定期的な出版物は表立って流通せず、不定期に出版された。


 三部会が開催されている間、国王は何をしていたのか、少なくとも日記には鹿狩りや演劇鑑賞が淡々と記録される。この日記で無rienと記録されている部分は狩猟の成果無しを意味する。

 そして特に4月から5月にかけては何度もムードンMeudonに足を運んでいる。ここは王太子の療養先だった。狩りの合間に国王は病弱な王太子のもとを訪れていたのである。



 1789年5月28日、司教たちからの求めに応じ、国王は各身分に会議の再開を要請する以下の書簡を送る。

「朕は、三部会の議員たちの権限の検証に関して高まった困難を知らされている。そして、この目的に対して調停の手段を求めるために三つの身分から選ばれた委員たちの細心にも関わらず、それはまだなお存在し、朕は苦悩そして懸念無しに見ることが出来なかった。王国の再生に朕と共に取り組むために招集した国民議会が無為に陥り、もしそれが引き延ばされたら、朕が国家の繁栄と私の国民の幸福のために抱いている希望は消え去るだろう」


「この情勢下で、朕は、三つの身分からもうすでに選ばれた調停委員に、明日の夕方6時に会議を再開し、国璽尚書とそして彼を繋げる委員たちが出席し、調停の開始を時間通りに知らせ、望ましい即座の一致に直接貢献できるようにすることを望む」

「朕は、聖職者と第三身分の議長を務める者に、朕の意図を彼の議場に知らせることを指示する」

「ヴェルサイユにて国王が署名する。1789年5月28日」


 29日にはネッケルが各身分に国王の融和策を提示する。

「議員資格はそれぞれの身分が自由に審査し、そして問題があれば審査委員会が処理する。そして身分間で議員資格に関する対立があれば国王がそれを判断する」

 多数派の貴族にとっては都合が良かった。


 第三身分は5月30日に融和策に合意して会議の再開を要請したが、その時国王は出掛けるところで応じられなかった。国王の日記には「ムードンを訪問。マルクシMarcoussiで鹿狩りをするが、逃した」とある。

 会議は「明日demainの夕方6時」とあるが、29日の夕方6時にも国王はムードンに赴いている。


 6月4日の深夜1時、国王の願いも虚しく王太子ルイが結核で死んだ。ちょうどこの日に第三身分代表のバイイが国王への謁見を求めていたが、またタイミングが悪く拒絶された。

 6日には各身分の代表が慰問に訪れる。国王は7日までミサを行った。13日に葬儀。ノルマンディー公──後のルイ17世が新たな王太子となる。

 6月14日、王太子の葬儀の後、国王は打ちひしがれてヴェルサイユから10km北にあるマルリー宮殿に引きこもる。彼は時折ヴェルサイユに姿を表したり、あるいは稀に鹿狩りに出かける程度になる。



 6月17日、玉璽尚書バレンティンは第三身分による国民議会宣言の無効化を要求する。また貴族議員の代表で多数派の代表モンモランシー=リュクサンブールも第三身分に対する抗議の声を国王に伝える。


「国王陛下。私たち貴族階級はとうとう国王のもとに敬意と愛を捧げることが出来ます。陛下の善意と正義によって、あまりにも長い間評価されてこなかった国家の権利が回復されました。最も正しく最善の国王に、私たちを駆り立てる素晴らしい愛情の証を提示しなければならないことは私たちにとって心地良い義務です」


「フランス貴族の代弁者たちである私たちは陛下に対して深い感謝と不可侵の忠誠心を誓います。陛下の聖なる御姿、正当な権威、そして高貴な家柄のために。この感情は、陛下、それは永遠に貴族階級のものであり、そして将来においても変わることはありません」


「何故、内なる感情に苦痛が混ざり合う必要があるのでしょうか! 改革の精神が体制を脅かしているのでしようか。貴族階級は原則を要求するのみです。そして私たち常には継続的な法律と慣習に忠実です」


「陛下の大臣たちは、会議で陛下を代表して調停案を提示しました。陛下はこの計画の受容を求められました。また他の全ての計画に、適切な注意が追加されることを許可しました。貴族階級はそれを講じ、真実の原則に従って法令を陛下に提出しました。そうしてその法令は悲しみと共に見られた可能性があります」


