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こんな異世界嫌だ!

作者: 音乃 響

出産問題の話題が出ます。そう言った内容にセンシティブな方は読まないことをお勧めします。

ジャンル、ヒューマンで良いのか悩みつつ選択。違っていたらすみません。

 気が付くと冷たい床に座り込んでいた。周囲にはぐるっとローブ姿のじじい中心の男女の姿。顔立ちは西欧人っぽい。詳しくないけど北欧系っていうか、そんな感じ。少し鼻の低い私は心の中で舌打ちをした。


 ここはどこだ?落ち着け私。


 さっき会社のパソコン電源落として、残業中の同僚に軽く挨拶しながら扉をあけて、エレベーターで一階を目指していた。私の勤めている会社は雑居ビルに入っていて、同じフロアには他に別会社が二つ入っている。エレベーターで別会社の良く顔合わせする男性と一緒になって少しだけ後悔していた。

 あー化粧直ししてからエレベーター乗れば良かった。いやでも化粧直ししてたら一緒に一階へ降りるって事は無かったか。日本人女性の平均身長より十センチメートルは高い私よりも頭半分は長身の彼はすっきりとした襟足までの短髪でほんの少し茶髪でしっかりとした肩幅の好青年。年齢は多分同年代。彼女の有無が気になるおひとり様歴三年以上の私。

 声かけようかな、一応同じフロアに入ってる会社の社員って事は向こうも認識している筈。不審者じゃないですよーってアピールしつつ、まずは天気の話でもとちらりと彼に視線を向けた時だった。がくんって凄い衝撃。口の中噛んだ、痛い!そう思った瞬間エレベーターの床が抜けた。


 で、気が付いた。今ここ。

 うん、良く考えても理解できない。

 そして床に座り込んでいるのは私だけ。彼の姿は無い。どうなってるんだ、これは。

「ようこそ、ファーウェーイルへ。神子様」

 周囲の人垣の中から一人男性が進み出て私に手を差し出す。

「神子……」

 え、噓でしょう?何それ。私の事を言っているんですかと自分を指させば、にっこりと男性は微笑む。ローブの肩口をさらっと癖のない銀髪が流れる、瞳の色は薄い水色。周囲にじじい多いので若く感じる。でも青年だと思う。

 神子って言葉にびっくりだけど、その前のファーウェーイル?何それ、そんな地域の名前聞いたことない、この場所の事を言ってるんだよね?まさかと思うけど異世界とかって奴?うわファンタジー。

「私は会社から家に戻る途中で間違ってここに来ているんですけど、戻る方法分かります?」

「いいえ、神子様間違いではございません。貴方様はこのファーウェーイル王国の守護神リーファラナ様の思し召しにより神の奇跡を体現するために降臨されたのです。今我が国は大変な危機に陥っております、助けてください神子様」

「はあ?何言ってんの?勝手な事言ってんじゃないわよ!」

 ちょっとむかっとして私は起き上がった。仁王立ちになって相手を睨みつける。

 だってオカシイでしょ、この主張。

 関係無いよね?神様の名前だって聞いたことないし。それに私は新年は神社に参拝するけど、家族親族のお葬式はお寺で行うしクリスマスだってお祝いしちゃうような典型的な日本人。神子だなんて有り得ないでしょ!


「神子様はお疲れだ、お部屋へ案内しろ」

 ざざっと足を進めて二人の男が傍に寄ってきて私を担ぐ。一人は私の両脇に腕を回しもう一人は足首をつかんで、えっちらおっちら運ぶ。

 どういう事よ!この運び方は!

 スカート!スカートなんだよこっちは!そりゃ80デニールの黒タイツ履いていますから下着は見えないだろうと思う。だろうとは思うけどうら若き乙女の運び方としてどうなんだ!まだ肩に担ぎあげられ俵運びのようにされる方がましだ!横抱きの所謂お姫様だっことかって奴にしろって贅沢は言わない。見知らぬヤロウにお姫様抱っこも気持ち悪いし。でもこの担ぎ方は無い!あんたらが勝手に召喚だかなんだかして私はこの変な所に呼んだんでしょ?神様とやらでて来い!


 運ばれた先は白を基調とした部屋だった。しかし窓が無い!部屋の中央に天蓋付きベッドがどん!小さいテーブルに椅子一つ。以上!

