01.12月3日のロベスピエールの演説
1792年12月11日、フランス人の王ルイ16世は国民公会の法廷に姿を現す。
4日前から剃っていない顎髭はそのままにされていた。また長い監禁生活故の蒼ざめた顔色にもかかわらず、しっかりとした表情であったと記録される。彼は黄色或いはオリーブ色のフロックコートを着ていて、8月10日事件の指導者サンテールと、テュイルリー宮殿の指揮官ヴィッテンホフ、そしてパリ市の職員2人に付き添われていた。
国民公会は法廷ではなく議会である。
議会で裁くことについて議論が無いわけではなかったが、公会議員マイユは国民の代表である国民公会こそ元国王を裁くのに自然だと主張した。
国民公会の議員たち──この月の2日に選挙によって選出された──の中には多くの法律家がいる。しかし議会は立法機関である。最期の投票においてもヴァラディ、ラリヴィエールなど自らが裁判官ではないからという理由で処刑に反対票を投ずる議員は何人もいた。
共和制を支持する山岳派は違う。
若いサンジュストは「ルイは統治するか、死ぬか、どちらかだ」と主張し、扇動家マラーは「公開投票にすべし」と訴える(※死刑反対に投票した者は後に全員罪に問われることになる)。
国民公会は8月10日蜂起によって生じた状況の中で選ばれた議員で構成される議会である。
テュイルリー宮殿を襲撃した暴動の求めるところの国王の処刑を承認することによって、国民公会は自らの誕生に対する人々との一時的な合意を成立させるだろう。
そしてロベスピエールは12月3日の演説にて処刑の正当性を説明する。この日の彼の演説はとても長い。その理念はサンジュストの処女演説と合致する。
「市民の方々、議会は知らず知らずのうちに真の問題から遠く離れてしまっている。ここで行われる裁判は存在しない。 ルイは告発されてもいないし、あなた方は裁判官でもない。あなた方は政治家であり、国民の代表なのだ。有罪か無罪か、そのような裁定をする必要ない。何よりも公安のための施策を講じ、国家を救う必要がある。 共和制において、廃位された国王は2つの用途にしか役立たない。つまり彼には国家の平和を乱してその自由を弱めるか、またはその両方を同時に強める道がある。私は主張する。今日までの審議の性質は最終的な目標とは一致しない、と。実際、新たに生まれた共和政を強固にするために必要な、理性的な行動とは何か? それは人々の魂に王政への軽蔑を刻み付け、国王の支持者を沈黙させることではないだろうか?」
「ルイは国王だった。そして共和政は設立された。このとき、あなた方を悩ませている重要な問題は、次の説明によって解決される。即ちルイは彼の犯罪によって廃位された。ルイはフランスの人々を反逆者として彼らを罰するために軍を招集した。そして勝利した人々はルイだけが反逆者であると認めた。故にルイを裁くことはできない。彼は既に有罪だからだ。そうでなければ共和制は赦されない。ルイ16世の裁判をするということは、王政そして専制的な立憲制に立ち返ることを意味する。革命自体を法廷に持ち込むその提案こそ反革命的である。現実問題として、ルイが裁判にかけられたとして、彼は無罪になるかもしれない。事実、彼は有罪判決を受けるまで推定無罪である。もしルイが無罪となれば革命はどうなるだろうか?ルイが無実であれば、全ての自由擁護者は名誉棄損者である」
「市民の方々、専制からあなた方自身を守るのだ! 誤解によってあなた方は欺かれたのだ。あなた方は、革命下の人々の状態と、堅固に樹立された政府下の人々の状態を混同している。あなた方は、政府の形態を維持しつつ官僚を処罰する国家と、政府そのものを破壊する国家を混同している」
「国家が反乱の権利に訴えることを強いられたとき、その専制君主との関係は自然法によって決定される。専制君主は、何の権利があって社会契約を呼び起こすのか?彼自身がそれを廃止したのだ! 国家は、それが適当であると判断したとき、市民間の関係に関係する限りにおいてその契約を保つことが出来る。しかし専制と反乱の最終的な結果において、専制君主との全ての結びつきは完全に断ち切られ、専制君主と人々との間の戦争状態は再び確立される。裁判と司法は、市民のためだけに設計されているのだ」
「反乱は、専制君主への真の裁判である。彼の判決は彼の権力の終焉であり、そして彼の判決は人々の自由が必要とするものである」
「ルイの裁判とは何か? 暴動から法廷や議会への上訴でなければこの裁判は何なのか? 人々が王を廃位したとき、彼自身を復活させる権利を持つ王は、それによって暴動と反乱の新たな口実を作り上げる。このような行動が何を引き起こすだろうか?ルイ16世を擁護する人々に演壇を提供することで、あなた方は独裁主義と自由との間に論争を再燃させ、そして共和政と人々への冒涜を承認する。旧時代の独裁者を擁護する権利には、彼の主張を支持することを何であれ言う権利が含まれているからだ。あなた方は全ての党派を再び復活させ、眠っていた王政を復活させ、奨励する。誰もが賛成或いは反対の立場を容易に取ることが出来る。彼の擁護者が、法廷やあなたの目の前の討論場で公然と公言できる格言を、至る所で広める以上に正当で自然なものはあるだろうか? 創設者がその揺籃の地で攻撃されるためにあらゆる方面から敵対者を募る共和政とは、どのような共和政だろうか?」
「代表の方々! 人々にとって重要な事柄とは、あなた方にとって重要な事柄とは、人々があなた方に託した義務を果たすことだ。共和政は宣言されたが、あなた方はそれを我々に届けただろうか。その名に相応しい法令はまだ何も可決していない。あなた方は専制の悪用を一つでも改めねばならない。依然として専制は続いていて、卑劣な派閥と道義に反する詐欺師は未だに存在する。共和政! されどルイはまだ生きている! あなた方は我々と自由の間にまだ国王を擁立している! 我々の心の痛みへの恐れは、我々を犯罪者に変える危険性がある。我々が罪悪感に耽ることは、我々が彼の罪状に加担することを意味している」
「共和制は存在しなければならない。故にルイは死なねばならない。彼らの国とその国外の両方で尊敬される自由で平和的な人々の間から、あなた方は善き助言に耳を傾けることが出来る。しかし多くの犠牲と多くの戦いの後、まだその自由のために戦っている人々がいる。困窮者を除けば未だ取り消し不可能ではない法令の対象となっている人々がいる。まだ論争のテーマとして専制が犯罪の対象となっている人々がいる。そして彼らは復讐を望んでいる。そこであなた方が示すように推奨されている尊敬は、戦利品を分け合う山賊の一団のそれに最も似ているだろう」
「私はあなた方がルイ16世の運命に対して直ちに法的手段をとることを提案する。私は、今この瞬間から彼がフランス国家への反逆者であり、人道に反対する犯罪者であると国民公会が宣言することを懇願する。これらの理由から、私は自由の殉教者が8月10日に命を捧げたまさにその場所で、彼が世界の模範になることを懇願する。そして私は、専制君主の魂において人々の正義にとって良い影響を与える恐怖を育むのと同様に、全ての人々の心において、彼ら自身の権利意識と専制君主の恐怖を育むこの忘れられない出来事が、記念碑に捧げられることを懇願する」
率直にダントンは言う。
「我々は王を裁きたいのではない。王を殺したいのだ」