「ああ、陛下。貴族たちはただあなたの心だけに訴えかけています。私たちは影響を受けながらも、しかし常に私たちは私たちの原則や動機に忠実であり、陛下の善良さへの権利を疑いなく保持し、陛下の個人的な美徳は常に希望を打ち立てています」


「第三身分の議員たちは、他の二つの身分の協力を期待すること無しに、三部会の権力をただ自分たちだけに集めることが出来ると信じていました。そして陛下の裁可なしに彼らの決議を法令に転換することが出来ると信じています。彼らは、各地にそれらを印刷して郵送することを命じました。彼らは、現在の貢献が無価値で違法だと宣言し、彼らは、国民のために一時的に自身の活動期間を制限しました。彼らは疑いなく、国王と第三身分の結合された権利を、自分のものであると主張することが出来ると考えています」


「私たちは、陛下の手中に、そのような権利の主張に対する抗議と反対を委ねます」


「もし私たちの守る権利が純粋に私利私欲のものであり、貴族に関係するものだけであったならば、私たちの抗議の熱心さ、私たちの弁護の忍耐は、全く活力を持たなかったでしょう。私たちが守るものは、私たちの利益だけではありません。陛下、それは陛下の利益であり、国家の利益であり、そして最終的にはフランス国民の利益です」


「陛下、あなたの王国の貴族は常に彼らの国王への愛そして愛国心に特徴づけられています。私たちに与えられた使命は、陛下に彼らが先祖の美徳を受け継いでいることを証明することです。私たちの熱意、それらを遂行する私たちの忠誠心は、陛下に対して私たちが彼らの信頼に値すると証明します。ますますその信頼に値するために、陛下が私たちを招集した意図のために取り組み続けます。私たちは、陛下が愛されることに幸せを感じる人々の幸福に貢献すること以上に願うものは何もありません」


 貴族の多数派の意見はこのようなものだった。

 貴族たちが合意した金銭的特権の放棄は、財政問題の解決策というよりは国王への忠誠と貴族としての名誉によるものだった。三部会に関する権利の行使について彼らにとっての原則を根拠にするが、本質的には原則は第三身分ではなく彼らが打ち立てるべきものと見做していた。そしてかつての高等法院がそうであったように自身の権利を守ることと公共の利益を同一視──部分的には同一だが──していた。


 国王は答える。

「愛国心と王への愛は、絶えずフランスの貴族を特徴づけてきた。朕は彼らが与えてくれる新たな保証を深い感謝の念と共に受け入れよう」


「朕はその保証の誕生に伴う権利を知っている。朕は常にそれらを守り抜き、擁護するだろう。朕はまた全ての臣民の利益のために、朕に託された権力を自覚している。そしてそれが変更されることは許可しない」


「朕は祖国のためのあなた方の熱意、朕個人へのあなた方の忠誠心を頼りにする。そしてあなた方の忠実さを信頼と共に待っている。あなた方が、朕が朕の国民の幸福のために取り組んでいる調停の意図を受け入れることを期待する。このようにして、あなた方は既に彼らから与えられている忠誠心と尊敬に更なる輝きを加えることになるだろう」



 6月19日、国王評議会はマルリーで開催された。評議会に出る必要のある閣僚たちは馬車でヴェルサイユからマルリーまで行かなくてはならなかった。

 ここでネッケルが親臨会議の宣言用草案を上奏する。また第三身分の宣言も無効化が決定される。

 親臨会議の準備のため、ムニュ・プレジールは解体されることになる。


 6月21日にはヴェルサイユに戻り、再び国王評議会。ネッケルは先日パリで行われた親戚の葬儀から戻ってくる。国王の希望で弟たち──アルトワ伯やプロヴァンス伯が参加した。そこで国王は三部会の常設化を親臨会議の宣言から削除する。

 三部会議員は役目を終えれば解散させられなければならない。


 自身もテニス選手だったアルトワ伯は例のテニスコートを利用することを画策する。すなわち「テニスの試合をするため、テニスコートでの議会開催は禁止!」



 さて、アルトワ伯の工作は当然無駄だった。どこであっても議会は開催される。テニスコートの代わりに選ばれたのは、5月4日に三部会議員が国王と共にミサを授かったサンルイ教会だった。

 この日──6月22日までに、第三身分に僧族149名が合流した。サンルイ教会を薦めたのは彼らである。

 同日、国王は軍隊の動員を承認。スイスのライナッハ連隊はソワソンから出発した。

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