 どういう事よこの部屋。娯楽が何も無いにしてもクローゼットとか本棚とか、ソファーセットとかなんかあっても良いでしょう?良く分からないけど十二畳はありそうなスペースにキングサイズのベッドが主張した部屋で。なんだよ私はこの部屋でごろごろ寝てれば良いのか?私を運んできた野郎は一応丁寧にベッドまで運んで乗せると頭を下げて出て行った。

 ベッドから降りて壁を確認する。扉が三つ。一つはトイレ。一見和式じゃなくて様式。便座横には水がめがあって水洗なのかな?って感じ。勿論水を流すためのレバーも無いし。柄杓で水汲んで流すのか、局部はそのため込んだ水で流すのか?ちょっと衛生的にどうなんだ、いつから汲み置きの水なんだ、紙は無いのか。匂いは臭くないのが救い。便座の下は暗闇でどこまで通じているか分からない穴だ、穴。

 もう一つはお風呂?バスタブっぽい陶器っぽい楕円の置物がどんと置いてある。蛇口も無いしここにも窓は無いし換気扇らしきものもない。カビは無いけどどうなっているんだろう。

 最後の一つは鍵がかかっている。さっきヤロウどもが出て行った扉。つまり外への出入り口。

 鍵かかっているって軟禁ですか。窓も無いそれなりに広い部屋で。


 いらいらとしながら部屋のどっかに外に通じる隠し扉でも無いかと探し回る。無駄だろうけど。でも不貞寝するのもなぁと思って。

 体感時間で三十分もしたころ扉をノックする音がして返事する前に開く。

 さっきの青年とその背後に中学生位の年代の男の子。ワゴンを押して入ってきて、どうやら食事のよう。でもどこへ配膳するのよと思ったら小さいテーブルに並べる。

 腕を組んで青年を睨みつけていたけど、涼しい顔してさぁどうぞと促す。お腹はとっくにぺこぺこだ。私はため息をついて椅子を引いて座った。

 湯気の立たないグリーンのスープ、全粒粉かな?って感じのパン、なにかは分からないけどステーキにミモザサラダ。食生活はあまりかけ離れた感じじゃないのはありがたい。青年少年はそのまま突っ立ったままだ。食べ辛い事この上ないけれどまずはスプーンをとってスープを一口。味はまぁまぁ。少し薄いけど、ド辛いとか甘いとか酸っぱいとかキテレツな味じゃないだけマシ。

 他のものもまぁ。これは!って味は無いけどまぁ贅沢は言うまい。熱々の味噌汁とあったかいご飯食べたいけど、無理だろうと半ば諦めている。


「神子にお願いと言うのはほかでもありません。我が国の次期王である第一王子との婚姻を結び、次代への血の継続をお願いしたいのです」

 ぶほっと食後のお茶を吹いた。

「はあ?その王子ってもしかしてあんた達のどっちか?」

 少年を指させば二人はふるふると頭を振る。

「お引き合わせは明日にでも改めまして。今日はゆっくりとなさってください。今から湯あみの準備を行います」

 青年はにっこり笑ってそう告げると視線で少年を促し、少年はさっきのバスタブのある部屋へと向かう。水音がしだしたのでびっくりして席を立ち、覗き込んでみるとなんと少年の両手から液体がじゃぼじゃぼと出ている。マーライオンの口から溢れる水のように。もう一人の少年は湯船にたまった水に手を突っ込み何やらぶつぶついっている。その呟き少年の手が真っ赤になって周囲の水が湯気を放ち始める。


 魔法?もしかして魔法なの?すごいすごい!

 私はしげしげと彼らを眺めた。いい感じでお湯がたまったら水出していた少年がにっこりと笑って私に近づき着ているジャケットに手をかけた。

「はあ?何脱がそうとしてんのよ!」

 ぴしゃっと少年の手を叩くとキラキラなお目々をぱちぱちと瞬き私を不思議そうに見つめる。

「神子様の世界では入浴は着衣のまま行うのですか?」

 青年が首を傾げて尋ねる。

「まさか、服は脱ぐわよ、裸で入るわよ、でも何で初対面の少年に服脱がされなくちゃならないのよ、セクハラよセクハラ!」

「セクハラとは何でしょう、しかし神子様を一人で入浴させる訳にもいきませんし。介助は必要でしょう?」

「この少年二人が私の入浴手伝いをするって?一人で出来るわよ!石鹸とシャンプーリンスタオルと着替えの準備してくれれば!」

「石鹸、シャンプーリンスとは何でしょう?」


 青年の言葉に私は首を傾げる。この世界では言葉が違うのだろうか?

「石鹸じゃなくても身体を洗ったり髪を洗ったりするためのモノ?洗剤……汚れ落としの何かってのは無いのかな?とにかく自分で出来るから、道具とか貸して」

「神子様の世界ではそのようなものがあるのですね。こちらでは”清潔”の力を持ったものがお身体を撫でることで汚れを落とします」

「身体を撫でる?」

 私はめまいを感じた。

 つまりはこの少年がその力を持っていて、私の身体を撫でまわして汚れを落としますよと待ち構えている訳だ。

 ははははは。

 もう、笑うしかない。

「お湯があるから私一人でなんとかするから!何であんたたちにすっぽんぽん晒さないといけないのよ!」

「神子様にそのような真似をさせる訳には」

「いやいや、何言ってんの?あんたたち可笑しいわよ、じゃあせめて女性は居ないの?おばちゃんとかさ、それなら介助して貰うから!」


 そう言うと青年はさっと顔を青ざめさせるとじわっと涙を浮かべはらはらと泣き始めた。

 なんでこうなった。

 見ると少年たちも俯いてじんわり涙を浮かべている。

「おばちゃんとは年配の女性の事ですよね。神子様の世界では普通にそのような方々がいらっしゃるんですね」

「え、ここおばちゃん居ないの?」

「はい、我が国では……いえこの世界では女性はほぼ居ません」

「え?」

 衝撃発言。何ここにいたら女性は早死にしちゃう訳?


「そこからは私の方で説明しよう」

 良く響く低音の声が聞こえて青年の向こうに部屋の中央に立つ人影が見えた。

「あ!」

「第一王子!」

「え?第一王子?」

 黒に近い深紅のマントを羽織った美丈夫、その人はエレベーターで一緒だった彼だった。

 無事だったんだ、同じ世界に呼ばれちゃったんだと思ったのと同時に第一王子って言葉がひっかかる。

「あなた、この世界の人だったの?」

「巻き込んでしまって申し訳ない。私は女性が生まれなくなったこの世界を救うため界渡りを行っていたのだ。そして貴方の居た世界から自分の世界へ戻る際に貴方を巻き込んでしまった」

「あ、じゃあ神子とかっていうのは間違い?」

「間違いとも間違いでは無いとも言える」

 彼の言葉に私は首を傾げる。

 それよかこの部屋出て行こうよ。湯気で湿度が凄いし。風呂場に人間五人が並ぶのは狭いし。


 少年が王子の分と私とにお茶を入れてくれる。そしてどっかから椅子を一つ持ってきて王子が座った。青年と少年は立ったままだ。どうせなら椅子持ってくれば良いのに。王子が居るんだからここって王宮よね?まさか椅子が貴重品で数が無い世界じゃないよね?

「実はこの世界では女性は異世界の女性しか産むことは出来ない」

「え、じゃあ男性はどうやって増えているの?」

「もちろん男女の間に設けられる。異世界の女性が王家の者と結ばれ王女を産み、その王女はこの世界の者と結ばれ男を産む。そうやってしか人口は増えない」

「えー効率悪いっていうかじゃあ人口減少待ったなしじゃないの」

「その通り、異世界から迎えた女性は生涯で産む女児の数はせいぜい百人でな」

「は?」


 百人って何それ、女の事出産マシーンとでも思っているんじゃないでしょうね、そんな数産める訳ないでしょう?思わず叫ぼうとした私に手を翳し、彼は分かっているという風に頷いた。

「まず君の世界とこちらの世界の出産は随分と異なるということがある。胎児ではなく卵で出産となるんだ。君の世界、地球だったか?そこで数年私も過ごしたが、随分と異なるものだと驚いた」

「卵!」

 そりゃ凄い違いだな。本当に驚きだ。ほんと、異世界なんだなってじわじわ実感してきた。

「地球人であっても卵で出産なの?」

「今までどんな異世界から迎えた女性であろうと全て卵で出産してきたようだ。中には細胞分裂で人口を増やすと言われる世界の女性も卵を産んだので間違いは無いと思う」

「どうなっているんだ、それ」

「神の思し召しでしょうねぇ」

「あんたは黙ってて、私はこのオージサマに聞いてるんだから」

 青年の発言をぴしゃっと跳ねつける。

 まだ彼に説明してもらった方が私の世界を、地球を知っているだけ理解が及ぶ言葉を選んでくれそうだ。


「で、私が神子だって言うのが間違いでもあり間違いでもないってのは、どう言う意味?」

「逆ハーレムと言うものを知っているだろうか」

「はあ?あぁまぁ物語の一つのエッセンスよね」

 いきなり逆ハーレムときてびっくりだ。何回吃驚すればいいんだろう。

「貴方は逆ハーレムは好きだろうか」

 彼に視線を向ける。真剣な表情をしている。与太話ではなさそうだ。じゃあ私も雑談じゃなくてきちんと答えるべき?

「正直何が良いのか分からない、私ハーレムも逆ハーレムも好きじゃないし」

「やはりな」

 彼はため息を一つついてお茶を飲み干しカップをテーブルに置く。

「数日かかると思うが場を整えるので貴方を地球に戻そうと思う。ここで神子として在ると言うことはつまりは逆ハーレムを希望する女性しか耐性は無い」

「第一王子!せっかくの神子の降臨なのですよ?」

 青年が焦ったように彼の肩に手を触れようとして睨まれて動きを止める。

 私は彼に更なる説明を求めた。


「この国には王子が三人居る。貴方はまず私との間に卵を産んだ後、弟二人とそれぞれ。それが終わったら隣の国の王家の男性との間に卵を産んでもらう。それが臣下の者共の考えだ。勿論我々は貴方を大切に扱うし出来る限りの贅をお約束しよう。しかし実態としては次々番う男との間に子をなして貰う事が大半の生活だ。貴方はそれを喜べない、そうであろう?」

 そりゃ勿論だ。

 私は一番愛しい相手と愛を育んでそして子供を授かりたい。

 この世界の価値観は受け入れがたい。

 逆ハーレムに狂喜乱舞出来るような子なら平気なの?いや理解できないだけでそんな生活OKって人がいるかもしれないって可能性を全否定は出来ないけど、私には無理だわー。

「ありがとう、正直に教えてくれて、数日我慢すれば地球に帰れるんですね」

「約束する、界渡りは確立した技術なので問題なく送れる筈だ、ただ数日の誤差が出る可能性があるがそれは許して欲しい」

 彼の真剣な表情に私は頷く。

 地球に帰れるんだから、それで良しとしようと思った。

 余りにも価値観が違っているせいで私はこの異世界酔いっていうか疲れていたのだと思う。

 ほんのり気になっていた彼にアプローチしてなくて良かったなってしんみりしながら、お考え直しをとか喚く青年を連れて部屋を出ていく彼の背中を眺めた。





「一週間行方不明になっていた理由がそれ?」

 みかんの白いすじを一生懸命取りながら母上さまがちらっと私を見る。

 一週間。

 私は会社を無断欠勤し、連絡を受けた両親を心配させていた。一人暮らしのアパートを引き払うべきか悩んでいた母親の目の前にどこからともなく表れた私にびっくりした母親の第一声は「おかえりなさい」だった。わが母親ながら肝っ玉母さんだ。

「会社、上司がねちねちうるさくて、多分クビになる」

「良いんじゃない?あんた田舎帰ってきたら?お父さん喜ぶわよ。サービス残業っていうの?結構多かったんでしょ」

 正直に異世界の話を母にはした。母は本気に取っているのかどうか不明だけど、現実的な話を私にする。

 復帰した会社ではもともと煩かった上司が毎日嫌味の嵐で辟易していたので、自主退社もありだなぁって思っている。

 会社のエレベーターが怖くて、毎日七階の会社事務所まで階段を使うのもキツクなっているのが理由の大半だったりするけれど。


「その送り返してくれた王子様」

「ん?」

「今頃条件ぴったりの女性ゲット出来てると良いわねぇ」

 母がみかんを二つに割って片割れを私にくれながら微笑んだ。

 そうだなぁ、私は無理だけど、その条件バッチコイな彼女があの世界に行ってくれると良いねぇと呟いてみかんを口に入れた。

 みかんはとても甘くて瑞々しかった。




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― 新着の感想 ―
[良い点] いつものエッセイかと思ったら、違いました。 でも通常運転な感じで面白かったです(微ダーク感とか)。 [気になる点] 逆ハー物というか一方の性が生まれない世界、女>>男はノクターンで人気設定…
[良い点] この小説を読んでみかんが食べたくなりました
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